2261.幸せそうな表情
「何だ? 思ったよりも感想の内容が薄いな。最初口に入れやがった時は相当な感動をしていやがった癖によ」
眉を寄せて何やら考え事をし始めたソフィを見て、先程の満足そうな表情から一変し、ヌーは不満そうにそう呟くのだった。
「む? いや、お主がその調味料の出所が『グラン』と言っていただろう? 実は我はその町の事をよく知っていてな。何を隠そうその町の冒険者ギルドに所属をしておった過去があるのだ。そしてその町の商人というのも、もしかすると先日我が再会を果たしたばかりの知人の『商会』かもしれぬと考えておったところなのだ」
ヌーが子供のように口を尖らせて不満そうな表情を浮かべていた事で、ソフィは仕方なく先程思案していた時の内容を説明するのだった。
「ああ、そういう事かよ。てっきり俺は『やっぱり我の口に合わぬな』とか言い出しやがるのかと思ってよ、食わせるんじゃなかったと思い始めたところだったぜ」
「クックック、安心するがよい。お主の紹介してくれたこの店もその調味料も、そしてこの魚にも我は大満足だ。よく連れて来てくれたな。改めて礼を言うぞ」
「そ、そうかよ……、ククククッ! そこまで言うなら仕方ねぇ。もっとかけてやる」
「い、いや、我はこれで構わぬ。刺身自体の味も楽しみたいのでな。しかしお主のその気持ちには感謝するぞ」
そう言って照れた笑みを浮かべながら、すでに充分にかけられている刺身の上から、さらに『ショーユ』をかけようとし始めるヌーに、慌ててソフィは制止するのだった。
「あ、それなら私にも『ショーユ』を試させてくれよっ!」
「わ、私にもお願いできますか?」
「ククククッ! 仕方ねぇ連中共だな」
「――」(こいつ、凄い上機嫌になりやがったな。まぁ、自分が気に入っているものを他者にも喜んでもらえたら嬉しいって気持ちは理解出来るけど、ちょっとは私の分も残しといてくれよ?)
「分かっている。ちゃんとお前の分は最初から取っておいてある」
少しだけ不安そうにしている様子のテアを安心させるようにそう告げると、ヒノエや六阿狐達にも適量の『ショーユ』を皿に分けていくヌーであった。
(ソフィ、私にもちょっと分けて)
残り少なくなっていく『ショーユ』を見たリーネは、これ以上ヌーに頼むのも申し訳ないと考えたのか、こっそりと椅子をソフィの方に移動させながら、小声でソフィにそう口にする彼女であった。
隣にやってきたリーネに、先程ヌーにぶちまけられて『ショーユ』まみれとなった刺身の皿から『ショーユ』を分け終えると、ソフィは改めて口を開いた。
「しかし『カーネリー商会』は作ったばかりの商会なのだと『おやじ』は言っていたが、早速このような品物まで取り扱っておるとは、やはり相当におやじは優秀だったようだな」
ソフィがそう言うと、近くでソフィの『ショーユ』の海と化している刺身皿を見て、どん引きしていたリーネも口を開き始めた。
「元々『おやじ』さんは、グランの町に来る前は有名な商人だったらしいからね。怪我の治療もあって一度は商売を諦めかけてたみたいだけど、また元気に商会を始めたみたいだし、良かったわね」
すでにソフィから『おやじ』と再会を果たした事も聞いていたリーネは、ソフィの気持ちを汲んだくれた様子でそう言ってくれるのだった。
「へぇ、坊主は『カーネリー商会』の会頭と知り合いなのか。そいつはすげぇな。色々と手広く商売を広げていってるみたいだし、他の商会と比べても勢いが違うからな。あっという間に『カーネリー商会』は有名になるだろうな」
ソフィ達以外の客が帰ったのを見届けた後、この店の店主もソフィ達の会話に入ってきてそう告げるのだった。
「『おやじ』は今後、ヴェルマー大陸でも商売するつもりだと口にしておったからな。確か別の大陸に移動して『カーネリー商会』として大々的に商売を行うには、商会の代表となる者の勲章ランクが『Aランク』になる必要があるらしいとも言っておったし、勲章ランクを上げるためにも手広く商売をする必要性を感じたのだろうな。しかしそれにしても、別の町で商売をしているとは言っておったが、まさかヌーの口から『おやじ』の話を聞く事になるとは思わなかったな」
「俺もてめぇの知り合いとは思わなかったぜ。実は俺達も『ショーユ』を個別に手に入れたいと考えたんだが、結局は『クッケ』に向かう事にして、そのまま例の野郎に『魔力枯渇』させられちまってな、調味料を手に入れる話はそのままになっちまってたんだ」
当時の事を話の中で思い出したようで、渋い表情を浮かべ始めながらそう口にするヌーであった。
「そういう事であったか。ふむ、では今度『おやじ』に会う時に『ショーユ』を少し分けてもらえないか訊いておいてやろう」
「ああ。頼んだ」
ソフィはヌーとの会話を終えた後、ふと視線をテーブルの方に向けると、そこには幸せそうに『ショーユ』をつけながら刺身を食べているリーネやテア達の姿があり、ソフィは再びヌーと顔を見合わせて笑みを浮かべ合うのであった。
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