2291.大魔王ソフィの譲れない想い
「ソフィよ、実際のところだが、あのテアとかいう『死神』の『神格』はどれ程のものなのだ? 当然に『死神皇』には及ばぬのは承知の上じゃが、それなりに対抗が行える程度には動けるのか?」
ラルグ城の中庭で多くの死神達を動員させた事は理解しているディアトロスだが、幽世ではあの規模の動員を行える死神がそれなりに居る事も同時に理解している。つまり、ディアトロスがソフィに訊ねたい事とは、その規模の『死神』達の中であっても、テアという死神は『死神皇』に近しい領域の『死神』なのかと問いたわけである。
「確か『魔神』の翻訳で聞いた時は、テア殿は『死神貴族』の『公爵』と言っていたように思う。神格的には死神達の中では相当に『上』で間違いないだろうな」
「なるほど。それならば『死神皇』に対抗し得る可能性は一応は秘めておるというわけじゃな。何もあの若造にそのような大層な死神が契約をせぬとも良かろうに……、参ったのう」
これが『死神貴族』の中でも下から数えた方が早いぐらいの者であったなら、フルーフもそこまで難儀をする事なく、ヌーに勝利を収められただろうにと、残念そうな表情を浮かべたディアトロスであった。
それはディアトロスも『死神貴族』の『公爵』程の『神格』持ちであれば、ある程度は『死神皇』という死神界の王の座に君臨する者に、対抗し得る事が可能だろうという認識を持っている事に他ならなかった。
「何だ、ディアトロス? お主はフルーフに勝って欲しいと願っておるのか」
「当然じゃろう! お前は今更何を寝言をほざいておるんじゃ! お主こそ、あやつを……フルーフを一番に応援する立場の筈じゃろう? 少しばかりヌーの奴と一つの世界を共に過ごしておったからといって、そのように情に絆されてどうするのだ!?」
あくまで『結界』を張る冷静さを保ってはいるが、それでも先程までより感情を露わにして、ソフィを叱責するように怒鳴り声を上げるのだった。
「勘違いをするなよ、ディアトロス。我はフルーフを友とは考えておるが、配下のように扱おうとは思っておらぬ。あやつが望んだのは純粋にして、正々堂々と呼べる死闘なのだ。そしてヌーもまた、そのフルーフの揺るぎない覚悟を汲んだ上で相手となる事を承諾を行った。いわば、この戦いは両者の意地と矜持が懸った意義のある真剣勝負なのだぞ? 我もその神聖な勝負を尊く感じはするもどちらか一方の勝利を望むような、そんな肩入れの前提上のような行いをするつもりはない。あくまで対等な立場で傍観に徹するのみだ」
ディアトロスの激情とは異なり、あくまでソフィは冷静に五分の立場で戦いを見守ると口にするのだった。
「お主は昔からそうじゃったな。一度決めた事に梃子でも動かせぬ程の頑固者じゃ。ワシも今更お前を説き伏せられるとは思ってはおらぬが、それでもフルーフは百年、千年程度の短い仲ではないんじゃ。もう少し友に寄り添ってやればよいものを……」
「ディアトロスよ。我はフルーフを友と思っておるからこそ、傍観の立場を貫くのだ。そこを履き違えるなよ?」
「……」
最後は双方共に、無言で数秒間睨み合うのだった。
ソフィもディアトロスも『フルーフ』の事は、掛け替えのない友だと思っている。
接してきた期間も互いに長く、その間もずっと親しさを続けてきた事は間違いない。
だからこそディアトロスは『フルーフ』に対して仲間意識を強く持ち、そしてソフィは『フルーフ』に対して友として肩入れをするような真似を嫌った。
ここでも双方の『仲間』に対する思いと価値観が、互いに強く異なる場面として表れたのだった。
「ソフィよ、今一度言うが……お主は本当に昔から何も変わらぬな。確かにお主は庇護下に置いた者に対しては、誰よりも守ろうと動くが、自身が対等の立場と認めた者には冷酷なまでに傍観に徹する。よく知らぬ者が見れば、それはとても非情に映るじゃろうし、実際にワシは今に至ってもお主のそういうところを理解出来ぬよ」
ソフィを一番理解し、数千年という長き期間を共に過ごしてきた『配下』は、そこだけは理解出来ないとソフィを前にして断言するのだった。
「いくらお主と見解が異なろうと、我はこの一戦においては決着がどうであれ、双方に対して何かをするつもりはない。だが、この戦いを邪魔しようとする者が居れば、その時は誰であろうと我が排除する――」
――決して、誰にも邪魔をさせるつもりはない。
最後の言葉を発する瞬間だけは、大魔王ソフィは『完全なる大魔王』を果たした上で、ディアトロスに視線を合わせるのだった。
形態も通常のままで『三色併用』といったオーラもソフィは纏ってはいないが、ただその視線を向けただけで『ディアトロス』は息を吸う事も困難となる程の重圧を感じて、脂汗を額に浮かべながら苦しそうに顔を歪めるのだった。
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