2268.団欒の一幕
ヒノエがリビングのソフィ達の居る席に向かうと、すでにソフィとヌーは何か真剣そうな表情で会話を交わしている最中にあった。
ヒノエはいきなり二人の会話に割り込むような空気の読めない事をせず、ヌーの隣で二人の会話の邪魔にならない程度の大きさで口笛を吹きながら、子供のように椅子の上で足をブラブラと振っているテアに視線を向け始める。
何処から見ても人間の小さな子供にしか見えないテアのその愛らしい姿に、ヒノエは相手をしてあげたいと考えた様子であり、わざわざ椅子をテアの傍にまで動かして声を掛けるのだった。
「なぁなぁ、ちょっとお姉さんの相手をしてくれよっ!」
ぴゅいぴゅいと上機嫌に口笛を吹いて一人遊びを楽しんでいたテアは、いきなりにこやかな笑顔を向けながら近づいてきたヒノエにびっくりした様子で仰け反り、反射的にヌーに助けを求めるかのように腕を取って意識を無理やりに自分の方に向けるのだった。
「あ? どうしたよ、テア?」
「――」(ちょっと通訳頼むよ! この人間がいきなり声を掛けて来たんだけど、何言っているか分からないんだ!)
「おっと……、話の邪魔をして申し訳ねぇ。ちとテア殿と接したくなっちまってさ、別に言葉は通じなくても良かったんだが」
ヒノエが頭を掻きながらそう言って謝罪を行うと、ヌーは溜息を吐きながらテアの方に視線を向ける。
「こいつは別に言葉は通じなくても構わねぇから、お前と話がしたかったんだってよ。この女は悪い奴じゃねぇからよ、お前も身振り手振りで相手してやったらどうだ?」
そう言って再びソフィの方に顔を向け始めたヌーに、不満そうに口を尖らせたテアだったが、そんなテアの膝をちょいちょいっと指で突きながら更に距離を縮めるように身を乗り出した後、ヒノエは両手の手の平をテアに向けてくる。
「――」(な、何? 手を合わせたらいいの?)
テアはヒノエの意図が分からず、おっかなびっくりといった様子でヒノエの手に自分の手を合わせようと近づけていく。
そしてテアがヒノエの手にそっと触れた瞬間に、ヒノエは悪戯な笑みを浮かべながら、突然テアの両手を握り始めるのだった。
「――」(わぁっ!?)
突然凄い力でぎゅっと握りしめられたテアは、驚いて前のめりに倒れそうになる。
「おっと! 悪りぃ、悪りぃ!」
あはははと悪びれる様子もなく、ヒノエは椅子の上からずり落ちそうになったテアを胸で抱き留めてやるのだった。
そしてそのままヒノエは、抱擁する形で抱き留めたテアの頭を優しく撫で始める。
「何だかアンタ、ミスズ副総長の小さかった頃によく似てるんだよな。別に顔がとかそういうんじゃねぇんだが、雰囲気っていうか、普段はおっとりしているのに戦闘時になると、凄い剣幕で激しくなるところとかがさ」
どうやらラルグ城でサイヨウの使役した『式』に、ヌーがやられそうになって激昂したテアの時の事をヒノエは言っているのだろう。
何を言われているか分からないテアだが、自分を撫でるヒノエの手がとても優しく、心地良さすら感じた様子で彼女はされるがままとなるのだった。
「昔は副総長も今のアンタみたいに素直にこうして抱かれてくれてたんだがなぁ。立場が変わってからは一切隙を見せなくなっちまってさ、だからこうしてアンタを撫でていると、当時を思い出してさ……」
そう言って撫でながらもテアというよりは、過去のミスズを思い出している様子で、儚く笑みを浮かべるヒノエであった。
ヒノエの胸の中でされるがままに撫でられていたテアだが、そんなヒノエの自分を見ているようで他人を見ているような視線を目の当たりにすると、すっとテアも自分の手を伸ばして同じようにテアもヒノエの頭を撫で始めるのだった。
「!?」
「――」(……貴女、今にも泣きそうな顔してる。元の世界の仲間達を思い出して寂しくなっちゃったのか?)
ヒノエもまさか自分が撫でられると思っていなかったようで、思わず視線をいつの間にか自分達を眺めていたヌーの方に向けるのだった。
「……テアには、アンタが寂しそうに見えたんだとよ。元の世界の連中を思い出したのか?って訊いてるようだぜ」
「! こりゃ参ったな。可愛がろうとしたつもりが、逆に気を遣わせちまったか……。へへっ、ありがとよ!」
そう言って今度はヒノエがテアの頭を少し乱暴に撫で始めるのだった。
ヒノエの力強い手で撫でられたせいか、テアの桃色のツインテールがブンブンと揺れ始める。
「ふふっ、そらっ! わしゃわしゃわしゃ!」
「――」(わぁっ!? いきなり何するんだ! このぉ!)
慌てて離れようとするテアを離すまいとばかりにヒノエが強く抱きしめると、今度はテアがヒノエの頭を強く撫でまわし始める。
その両者の姿は、まるで姉妹でふざけ合っているように映るのだった。
…………
「クックック、仲が良さそうで何よりだ」
「ああ……。まぁ、な」
いつの間にかソフィとヌーは互いに話をするのを止めており、微笑ましそうにテア達の様子を眺めていたのだった。
(まぁ、悪くはねぇな……)
ヌーは相棒であるテアがヒノエに受け入れられている姿を見て、これまでとは違って何処か安心するように眺めている自分に気づき、何故そう思えたのかを理解せぬままではあったが、決してこの感情は嫌なモノではないと感じていたのであった。
……
……
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