2280.ギルド所属を行う為の試験
ヒノエ達の担当となる試験官が『ネミア』というランクBの元冒険者に決まり、早速併設されている試験が行える部屋に案内されたソフィ達であった。
ここにはトウジン魔国のような『闘技場』のような場所ではなく、簡易的にロープが張られたリングがあるだけであった。
しかし当然にそれだけではなく、リングの四方にそれぞれギルド職員の魔族達が立っており、どうやらこの職員達が外側に影響を出さないように『結界』を施そうというのだろう。
流石はヴェルマー大陸の中でも特に『魔』の概念が進んでいるレイズ魔国だけはあり、他のヴェルマー大陸の冒険者ギルドよりも備えは万全といえそうであった。
――しかし、それはあくまで『最上位魔族』の枠組みの中での『万全』ではあるのだが。
そして先に試験官となるネミアがリングの上に上がり、ギルド試験を受けるヒノエ達を待ち受けるのだった。
この部屋には観客達の姿もなく、ソフィ達とディネガーを含めたギルド職員達だけであった。
今回、ギルド所属の試験を受けるのはソフィが連れてきた者達である為、ディネガーが気を利かしてくれたのかもしれない。
どうやらギルド側の準備は全て整ったようで、職員達の視線がヒノエ達に注がれ始めるのだった。
「さて、それじゃどっちからやる?」
「私はどちらでも構いませんけど、ヒノエからやりますか?」
「んーそうだなぁ……。別に私もどっちが先でもいいんだが、この前イリーガル殿とやり合った時に私の見定めが甘かったせいで、とんでもない惨状を生みだしちまったからな。ここでも同じ事をやるわけにもいかねぇから、先に六阿狐がやってくれねぇか? それを見て力の調整を行う事にするよ」
どうやら前回の反省を活かそうと言うのだろう。ヒノエは六阿狐に先を譲る事にしたのであった。
「分かりました、それでは私から行きます!」
六阿狐が力強くそう宣言すると、ディネガーは六阿狐に笑顔で頷いて見せる。
そしてゆっくりとした足取りで六阿狐はリングの上へと上がっていくのだった。
「貴方はしっかり言葉も喋る事が出来るみたいだけど、人間ってわけでもなさそうだし、でも私たちと同じ『魔族』ってわけじゃないのよね? もしかしてだけど、魔物だったりする……わけもないかぁ」
六阿狐の種族が分からなかったようで、ネミアは直接六阿狐に訊ねようとしたのだが、結局自分で言ってて有り得ないとばかりに自己完結するのだった。
「そうですね……。でもこの世界では『魔物』というのが、一番近いかもしれません」
返事を期待していなかったネミアだったが、あっさりとそう告げた六阿狐にぎょっとした表情を浮かべるのであった。
「え……? も、もしかしてだけどさ、貴方ソフィ様が生み出した『魔物』だったりする?」
ソフィの事を魔王だという事を知っている様子のネミアは、本当に六阿狐がソフィの生み出した『魔物』かもしれないと考えてそう訊ねる。
「いえ、そういうわけでもないのですが……」
「ふーん。どうやら訳アリって事か。まぁ、これ以上は詮索しないでおくよ。冒険者ってのは自由であるべきだしね」
流石に元冒険者だったというだけはあり、ネミアもこれ以上は深く追求するような真似をせずに、改めて『試験官』としての役割を果たそうとするのだった。
「それでは、これより試験を行いますが、ご準備は宜しいでしょうか?」
「はい!」
最後にリングに上がった職員が六阿狐にそう告げると、元気よく六阿狐は了承の言葉を口にするのだった。
「分かりました、それでは開始して下さい!」
審判の役割を務めるギルド職員の合図と共に、ネミアは構えを取り始める。
流石にミールガルド大陸の冒険者とは異なり、前衛も後衛も両方こなす事を可能と出来る魔族のようで、戦い方としては『最上位魔族』はあるだろうと思わせる程の力量者のようであった。
対する六阿狐の方は何の構えも取らず、ネミアに視線を向けるのみで動く事もしなかった。
「どうしたの? 手を出さないと試験にならな……」
ネミアが動こうとしない六阿狐に疑問を口にしようとしたが、最後まで言い切る前にそのまま眠るように意識を失うのだった。
「「!?」」
「え!? え、えっと……?」
突然倒れたネミアにギルド職員達が驚くのは無理もなかったが、仕掛けた側である筈の六阿狐も同様に驚くような素振りをみせた為、一体何が起きたのかとばかりに部屋に居る者達は混乱に包まれるのだった。
「こ、これは一体、ど、どうした事でしょう?」
思わずと言った様子でディネガーは、隣に居るソフィに訊ねるのだった。
「うむ……。どうやらネミア殿は、六阿狐に戦意を向けられた事で、その圧に耐えられなかったといったところだろう」
「ああ。こんなモンは、実力に差があり過ぎて勝負にすらならねぇよ。つかソフィ見てみろよ、アイツもまさか戦う意志を見せただけで相手が倒れたもんだから、自分でも何が起きたのか分からないって顔してやがるぜ?」
いつの間にかソフィの近くにまで移動してきていたヌーの言う通り、六阿狐自身もまさか戦う意志を見せただけで相手が倒れるとは思っていなかったようであり、何が起きたのかよく分かっていない様子なのであった。
「ディネガーよ、信じられぬだろうが、こやつが口にした事は間違ってはおらぬ。六阿狐もヒノエも『レルバノン』はおろか、龍族の始祖である『キーリ』よりも実力が上なのは間違いないのでな……。すまぬがもう合格にしてやってはくれぬだろうか?」
「!?」
ソフィの言葉にディネガーは、開いた口が塞がらないと言った様子で愕然としていた。
ネミアの実力はこのヴェルマー大陸の冒険者たちの中でも相当上位である事は間違いなく、ミールガルド大陸では間違いなく勲章ランクA程の力を有している筈だった。
しかしディネガーでは理解が及ばぬであろうが、六阿狐は『最上位魔族』どころか、その上の魔王階級より遥か上の『魔神級』であり、戦力値は兆を超える。
対してネミアはいくら強いといっても、それはあくまで『最上位魔族』の枠組みの中の話であり、六阿狐が実力のほんの一割でも出そうものなら、このようになるのは自明の理であった。
六阿狐が『漏出』といった相手の力を数値化出来る『魔法』等が使えなかった事や、戦う前にディネガーがネミアを実力者だと告げて担当官に選んだ事で六阿狐は、もしかすると目に見えないだけで本当は凄い力を隠し持っているのかもしれないと考えてしまった事が仇となり、本気とまではいかずともそれなりに戦う意志を見せてしまった事がこの結果に繋がってしまったようである。
「そ、そうですね……。これでは流石に……。あ、えっとソフィ様、そちらの人間の女性の方も六阿狐さんと同じくらい強いのでしょうか……」
「うむ。ヒノエ殿も間違いなくネミア殿より強いという事は間違いないな。それどころか、そこらに居る魔王が束になったところで、六阿狐やヒノエ殿が相手では数秒も持たぬと断言が出来る」
ヒノエの方も『大魔王最上位領域』に居るイリーガルを相手に、余裕を持ったまま勝てる実力があるのは間違いない為、このリラリオの魔族達はおろか、アレルバレルの『魔界』に居る大魔王連中達が相手でもどうにもならないだろう。
「ま、魔王!? あ、いや……えっと、そ、そうですか……」
ソフィの言葉を聞いたディネガーは、何と言っていいのか分からずに『もう勘弁して欲しい』と静かに胸中で呟くのだった。
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