2249.朱火の視線の意味
「そうか、お主らは遠くから試合を眺めておったから、あの魔瞳の効力の影響を受けなかったという事か」
ソフィの使った『全能の眼』の前段階である『時空の眼』は、目に映る視界そのものを神格を有する者達が通る道である『次元の狭間』の中のように、一時的に作り変える事の出来る『眼』の力である。
その効力範囲は当然に魔瞳が使われる視界一帯に限られる為、遠くから観察を行っていた『紅羽』たちには影響を受けなかったという事であった。
しかし直接影響は受けずとも、戦っていたリディアやラルフの様子に注目していたならば、如何にその魔瞳の効力が絶大であるかは見て取れる。
特に彼女達はサイヨウの命令で常に『リディア』や『ラルフ』達と手を合わせている間柄であり、どれぐらいの強さなのかというのは充分に理解している状態にある。そんな彼らが全くといっていい程に動けなくなり、されるがままにされているところをみれば、どれだけ強力なのかという事も窺い知れるというものである。
「まぁ我も今回初めて使ったものだからな……。これから完全に自分のモノにするまでには、相当の時間を要すると見た方が良いだろう。それに先程のような模擬戦で使う分にはいいが、命のやり取りを行うような実戦ではまだまだ何の役にも立たぬというのが現実だろうな」
ソフィの言う通り、この『時空の眼』と『全能の眼』は確かに凄まじい『力』を宿してはいるが、思い通りに使えなければ何の役にも立たない。それも相手が『王琳』クラスともなれば、相手を一時的に怯ませたり、博打を打つという意味合いでは一定の効果はあるかもしれないが、上手く嵌らなければ無用の長物に成り果ててしまう。
自在に操る事が可能となるまでは、なかったものとして使用しないほうが無難というわけであった。
「まぁ、確かに自分が信用出来ていない強力な武器程、扱いずれぇモンはねぇだろうな。なぁ? それだったらよ、試しに今私に使ってみてくれないか?」
「何?」
「……また面倒な事を言ってやがりますわね、この腐れ鬼人」
「おい、朱火……。その言い方はいい加減に止めろ。聞いてて気分が悪いんだよ」
「貴女の気分を害する為に口にしているのですから、気分悪くなるのは当たり前でしょう? 効果があったようで実に良かったですわ」
「ちっ、付き合いきれねぇ。な、それよりどうだ? 使ってみてくれないか?」
どうやら相当にソフィの魔瞳に興味深々なようで、紅羽は目を輝かせながらそう口にするのだった。
「ふむ、悪いが今は諦めてくれ。こやつらとの連戦で酷使しすぎて相当に目を痛めてしまったようなのだ」
「まぁ、確かに普通じゃなさそうだったモンな。仕方ねぇ、今は諦めるか。だがまた今度頼むぜ?」
「クックック、覚えていたらな」
ソフィがそう返すと、少しだけ不満そうな表情を浮かべる紅羽であった。
「あの、それでソフィ殿? と言ったかしら……?」
「む?」
堂々とソフィに声を掛ける紅羽とは異なり、何処かまだソフィに恐怖心を抱いている様子の朱火は、おずおずといった様子で声を掛けてくるのだった。
「耶王美に聞いたのですけれど、貴方は親父……いえ、お父様と実際に戦われたというのは本当ですの?」
「お主の父親……? ああ、王琳の事だろうか」
「え、ええ! 妖魔山の『結界別荘』の中で貴方と戦われて、お父様は完膚なきまでに敗北をしたと聞き及んでおります。それで、真の事なのでしょうか?」
「本当の事だ。しかし我が戦った中では、間違いなくあやつが一番強かったというのも事実だ」
「「!?」」
リディアは黙って少しだけむっとした表情を浮かべていたが、対照的に質問を行った朱火や、横で聞いていた紅羽はまたもや愕然とするような表情で驚いていた。
「そ、そうですか……。では、お父様の長年の願望は、貴方が叶えてくださったという事ですのね」
何処か遠い目をしながら、感慨深そうに溜息を吐く朱火であった。
「あやつと我は似た者同士でな。思想が近いとまでは流石に言えぬが、抱いていた願望に関しては我の抱いておるものと同一のモノであるという事は断言が出来た。だからこそ、あやつも我に敗北を喫した時、悔しさの言葉ではなく、我に対して謝罪を申して来たのだ。我に、願望を叶えてやれなくて済まない……とな。我はあやつからその言葉を聞いた時、あやつに感謝の気持ちを抱いたが、それ以上にあやつを羨ましく思ってしまった。これは我とあやつだけにしか伝わらぬ感情だろうが、背負い続けてきたどうする事も出来ない重く圧し掛かる荷物を遂に下ろす事が出来たのだ」
しみじみと語るソフィの目を見た朱火は、この目は知っている目だと直ぐに理解した。
――何故なら、その目こそがあの『最強の妖狐』と呼ばれていた王琳が、常に山の中で浮かべていた目だったからである。
「なるほど、確かに貴方は間違いなく、お父様と同一の存在のようです。最早、疑いようもありませんわね」
そう言ってソフィの心情を察すると共に、何処か同情めいた視線をソフィに向ける朱火であった。
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