2271.大魔王ヌーは、ソフィの言葉に感銘を受ける
自分の屋敷の庭でヌーと話を行っていたソフィだが、ヌーに何故寒くもないというのに上着を着ているのかと指摘され、その通りだとばかりに上着を脱いだ後、僅かな沈黙の後に再び両者は会話を行い始めるのだった。
「それでお主、身体の容体の方はどうなのだ? 『魔力』の回復に努めていた筈が、前回サイヨウの『式』であった『真鵺』とやらと戦いになったせいで、再び必要な『魔力』を著しく失った事だと思うのだが……」
「ああ……。そこらに居る雑魚共と戦うぐれぇなら、別段特に何も問題はないと思うんだがよ、神経を使わされるような大物が相手となると、用意周到に『魔力』を用意していても足りなくなるぐれぇだろうからな……。当分はまだ様子を見ておきたいといったところだな」
『魔力』というものは精神に左右される『魔』の根本の力であり、その大元の魔力自体を『変化の魔神』に枯渇させられた挙句、今回は『魔』の概念理解度が遥かにヌーを上回る『真鵺』によって、精神支配が行われてしまっており、普段のように単に寝る事で直ぐに回復するといった風には戻る事はなく、ヌーの精神を安定させる事が回復の一途を辿る上で一番の近道になるのであった。
「うむ、それが良いだろうな……。しかし我もお主がサイヨウと争いになるとは思わなかったのだ。お主の『魔力』が不安定な状態だと分かっておったというのに、そういう事もあるかもしれないと、想定しておく事が出来なかった事を謝罪しよう。すまなかったな」
ヌーはフルーフと戦うという大一番が控えている状況であり、それを理解していながらも多くの力を持つ者達が集っているラルグ魔国に、安易にヌーを連れて行った事に対して、少しばかり考えが足らなかったと謝罪を行ったソフィであった。
「そんな真似をするのはやめやがれや。ついて行くと決めたのも、鵺の野郎と戦う事にしたのも俺が自分の判断で行った事だ。サイヨウの野郎の言葉を借りるわけじゃねぇが、確かに俺はまだ身の程を弁えていなかった。ただそれだけの話だ」
そうソフィに向けて口にしたヌーだが、思いを言葉にした事で再び悔しさが蘇ってきたのだろう。奥歯を噛みしめながら、険しく眉を寄せ始めるのだった。
ソフィはヌーに再びそんな顔をさせてしまった事を後悔し始めると、咄嗟に口を開いてこれまでは告げるつもりがなかった言葉を口にしてしまうのであった。
「これはノックスの世界に居る時から思っていた事なのだがな。どうやらお主は心情的に非常に我と近いところがある。それは強さの面に於いて仲間が傷つけられた時に、平常時と比べて真価を発揮するという点だ。まぁ明確に我と違うところは、我の場合は少々冷静さを欠いてしまうところにあるのだが、お主の場合は逆に潜在的に秘めている部分を全面的に表に出して上手く扱うところにある。お主自身、今の我の言葉に思い当たる部分はないか?」
「仲間を傷つけられて……か。まぁ、確かに俺はいつもテアの身に何かあった時に色々と都合よく『力』を発揮出来ていたように感じるな。一番最初にそれを自覚したのは『三色併用』を扱う事が出来た時だったか……」
――そう、常にヌーがこれまでより明らかに強くなるに至る時は、仲間であるテアの身に何かあった時に関係しているのだった。
今彼自身が口にした通りに『三色併用』を扱うに至った時も、テアが『煌鴟梟』の人間であった『ヒロキ』に傷つけられた時であり、今回もサイヨウの捉術によってテアが長時間の再生を余儀なくされた時に、その眠っていた力を強引に解放させていたのであった。
当然、いきなり身につけられたというわけではなく、これまでヌー自身が自覚していなかった強さの部分が、テアを守る為に何とかしないといけないと考えて、目まぐるしく気づいていなかった部分をフル稼働させて活性化させるかの如くに自分自身の身体に訴えかけた事によって、潜在的に眠っていた力を一気に覚醒させる事で自覚が出来るようになったのである。
そのおかげで現在ヌーは、エヴィや神斗ですら至っていない『透過技法』の時空干渉領域にまで至ってみせていた。
「どうやらお主は自らの危険が迫った時よりも、仲間であるテア殿の身に何かあった時に本気になれるようだ。我の場合は仲間を傷つけられた時に、何を差し置いてもその脅威を取り除くために相手の完全消滅を目指すが故に、意識を外に向けて力を発揮するが、どうやらお主の場合は、その脅威に立ち向かう手立てとして、自身の内側に秘めている隠された力を全て解放出来るようだ。つまりはお主の場合は我とは異なり、有事の際に冷静に自分の出来る事を見つけられるようになるという事だな。まぁ、元々潜在的な力が眠っているからこそ、その力を目覚めさせられるというわけだが、お主には実はまだ隠されている力が多く眠っているのかもしれぬな」
――つまりソフィは、ヌーにこう言いたいわけである。
『お主がこれまで長期に渡って研鑽を続けてきた事の中には、まだ気づいていないだけで本当はもっと多くの事が出来るようになっているのではないか』――と。
「!?」
本来、こういった事も含めてソフィは、ヌーに助言を行うつもりはなかった。
もちろん親友であるフルーフとの一戦を前に、平等であろうとしていたという部分もあるが、それ以前に『ブラスト』達に対しても思い抱いている、自分自身の力で気づかせてやりたいという気持ちを多く有しているからに他ならない。
その理由として前回シギンや神斗がブラストに対して語ったように、自分で気づかずに他者からの助言や忠告によって、本来の『最善』となる力の身につけ方が、形を歪めてしまい兼ねないと懸念を抱いているからである。
「そんな可能性が、あるのか……?」
「あくまで我がそう感じているだけに過ぎぬがな。しかしこういった事に関して、我はあまり間違った事はない。考えてもみよ、お主はこれまで愚直に研鑽を数千年も続けてきたのだぞ? 目に見えている部分だけではなく、目には見えていない、または自覚が出来ていない部分ですでに開花を済ませている『力』が眠っているとは思わないか? 確かにそういったものに関しては、他者からの知識がなければ気づけない点も多くあるであろうし、テア殿のおかげで気づけた部分というのもまた、氷山の一角であることも否定は出来ぬだろう? まぁ、そう言った面も含めて、お主には我も期待しておるのだがな。その辺はお主が頼りにすると決めた『シギン』殿や『神斗』殿に相談してみる事だ。彼らであればお主の成長を妨げるような助言を行う事も少ないだろう。それでも我としては自分で見つけていってもらいたいという本音もあるのだが、まぁそれは我のエゴだな……」
最後の方は小声でぶつぶつと告げていて、ヌーにも何を言っているか聞き取れないほどだったが、それでも最初の方に告げられた言葉に、彼は感銘を受けるのだった。
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