2284.大魔王ディアトロスの懸念
ヌーの言葉によって『九大魔王』の面々と少しばかりの諍いが生じたが、ヒノエとイツキが間に入る形で止めた事によって、ひとまずは収まりがついたのであった。
そしてヌーの誘いに乗っかる形でイツキも『トウジン』の方の冒険者ギルドで登録を行う事となった。
当初の予定では、ソフィが誘った者達全員をレイズ魔国の『シティアス』の冒険者ギルドで登録させるつもりであった。
まだどういう形で催しが開催されるか不透明だったという事もあるが、それ以前に『大陸間ギルド対抗戦』という名目に囚われすぎて、ソフィは『ミールガルド大陸』と『ヴェルマー大陸』、つまり『魔族』と『人間』で分かれるものと捉えて考えてしまったのである。
これはすでに自分達が『魔族』だからこそ、ヴェルマー大陸の冒険者ギルドで登録をするのが普通だというある種、思い込みの判断が招いた結果であった。
その判断でも決して間違っているわけではないのだが、アレルバレル世界出身のソフィであっても、すでにこの世界の『魔族の大陸』に順応してしまっている表れだとも捉えられる。
この辺はまだ、ヌーが完全に『リラリオ』の世界に染まりきっていないからこそ、そういった物事の捉え方や見極め方の認識を柔軟に考えられているという事だろう。
そしてこの一連のやり取りを見て静観を貫いていた『ディアトロス』は、こっそりと訝しむようにヌーを見ていた。
今回のイツキの件に関してもヌーは、表向きは自分と同じようにイツキを『トウジン』の冒険者ギルドに登録させる事で対抗戦が面白くなるだろうと告げたが、実際には別の目論見がないとも言い切れなかったからである。
かつてヌーは『アレルバレル』の世界でソフィに次ぐ実力者にして、アレルバレルの『魔界』のあらゆる大陸を裏から支配しようと目論んでいた。
『魔界』の東西南北にある大陸の者達は、ソフィが完全に統治しているという認識で一致していたが、一部ではヌーの勢力や、人間達の大陸の裏側から徐々に支配を行っていた『煌聖の教団』の暗躍により、いつの間にかソフィの統治を裏から工作を行い、分かり辛いところで妨害が行われていたのも間違いなく、それが証拠に少しずつ影響を帯びてきた『人間界』では、かつて勇者マリスが告げていたように『ソフィという魔王が圧政を強いている』と口にした事からも、明確に影響を及ぼしていたとみられる。
その事は当然にも『人間界』にあるダイス王国の宰相を務めていたディアトロスの耳に入ってきていない筈もなく、いち早く『煌聖の教団』の狙いを突き止めてディアトロス側も色々と画策していたが、結局は完全に掌握しきる前に逆に『ミラ』達の手によって幽閉されてしまった過去を持つ。
すでにソフィはヌーに気を許し始めており、今回の件に関しても色々とヌーに対して便宜を図ったりしている。
当然にユファが考えたような、ソフィがヌーに『魔瞳』や『呪法』などによる洗脳が行われている筈はないと分かってはいるが、だからこそ正常な状態でヌーに信頼を持ち始めていると懸念を抱いていたのだった。
そしてそれは如実に表れており、ソフィの親友である筈の大魔王『フルーフ』に関しても、ソフィはヌーとの一戦に対して何も手を出すつもりはないと公言を行った。
たとえフルーフが消滅させられたとしても、ソフィは救いの手を差し伸べるどころか、その報復に関しても一切行うつもりがないというのである。
流石にソフィが手を出さないと決めた以上は、魔王軍や『九大魔王』、そしてディアトロスであっても、一切の手出し口出しが行えなくなるのだ。
魔王軍という組織全体の長であるソフィが決めた事に対して、その魔王軍の中に居る者が勝手な行動を取るわけには行かないからである。
ディアトロスはここまでソフィに信用をさせているヌーという魔族を恐ろしく思い、だからこそ何とかして排除しなければならない相手だと、誰にも打ち明けずに今も自分の心の中で思い続けているのであった。
(ヌーの奴がイツキ殿を抱え込もうと考えておるとしたら、これは非常に厄介な事じゃ。ワシらどころか、ソフィすらも姿を欺く『隠幕』とやらの魔法にしてもうそうじゃが、ワシの『慧眼』から省みてもこのイツキ殿は『魔』に関しても単に秀でているどころの話ではなく、近い将来にはシギン殿や神斗殿のような『魔』の境地に至ると考えられる。もしヌーがよからぬ企みを抱えておって、その企みに利用しようとイツキ殿を懐に納めようと考えているのであれば、これは今の内に何とかしておかねばならぬじゃろう。しかし阻止するのに一番重要なソフィ自身が、ヌーを信用してしまっている以上は表立って行動する事は難しい。何とかしてソフィの目を覚ます方法はないものじゃろうか……)
ディアトロスはヌーを信用するどころか、すでに裏切る前提で物事を考え進めているようであった。
確かにあらゆる可能性や方向性を考えるという意味では、ソフィの右腕としてもこれぐらい慎重なぐらいで丁度いいと言えるのだろうが、今回は少しばかりヌーに対して普段以上の懸念を抱いているようであった。
――そしてそれは間違いなく、旧友であるフルーフの『存在』が大いに関係していると言えるだろう。
「ふむ、ひとまずは『ヌー』と『イツキ』殿の両名を除き、他の面々はこの『シティアス』で冒険者登録を行うという事で良いな?」
ソフィがそう告げると、この場に居る全員が頷きを見せるのだった。
「ではディネガーよ、悪いがそういう事で頼む」
「は、はい! 間違いなく処理を進めておきます。それと冒険者証の発行についてですが、この人数ですし、少々通常の手続きとは異なりますので出来上がりまで少々お時間を頂く事になりますが、どうしましょう? このままギルドの方で待たれますか?」
「ん……いや、そうだな。後で我が全員分を受け取りに来るという事でも構わぬか? 先程も告げたと思うがこの後に『トウジン』の方の冒険者ギルドに向かう予定なのだ」
「分かりました。本日中にお越し頂けるのであれば、このまま直接私の方から皆様の分をお渡しさせて頂きますので、よろしくお願いします」
そう言って、恭しくソフィに頭を下げるディネガーであった。
「うむ、分かった。では悪いがよろしく頼む」
そう言ってソフィ達は『シティアス』にあるレイズ魔国の冒険者ギルドを後にするのだった。
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