2293.過ぎ去った嵐の後に、更に波風を立てる者
ソフィが六阿狐との会話に安らぎを覚えていると、どうやら登録を終えた様子のヌーとイツキが、ソフィの表情と真逆と言えるような、気難しそうな顔を浮かべてこちらに向かって来るのだった。
「何かあったのか?」
不機嫌そうな表情を浮かべているヌーからは切り出し難いだろうと判断し、ソフィの方から声を掛けると大きく溜息を吐くヌーであった。
「ちっ! 窓口に居やがった職員の一人がよ、俺達がてめぇとはどういう関係なのかとか、いちいち登録と関係ねぇ質問ばっかりしてきやがったんだよ。こっちはさっさとギルド所属の登録を済ませようとしてるってのによ!」
「まぁ、ソフィ殿はこっちの世界でも有名なんだろ? それが突然にギルドに現れたかと思えば、俺達みてぇな新人冒険者を大量に連れてきたってんだから、気になるのも無理ねぇんじゃないか?」
どうやらトウジンのギルド職員に色々と訊かれた事で、ヌーはうんざりして気分を悪くした様子であった。
「ふむ……それは災難だったな。しかしアイゲン殿も傍に居たのだろう? あの者はシチョウの命令でここに来ている筈だ。その場に居れば間違いなく注意ぐらいはすると思うのだが……」
「いや、そのアイゲンって女なら、あそこで別の冒険者共に注意を行っているぜ? 何やら冒険者同士で揉めてたみたいだからな。今も仲裁でもしてるんじゃないか?」
ヌーの代わりにイツキが視線をアイゲンの居る方に向けながら、ソフィにそう説明するのだった。
「なるほど……。そういう事であったか……」
ソフィは目の前で実際にアイゲンがトウジン魔国の冒険者と、この国以外のヴェルマー大陸出身らしき魔族の冒険者の双方に注意を行っているところを見て、何処か違和感を感じつつも納得しようと頷きかけた。
――だが、その違和感がソフィの中で唐突に膨れ上がっていく。
(揉めていた……? 我達がここに来てから冒険者達の荒げる声など、一度も聞こえてこなかったように思うが、ディアトロスと真剣に話を行っていたから、我達が気づかなかっただけか? しかしそれならばイリーガル達も気づく筈であろうし、あやつらならば、近くに揉めている者が居れば、口出しの一つぐらいはすると思うのだがな……?)
そう考えたソフィはちらりと視線をイリーガル達や、他の九大魔王の面々にも向けたが、誰もアイゲン達の方に視線を向けてはおらず、今も全く気に掛けている様子が感じられなかった。
「おい、どうかしたのかよ? 急に黙り込んだかと思えば、そんな風にきょろきょろと辺りを見回しやがってよ」
「む? いや、何でもない……」
ソフィは辺りを見回していたが、ヌーに声を掛けられると直ぐに何でもないと口にするのだった。
「まぁ、何にせよだ。ひとまずこれで今日の用事は全て片付いたな」
「ああ、何はともあれこれで全員が無事に『冒険者』となったわけだ。それに対抗戦にも出られるランクにまで上げてもらえたようだし、後は開催を知らされるのを待つのみとなったな」
ヌーやイツキ達が集い始めたのを見て、いつの間にか他の者達も全員がソフィの元に集まってきていたようで、ソフィの言葉にコクリと頷くのだった。
「……俺としては対抗戦が始まるより先に『終わらせるべき戦い』を終わらせておきたいんだがな」
ぽつりとそう呟くヌーの言葉は、ギルドの喧騒の中では消え入るような小さなものであったが、ソフィやイツキ、そして『ディアトロス』の耳に鮮明に届くのだった。
いつもであれば直ぐにソフィは反応を示してヌーに言葉を掛けるのだが、先程ディアトロスとこの話題で語り合った手前、刺激を与えるのを避ける意味もあり、さも聞こえなかったかのように無言を貫くのであった。
「ところでよ、お前はいつまでソフィ様の屋敷に居座るつもりなんだ?」
唐突にイリーガルは、ヌーの方を見てそう口にし始めるのだった。
ソフィも誰かが話の流れを変えてくれないかと期待していたところではあったが、更に空気が淀むような発言がイリーガルから飛び出した事で、思わず顔を顰めながらディアトロスと顔を見合わせてしまうソフィであった。
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