2281.新たな期待感と、願ってもない事
しかしそんなディネガーの受難はまだ終わらなかった。
「でぃ、ディネガーギルド長! 大変です!」
「これ、今は緊急の用件以外は持って来るなと伝えておったろう……」
「その緊急の用件だから報告しているんですよ!」
「な、何?」
追い打ちをかけるように、今度はラルグ魔国の要人である『エルザ・ビデス』が、大勢の登録希望者を連れて窓口に現れたと職員から伝えられるディネガーであった。
「も、もしかしてですが、エルザ様がお連れになられた方々も何かご関係が……?」
ちらりとソフィの方を見ながらディネガーは訊ねる。
「ああ、そのようだ。例の『大陸間ギルド対抗戦』の件の事でな、我の配下達も冒険者ギルドに登録させようとしていたところなのだ」
「や、やはりそういう事でしたか……。という事はその方々も?」
「うむ……。今回も全員が魔王階級以上で間違いないな……」
ソフィの言葉に天井を仰ぎ見るディネガーであった。
「わ、分かりました。ひとまずはエルザ様をお待たせしていますので、窓口の方に向かわせて頂いてもよろしいですか?」
「ん……? ああ、それはもちろん構わぬのが……。しかしディネガーよ、エルザはこのギルドの副ギルド長の座に就いたのではなかったか?」
「え? ああ、そういえばソフィ様との連絡がつかずにいましたので、まだお話をしていませんでしたね……申し訳ありません。実はエルザ様はレルバノン魔国王の護衛部隊である『ナンバーズ』の教育を行うとの理由で、かなり前になりますが、すでにレイズ魔国の副ギルド長を辞任されておりまして……」
「何と、そうだったのか……」
少し前までノックスの世界に居た為、こちらのそういった情報が全く入っていないソフィは、初めてその事を聞かされるのであった。
…………
ソフィ達が試験部屋からギルドの窓口の方へと戻ると、直ぐにソフィの姿を見つけたエルザが嬉しそうな声を上げて近づいてくるのだった。
「もう来てたんだな! こっちもレルバノン様のご命令で彼らを連れて来たぞ!」
そう言ってエルザは、彼女の背後に居るイリーガル達に視線を向けるのだった。
「親分! それに……ヌーの奴も居るのか」
「ちっ……!」
ソフィの姿を見てエルザと同様に嬉しそうな表情を浮かべたイリーガルだったが、そのソフィの横に並んで立っていたヌーを目で捉えると不機嫌そうに眉を寄せるのだった。
そして当然にもそんな様子を見せるイリーガルに、ヌーも舌打ちで返すのだった。
「ちょっと、イリーガル様。今は止めて下さいよ? 我々にはギルドに所属するという大事な任務の最中なんですからね」
「分かっている。つい口に出てしまっただけだ」
「はぁ……。それが駄目なんですってば」
イリーガルをやんわりと窘めるエイネを見て、ソフィは笑みを浮かべるのだった。
「クックック、お主らも昔に比べると仲が良くなったものだな」
「こ、これはソフィ様、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません!」
エイネがソフィに挨拶を行うと、ブラストや他の『九大魔王』達も次々にソフィに頭を下げて挨拶を行うのであった。
そしてそんな面々を背後で見つめていたディアトロスもまた、ソフィに頭を下げるわけではないが、視線を送った後に軽く会釈を行うのだった。
「ふむ、試験を受けにきたのはお主らだけのようだな。シギン殿やサイヨウ達は元々参加するつもりはなかったようだが、エヴィやイツキ達は来なかったのだろうか?」
「はい、一応声を掛けたのですが、あの子……というよりも、耶王美殿に反対をされてしまいました」
「ふむ、そうか。出来れば多くの者に参加してもらいたいというのが本音ではあったが、まぁ無理強いするつもりまではないからな」
ソフィがそう告げた後、ほっとした表情を見せたエイネが何かを口にしようとした途端、誰も居ない場所から唐突に声が聞こえてくるのだった。
「アンタに無理強いするつもりはなくてもよ、こいつらはアンタに言われちまったら、逆らえねぇんじゃないのか?」
「むっ!」
「「えっ!?」」
この場に居る者達の驚いた表情と声が、一斉に重なるのだった。
「お主、またそのように隠れておったのか。相当に味を占めたようだな」
まだ声だけで姿だけは見せてはいないが、すでにこの声の正体がイツキだという事を悟ったソフィが溜息交じりにそう告げるのであった。
「へへっ、最初にアンタを驚かせた時の快感が忘れられなくてよ……と、まぁ冗談はさておき、俺は最初から冒険者ギルドって奴に登録するつもりだったぜ?」
どうやらイツキはここまで『隠幕』を使いながら、こっそりエイネ達についてここまで来ていたのだろう。
「む……?」
しかしソフィは直ぐに抱いた疑問を口にするのだった。
「お主らはこやつがここに来ていた事を知らなかったのか?」
「え、ええ……。お恥ずかしながら『魔力』すら感知する事が出来ませんでした」
「「……俺もです」」
「私もです」
どうやら『九大魔王』の面々全員が、イツキに気付く事が出来なかったようである。
「ではお主は、どうやってラルグからここレイズまで辿り着いたのだ? こっそりと服の裾を掴んで飛んできたのだろうか?」
流石に物理的に触られでもすれば、いくら『隠幕』を用いていたとしても気づける筈であり、そんな事は有り得ないだろうと思いつつもそう尋ねるソフィであった。
「アンタらが使っている『魔法』の『理』って奴は未だに理解出来てねぇが、効力そのものはもう何度も見たから既に理解済みだ。ただまぁ俺が使っているのは、元々のこの『魔法』が齎す効力の一部分を切り取って俺なりに使いやすく作り変えたモンだけどな」
――これこそが、ソフィが一番に疑問を抱いた部分でもあった。
ここに来るのに使った『魔法』は、これだけの人数を一気に飛ばした点を考慮しても、十中八九『高等移動呪文』で間違いない筈である。
そしてそれを使ったのは、この世界出身の魔族でこのレイズ魔国に何度も訪れている『エルザ』であろう。
一応は先にこの世界に来ていて、ずっとリーネの護衛を行っていたブラストが『高等移動呪文』を使った可能性もあるが、レルバノンの命令でエルザが遣わされた事を踏まえても、その可能性は非常に薄い筈である。
つまり、先程のイツキの言葉が本当であれば、エルザが使った『魔法』を瞬時にどういったモノかを見抜き、その上で『高等移動呪文』の特性である『一度訪れた事がある場所』の発動条件を度外視し、イツキが自分の思い通りに『魔法』を作り変えたという事になってしまうのである。
――もし、そんな事を本当に可能にしたのだとしたら、彼は『理』の理論を理解せぬままに、エルシスやシギン達のような、独自の『理』を生み出す事を実現し得る力を手にし始めたという事になる。
これが元々彼が備わっていた『力』であったのか、それともソフィといった本来は関わり合う事がなかった規格外の存在に出会い、一歩間違えれば殺されていたような経験を経て後天的に『開花』を果たしたのか、どちらにせよ『退魔組』の頭領補佐を務めていた時より間違いなく『魔』の概念の理解度を示していると言えており、ソフィはイツキに疑問を抱きつつも、彼に対しても、新たな期待感を募らせてしまうのであった。
そしてそんな事をソフィが考えていると、これまで口を挟むような真似をせず、ずっと事の成り行きを見守っていたディネガーが遂に口を開き始めるのだった。
「それでソフィ様……。ここにいらっしゃった方々の全員を『対抗戦』に出られるランクまで上げさせて頂いてもよろしいでしょうか……?」
そんな願ってもない事を突然に、ギルド長であるディネガーの方から告げられるソフィであった。
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