2260.港町コーダの食事処、再び
まるで過去にヌーがリラリオの世界でソフィに戦争を仕掛けた時、彼が編み出した新魔法をソフィに披露した時のような言葉と表情を向けながら、この後の料理を楽しみにしろと彼は口にし始めたのだった。
そのヌーの態度を見たソフィ達は、彼が如何にこの後に出て来る料理に自信を持っているのだろうかと考えた後、思案の行く末に期待へと変わっていくのであった。
「クックック、そこまでハードルを上げても良いのか? 我も魚は好きな方だが、お主程に特別好物というわけでもないのだぞ?」
これがレグランの実であれば、ソフィも期待通りの反応を示せると確信を持てるが、ソフィが言うように魚が特別な好物というわけではない為、ヌーの期待する通りの反応が出来るか分からないと口にするのだった。
「ククククッ! まぁ、期待して待っていやがれ。間違いなく、てめぇらも感動する筈だ。断言してやるよ」
ソフィの念を押す言葉にも一切引くことなく、ヌーはそう言い切ってみせたのだった。
そしてそのヌーの言葉が合図だったかのように、店主が魚料理を運んでくるのだった。
「へいっ、お待ち!」
「「おお……!」」
皿に綺麗に盛り付けられた刺身は美しさも感じる程であり、その新鮮さと多さに面々は圧倒されるのだった。
「これはヌーの言う通り、相当に美味そうだな」
ソフィがそう口にすると、目を輝かせて店主が運んできた刺身の載った皿を見ていたヌーがふと我に返るのであった。
「まぁ、まずは素材のまま食ってみやがれ。新鮮さは俺が保証する」
そう言ってソフィ達に魚料理を食べるように促すヌーであった。
「では、早速頂きましょうか」
もう我慢できないとばかりに皆、刺身を食べ始めていく。そして口に含んだ瞬間に各々が、幸せそうな表情を浮かべ始めるのだった。
「うむ、これは確かに格別という他あるまい……!」
このコーダは港町という事もあり、初めて訪れた時から魚市場として強い印象を抱いていたソフィだったが、それでも実際に食べてみると、自分が想像していた以上の美味しさであった為、思わず舌鼓を打つのだった。
「本当に美味しいわね……!」
リーネも頬に手を当てながら、嬉しそうな表情を浮かべていた。
そんなソフィやリーネ達の様子を眺めていたヌーは、満足そうに頷いた後にカウンターの中に視線を送る。
すると先程の店主がヌーに頷きを返した後、再びソフィ達の席の前へと何やら手に持って現れるのだった。
「へいっ! ショーユお待ち!」
そう言って店主はヌーに、ソフィ達が見たことのない調味料らしきモノを渡し始めるのだった。
「む……? ヌーよ、それは一体何なのだ?」
そのソフィの質問を待っていたとばかりに、ヌーは徐に店主から渡された調味料をソフィ達に見せびらかすように掲げ始めた。
「これはな、お前らが食っている刺身を更に上手くさせる『ショーユ』っていう魔法のタレだ。想像を絶する味わいに、精々驚きやがれやっ!」
そう言ってヌーは何の遠慮もなしに、ソフィが食べていた刺身の皿に勝手に『ショーユ』をどばどばと流し込み始めていくのであった。
「むっ! お、おい、お主、何をするのだ……!」
「――」(す、すげぇ、コイツ……! 何の断りもなしに、ソフィさんが食べていた皿に勝手に『ショーユ』をぶちまけやがった!!)
「ククククッ! ふははははっ!」
何も悪びれる様子もなく、ソフィの刺身料理の魚の上に豪快に『ショーユ』をぶちまけたかと思えば、大魔王ヌーの邪悪な笑い声が店中に響き渡るのだった。
突然の出来事にソフィだけではなく、各々が食事の手を止めてヌーとソフィの皿を交互に見るのだった。
「お主、いったいどういうつもりなのかは分からぬが、まだ我は食べている最中だったのだぞ……! 何を考えておるのだ?」
どうやらヌーに悪戯をされたと思い込んだらしく、普段あまり見せない感情をヌーに見せたかと思えば、不満そうにそう口にするのだった。
「美味そうに食っていやがったからな。お前も魚料理が好きならこの調味料の素晴らしさを気に入る筈だ。さっさとそのタレを試してみやがれ!」
「ふむ……。お主がそこまで言うのであれば仕方あるまい」
どうやらヌーが単なる悪戯で行った行為ではないと判断したようで、ソフィは言われた通りに『ショーユ』がかかった刺身を口に運ぶのだった。
「むっ!」
刺身を口に含ませた瞬間、これまでに感じた事のない味覚が広がり、驚きにソフィは目を見開いくのだった。
「そ、ソフィさん? だ、大丈夫ですか!?」
「ちょっとソフィ、大丈夫なの?」
得体の知れない調味料がかかった魚料理を口に含ませた瞬間に、ソフィが普段見せた事のないような表情と驚きの声を出した事により、リーネと六阿狐は同時にソフィを心配する声を上げるのだった。
「これは……美味いな。口に入れた瞬間に嗅いだ事のない香りが広がり、呑み込んだ瞬間に衝撃が駆け抜けた。一体これは何なのだ?」
「ククククッ! そうだろう? これは『ショーユ』という調味料らしくてな。最近この町の近くにある『グラン』とかいう町の人間の商人共から店主が手に入れたモノらしい。そんでそいつら以外からはまだ入手方法がねぇらしくてよ、相当に貴重なモンのようだ。どうだ、俺がこの店に連れてきた理由を理解したか?」
説明を終えたヌーは、満足そうにしながらソフィにそう告げてくるのだった。
「あ、ああ……。確かにこれは素晴らしいものだがな……」
この『ショーユ』という調味料の出所が『グラン』とヌーから聞いたソフィは、更に美味くなった魚料理の旨さの感動よりも、少し前に再会した『露店のおやじ』の顔が思い浮かんだのであった。
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