2290.呪法の大魔王が持つ力
「ソフィ、少し良いか?」
ヒノエとイリーガルが展示用の斧を見て盛り上がっていた頃、そう言ってディアトロスがソフィに声を掛けてくるのだった。
「む? どうしたのだ」
「少しお主に聞いておきたい事があってな。出来ればあやつに聞かれぬところで話をしたい」
そう言ってディアトロスは視線をヌー達の居る窓口の方に向けるのだった。
「……成程、では続きは『念話』でするか?」
「いや、それはやめておいた方が無難かもしれぬ。あそこの隅の席に行くぞ。言葉の要所要所でワシが『結界』を張れば何とかなるじゃろうて」
「? その方が怪しまれると思うが。まぁ、お主がそうしたいのならそれでも良かろう」
ソフィは『それなら最初から念話を用いれば問題ないだろうに』と思ったが、ディアトロスの事だから何か理由があるのだろうと考えて頷くのであった。
そしてディアトロスが指定した場所へと移動すると、両者は同時に椅子に腰かけるのだった。
「最近は『念話』も昔のように安全ではなくなっておるのだ。本当に時代の移り変わりは、いつも唐突で困るものじゃな……」
ディアトロスはそう言って、物憂げな表情を浮かべた後に溜息を吐くのだった。
「ふむ……。しかし『念話』は相手との波長が合っていなければ、当人同士でも意思の疎通は難しい。そこに第三者が傍受を行おうとするのは相当に至難な事だと思うが」
どうやらソフィはまだ『念話』での会話が一番安全な手段だと思い込んでいる様子であり、ディアトロスの言葉に違和を感じ取ったようである。
「お主がノックスの世界から連れてきた『耶王美』殿だ。あの者はワシらがエヴィに『念話』を行おうとするのを横から強制的に解除を行いおる。そして二人の時間の邪魔をするなとばかりに『魔力圧』を放ってくるのだ」
そのディアトロスの表情を窺うに、実際に耶王美殿に手痛い一撃を食らわされたのだろうなと、ソフィは察して苦笑いを浮かべるのだった。
「まぁ、今はそんな話はどうでも良い。それでソフィよ、お主は今度のあやつらの一戦、正直に言ってどちらが勝つと見る?」
話の内容が切り替わると同時、ディアトロスは言葉の端口や、周りに聞かせたくない単語を口にする時に違和感がない程度に『結界』を用いて上手く消すのだった。
これでは直接話をしているソフィ以外には、いくら意識して会話を傍受しようとしても伝わらないだろう。まさにこういう事に慣れているディアトロスだからこそ、行う事を可能とする会話の隠蔽術であった。
「一対一の単純な戦いであれば、間違いなく『ヌー』が勝つだろう。最早そこに疑問を挟む余地さえないと我は見ておる」
「では今一度聞き直すが、フルーフが『死神皇』を使役した上で、あやつ自身の『呪法』を織り交ぜた場合はどうなる?」
「……」
一度目の質問の時は淀みなく瞬時に答えたソフィだが、今度の質問には少しだけ間を置き始める。
「ヌーの現在の『耐魔力』次第ではあるが、終盤にフルーフが『未來滅』を放つと考慮して、そこに『死神皇』の『魂操作』が上手く嵌れば、勝つのはフルーフだろうな……」
今度はフルーフの勝利の宣言を行ったソフィだが、一度目の『ヌー』が勝つと告げた時とは比べ物にならない程に険しい表情をしているのだった。
「『未來滅』……か。まぁ、三色併用の会得に至った今のヌーには『正攻法』では勝てぬじゃろうからな」
「ああ……」
二人が口を揃えて戦闘に於ける『戦力値』でフルーフに勝ち目はないと話をしながらも、それでも『魔』の概念理解度では圧倒的な差を誇る『フルーフ』の『呪法』が噛み合えば、戦闘の局面がひっくり返るだろうと、まさに断言に近い言葉の強さで表したのだった。
「だが、それでもだディアトロスよ。たとえフルーフが『未來滅』を使ったとしても、僅かながらにヌーの魂の消滅を防ぐ可能性は……残されておるぞ」
そのソフィの言葉を聞いたディアトロスは、苦笑いを浮かべて小さく溜息を吐くのだった。
「『未來滅』はその名の通り、その『呪法』の対象者の『未来』を消滅させる。当然に『死神皇』が傍に控えている以上は、万が一にもヌーの魂の無事は有り得ぬじゃろうて」
どうやらディアトロスは、ソフィの言葉を単に『希望的観測』と判断したようである。
「果たしてそれはどうかな? お主もレルバノンの城の中庭での光景は見たであろう?」
「む……!」
そこでようやく、ディアトロスにも『神格』を有する『死神』の存在が、常にヌーの傍に控えているのだという事を思い出して、視線をヌーに悟られぬようにこっそりと、ツインテールの桃色の髪の色をしている『テア』に向けるのだった。
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