281.託された想い
※加筆修正を行いました。
その頃ラルグの塔付近では新たな戦闘が開始されていた。
大魔王ヌーは『概念跳躍』の『魔法』を使う事の出来る『魔王』レアと、大魔王『ユファ』の二人をこの場で始末する為に、レインドリヒから魔力を奪取するのであった。
そしてそのヌーを追って『力の魔神』がこの場に転移してきたが、ヌーの魔瞳の洗脳により大魔王ヴァルテンが魔神の相手を行っている。
「この屑の魔力では大した魔法は使えそうにはないが、まぁ貴様ら程度を葬る事なら十分事足りるだろう」
にやにやと笑いながら、レアとユファを見てそう告げた。
――レアはすでに我慢の限界であった。
目の前で倒れているレインドリヒは、自分を庇って死んだようなもので、そしてそのレインドリヒをやった相手が自分の親愛なる主を壊した張本人だったのである。
そんな復讐の相手が目の前でにやにやと笑っているのだ。レアにしてみれば、決して許せる事ではない。
そしてユファもまた、レインドリヒから同じ世界の同胞であるレアに対する気持ちを聞かされており、何とかしてあげたいという彼に対する感情を抱いていた。
「レア? 貴方は魔力が少なすぎる。ここは下がっていなさい!」
ユファが今にも飛びかかろうとするレアにそう告げると、直ぐに返事が返ってきた。
「馬鹿な事を言わないでよねぇ! 大切な同胞をやられて黙ってみているくらいならせめてぇ!」
レアも先程のソフィとヌーの戦いを見ており、すでに勝つ事は考えてはいない。
だがそれでも、それでも自分の主と自分を守ってくれた同胞の為に、たった一撃でもいいからこの憎き敵に手痛い一撃をくれてやろうと生命力を込めた『凶炎』の準備をするのだった。
しかし対するヌーにとっては、目の前のレアとユファは何の障害とも思っていない。
ヌーがたとえ金色のオーラを纏わなくとも、この程度の戦力値の相手であれば何の問題もなく殺す事が可能なのである。
そんなヌーが今懸念を抱いているのは、背後にいるヴァルテンと対峙している魔神の存在である。
ヴァルテン程度の大魔王では、僅か数秒程しか持たないだろう。
いつ魔神がこちらに向けて攻撃をしてくるか分からない以上、彼女達をさっさと始末しなくてはいけない。
「悪いが時間がない。さっさと死んでもらう」
そう告げるとヌーは、レインドリヒから奪った魔力を行使して『魔法』を発動させるのだった。
――神域魔法、『邪解脱』。
ヌーの魔力から放たれた魔法で次々と『神格』を有する死神達が現世に現れると、一斉にユファとレアに向かっていく。
「貴方ぁ、確か補助系統の魔法が得意だったわよねぇ? 私の攻撃力を一時的でいいから、底上げしなさぁい!」
大声をあげながらレアはユファにそう伝えて、大空へ飛びあがり自分に死神を引き付ける。
「誰に命令しているのよ! 全く後輩魔王の癖に生意気ね!」
そう言いつつもレアに向けて、ユファは魔法で援護する。
――根源魔法、『滾る戦の要』。
ユファがそう叫ぶと、レアの身体が紅い光に包まれる。
「いっくわよぉ!! 丸焦げになりなさぁいっ!!」
この場に転移してきてから少しずつ魔力を回復していたレアは、全魔力を込めて足りない分は生命力を込めて、自らの持つ最大火力の魔法を放つのだった。
――神域魔法、『凶炎』。
そしてユファの『滾る戦の要』によって、更にその『凶炎』の威力は膨れ上がっていく。
ヌーの放った死神達が次々と燃え盛りながら苦しみ消えていく。そして勢いそのままに炎は、真っすぐにヌーに向かっていった。
「ええい、腹立たしい! 抵抗せずにさっさと死ねぇ!!」
――神域魔法、『闇の閃日』。
バチバチと音が鳴り響いた後、闇がレアの『凶炎』を飲み込みそのままレアごと葬り去ろうとする。
レアの放った『魔法』でさえも大陸を一瞬で焦土に変える程の『魔力』が込められていたが、大魔王『ヌー』の魔法の完成度は、そのレアのこれまでの経験が込められた『魔法』の完成度を複合的観点から省みてもその全てを超越してしまっている。
確かに『ヌー』の今放った魔法の魔力自体は、力の魔神によって本来の彼の魔力から放たれたわけではなく『レインドリヒ』から奪った彼にしては矮小な魔力でしかないモノであったが、それでも『闇の閃日』の『魔法』そのモノの完成度、放つ魔力が少ないというのであれば、その少ない魔力を最大限活かす為の魔力のコントロール――。
――更にはこれまでの幾千幾万と積んできた強者との戦いの経験をバックボーンに生み出された『絶対的な彼の持つ自信』。
ここが勝負所だと決めた瞬間に惜しみなく全てを注ぎこむ胆力は桁違いであった。
レアは全てを賭した自身の一撃が、相手の『ヌー』に届いていない事を即座に理解して、再び絶望感に表情を歪めた。
そしてそれと同時に今の自分では、この目の前に現れた憎き大魔王には全く歯が立たないと理解する――。
「こ、ここまで差があるなんて……っ! ご、ごめんなさいレインドリヒちゃん……、フルーフ様……!」
自らに迫るヌーの魔法を前に、そうぽつりと呟くレア。
――もう自分には何も残っていない。
騙された挙句に主の苦しみを晴らせずに全く関係のなかったソフィを巻き込み、そんな自分を庇い死んだレインドリヒの事を考えて、皆に謝罪をした後にレアは小さな身体を震わせながら涙を流すのだった。
しかしそんな脱力した姿を見せるレアの耳に先輩からの声が届いた。
「私にあんたを託したあいつの為に、アンタを死なせる訳にはいかないのよぉ!!」
青と紅の二色のオーラを纏い『金色の目』を発動しているユファは、泣きながら震えているレアの前に立ち自分の身体を盾にレアを守る。
「うわあああっっ!!」
……
……
……
――時は少しだけ遡る。
レインドリヒとの戦闘に負けたユファは、頼みを一つ聞く事になった。
「それで私は、何をさせられるのかしら?」
むすっとした顔でユファはレインドリヒに尋ねる。
「そんな嫌そうな顔をしないでくれ。俺から君に何かをするつもりはないさ」
ユファは首を傾げながら、その先の言葉を待つ。
「今の俺はね『ヴァルテン』という大魔王に『呪縛の血』を使われているんだ」
『呪縛の血』がどういう魔法かを知っているユファは、そのレインドリヒの言葉に眉を寄せた。
「レアに真実を告げると俺は死ぬんだ」
「最初から全ての詳細を私に話しなさい? そんな中途半端に伝えられても困るわよ……」
レインドリヒはユファのその言葉に笑う。
この災厄の大魔法使いは昔からそうだった。
(全く、頼りになる女だ)
レインドリヒはユファに組織の事やヴァルテンに騙されて、フルーフを壊した濡れ衣をソフィに被せられている事、その真相をレインドリヒの口からレアに伝えると、ヴァルテンにかけられた呪縛の血で魂を抜かれる事。その全てを包み隠さずユファに話した。
「……」
ユファは最後まで聞いた後、何かを考えている。
「俺はそれでもレアに真実を告げようと思うんだ」
その言葉にユファは驚きで目を丸くする。
「あ、あんたそれだとさ、ヴァルテンって奴に……」
ユファに向けて頷き口を開く。
「さて、ここからが君への頼みだ。俺が居なくなった後は君が代わりにレアを守ってあげて欲しい」
何も言えずにいるユファに続けてレインドリヒは言葉を紡ぐ。
「これは同じ世界の同胞である君にしか頼めないんだ。あいつの周りにいる配下の多くは『ヴァルテン』や大賢者の組織の連中が入り込んでいる。
真にレアの事を想ってやれるレパートの大魔王は、もう俺と君しかいないんだ」
「それが……、アンタの頼みなのね?」
ユファは溜息を吐いてそう口にする。
「ああ、その通りだ。ユファ」
ユファは一度だけ目を閉じて何かを考える。そして目を開けると笑みを浮かべて頷いた。
「仕方ないわね、引き受けてあげるわよ」
……
……
……
――神域『時』魔法、『次元防壁』。
ヌーの神域魔法をユファは同じく神域に到達する『時魔法』に分類される防御魔法で完全に防いでみせる。
金色状態の普段のヌーの魔法であっても『次元防壁』であれば防ぐ事を可能とするその『時魔法』は、レアを守るのに成功するのだった。
しかしヌーの攻撃は、それで終わりではなかった。
「貴様ら屑共のしぶとさだけは、認めているからな」
そういってヌーはニヤリと笑みを浮かべた。
そして再び同じ魔法がヌーから放たれていた。
――流石にユファは先程の一撃を防ぐのが精一杯だった。
(仕方ない、か)
小さく溜息を吐き、ユファは口を開く。
「レア? レパートの火はあんたに託したわよ?」
「え……?」
レアが背後を振り返るとユファは泣きそうにも、笑っているようにも見える表情を浮かべてレアを見ていた。
「あ、あんた……!?」
青と紅の二色のオーラを纏ったユファは、全魔力を賭してレアの周りに『魔力障壁』を展開させて、その前に立ちレアを庇いたち盾となる。
「最後くらいは感謝してよね?」
そういって儚げにレアの顔を見て笑い、レアを守る為にヌーの魔法に飲み込まれていくユファだった。
……
……
……
※レパートの世界のレアの先輩達が、自分達の後輩魔王であるレアを守る為に覚悟を決める回。
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