2258.上機嫌な大魔王
ラルグ魔国城の中庭で仲間達に別れを告げた後、ソフィ達は『高等移動呪文』を用いてセグンスにある自分の屋敷へと戻って来るのだった。
そして屋敷庭に居たソフィの配下の魔物達は、直ぐにソフィやリーネ達が戻って来た事に気づくと、嬉しそうに駆け寄ってくるのであった。
「昼まではこの屋敷にいた筈なのにね、何だか随分と久しぶりに帰ってきた気分だわ」
出迎えてくれたベアやロード達と挨拶を交わした後、ふいにリーネはそんな事を口にし始めるのだった。
「クックック、短期間の間に色々とあったからであろうな。我も同じことを考えていた」
ソフィもリーネと同じように自分の元に駆け寄ってきたロード達を撫でながら、リーネの言葉に同意するのであった。
ラルグ魔国城でレルバノンと会話を交わした後、中庭でヌーとテアがサイヨウと揉めた事による仲裁を行ってみたり、イリーガルやヒノエの模擬戦の後、中庭に出来た大穴の修復に関して、偶然ラルグ魔国に姿を見せる事となったユファと相談を行ったり、更にはリディアやラルフ達とも実力を確かめ直したりと、短時間の間に色々と密度の濃い時間を過ごしてきた事が大いに関係していると言えるだろう。
「ソフィ殿、本当にお城の中庭の一件は、申し訳ねぇ事しちまった……。本当に面目ねぇ! この借りは必ず返すよ」
「クックック、もうその事はレルバノンとも話を付けたのだ。ユファも協力してくれるようであるし、そう何度も謝らなくてよいぞ? それにお主のおかげでイリーガルも一際やる気に満ちておったし、その事を考えれば逆に良かったと我は思っておる。まぁ、レルバノンや城の者達には悪い事をしてしまったがな」
戻ってきてからも謝罪を行うヒノエに、ソフィは冗談を交えながら気にするなと優しく諭すのだった。
「それにしてもヒノエって、本当に凄い強いんだね。ソフィや六阿狐から事前に話は聞いていたけれど、目の前で実際にあんな大穴をあけたところを見たら私も納得しちゃったよ」
すでにヒノエが元の居た世界で妖魔退魔師の組長をやっていたという話は聞いていたリーネだが、あんな光景を目の当たりにした事で、現実のものとして実感が湧いたようであった。
「まぁ、私はミスズ副総長みたいに頭が良いわけじゃねぇし、力を振るう事ぐれぇしかやれる事がないからさ」
リーネに褒められたことで照れたのか、謙遜するようにそんな事を口にするヒノエであった。
しかし実際にはヒノエは単に力自慢なだけではなく、ここ一番といった交渉の場では、非常に知恵が回る上に持ち前の度胸も相まって、非常に交渉事に長けている人物なのであった。当然その事を知っている者は、残念ながらこの場には居ないわけなのだが。
「おい、ソフィ。この後には早速ミールガルド大陸に向かおうと思うがよ、向かう連中はここに居る面子が全員でいいんだな?」
ソフィ達の会話を黙って聞いていたヌーは、ようやく会話が一段落したところを見計らい、何処かそわそわとしながらそんな事を訊ねてくるのだった。
「ああ、うむ……そうだな。本当であれば、お主が紹介すると言っていた、とびきりの料理とやらをブラストの奴にも食べさせてやりたかったところなのだがな」
ブラストはシギンと神斗から『魔』の概念を教わる為にラルグ城に残る事となり、現在はこの場には居ない。
これまでブラストが屋敷に残っていた理由とは、当然にソフィやリーネ達の護衛を務めたいという気持ちがあったからに他ならないが、その事に関して新たに『六阿狐』や『ヒノエ』がこの屋敷に来た事でブラストが無理に残る必要性もなくなり、これ以上の停滞を避けたいと考えたブラストはソフィに相談した後、オーラを会得するまではシギン達の元に残る事となったのである。
もちろん彼も『三色併用』を早く覚えて、直ぐにソフィの元に戻りたいと考えているのが本音ではあるのだが、ここで焦って中途半端な会得になる事だけは絶対に避けなければならないと思っており、戻るのであれば完璧だと自分で判断出来た時だと結論を下した様子であった。
ソフィもブラストに関してすでにシギンと話し合いは行っており、今後の事も頼んである。
本音を言えばシギンが最初にブラストに告げた通り、自分の力で会得して欲しいという気持ちがあったが、ブラストのこれ以上停滞を続けたくないという気持ちを理解して優先した形となった。
「ふんっ、安心しろ。アイツにも例の調味料が手に入った段階で食わせてやるつもりだ。まぁ、てめぇも色々と思うところはあるだろうがよ、奴も今『三色併用』を覚えるのに必死な状況だ。何せ、この俺に教えを乞おうとしたくれぇだからな。だからてめぇも奴の気持ちを今だけは汲んでやれ」
これまでもヌーが他者の気持ちを慮る場面を見てきたソフィだったが、まさか最近まで敵対していた筈のブラストにまでこのような発言をするとまでは思わなかったようで、大変に嬉しそうな笑みを浮かべた後に頷いて見せるのだった。
「ちっ、なんだその顔は。てめぇはまた何やら碌でもねぇ事を考えていそうだな……?」
自分を見てにやにやと笑っているソフィを見て、気に入らないとばかりに愚痴を零すヌーであった。
「クックック、そんな事はないぞ。お主の絶賛する魚料理とやらが、今から非常に楽しみだと思っただけだ」
ソフィは冗談を交えたつもりでそう口にしたのだが、ヌーはその言葉に気をよくしたようでこちらも満足そうな表情を浮かべ始めた。
「ああ、そういう事か。てめぇも驚くだろうぜ? 何せあの調味料は美味い魚料理を更に特別なモノに変えやがるからな。なぁ、テア!」
「――」(ああ。あれは確かにヤバイよな! 想像したら早く食べたくなってきちゃったよ)
「ククククッ! 気持ちは分かるぜ。 よーし、てめぇら、さっさと行くぞ!」
これ以上ない程に上機嫌となったヌーは、早く行くぞとばかりに急かし立てるのであった。
「ここまで楽しみにしておるこやつをこれ以上待たせるのも偲びないところだな。お主らも準備は良いだろうか?」
「ええ、私は良いわよ」
「ああ、私もだ!」
「私もです」
ソフィの言葉にリーネ達も直ぐに問題ないと返事をするのだった。
少し残念そうな表情を浮かべているのは、可愛がってもらおうと考えていた庭に居るハウンド達ぐらいだろうか。
「それではソフィ様。屋敷の警備は我々にお任せください」
ベアは悲しそうな顔をしているハウンドの頭に手を置いた後、ソフィにそう告げるのだった。
「うむ。ではすまぬが頼んだぞ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「「ワオーン!」」
ベアに慰められていたハウンド達も、最後にはソフィに行ってらっしゃいとばかりに声を上げるのだった。
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