2246.ラルフの恐るべき成長
リディアに次に戦うように指名されたラルフが改めてソフィの前に出て来ると、直ぐにソフィは口を開いた。
「ラルフよ、こうしてお主と直接手を合わせる事も久しぶりだな」
「ええ、ソフィ様。あれから少しでも成長出来たところ、この場で少しでもお見せ出来れば良いのですが……」
そう言うと自然な形でラルフは淡い『青』を纏い始める。
すでにラルフは今のサイヨウを師に向かえる前から、ユファの教えで『魔王領域』にまで辿り着けていた為に、こうして浅葱色の『青』を纏える事はソフィも重々理解していた。
(ノックスの世界に赴く前、確かこやつがサイヨウの『式』の妖魔と手合わせを行っていた頃に見せていた戦力値は30億前後だったか……。ふむ、あれからそこまで月日は経っておらぬ。数千年前に我の前に姿を見せたエイネぐらいと考えて、それに合わせてみるとするか)
ソフィはそう考えて形態変化を変えようとしたが、そこでラルフのオーラに異変が生じ始めたのを見て、オーラを纏おうとする魔力コントロールを止めるのだった。
何と目を閉じて自身の『魔力コントロール』に集中している様子のラルフが纏う『青』が、これまでの淡い青色ではなくなっていき、そのままくっきりとした鮮やかな『青』へと変貌を遂げていったからである。
「お主……!?」
何と少し前に『三色併用』を纏う為の準備段階として、シギンと神斗から新たな『青』を教わっていたブラストが纏っていた『天色』を飛び越えながら、ソフィの目の前でラルフは『青』の到達点と多くの者達が考える『瑠璃色』までを体現せしめたからであった。
単純な『戦力値』や『魔力値』に変化は生まれないが、単なる『浅葱色』の『青』と今のラルフが纏う『瑠璃色』の『青』では、戦闘に於けるあらゆる要素が激変してしまう。
――その最たるものこそが、相手の『魔』の概念技法に対する『耐魔力』であろう。
「お待たせしました、ソフィ様。それでは、手合わせをお願いします」
そうソフィに告げた後、これまでの主に向けていた目と異なり、暗殺者時代だった頃の冷酷な目に変貌を遂げるのだった。
(ほう……。こやつの今の目はユファが指導を行っていた時には見られなかった目だ。どうやらサイヨウの奴、単にこやつの『魔力』を伸ばしてやったり、技法を身につけさせるだけではなく、こやつ自身の特性を生かす気構えや、心構えといったものも教え込んでおったらしいな。しかしかつてのような暗殺者としての目だけではなく、手には『魔力』が込められておるようだ。この辺は我がノックスの世界で見てきた数多くの妖魔召士達のようだ)
「クックック、成程な。リディアが我にお主と早く戦えと告げた理由はこれか。では改めて方針を変えてお主との戦いも、リディアの時と同等程度まで『力』を開放しようではないか」
そう告げると同時、ソフィはリディアとの戦闘時より力を抑えようとしていた当初の方針から変更し、全く同じ『大魔王上位』となる戦力値数百億まで瞬時に高め終えるのだった。
「さぁ、来るがよい」
大魔王領域となったソフィがそう言うと、厳かな雰囲気が周囲に漂い始める。
この今のソフィの形態であっても、すでにかつて戦った始祖龍キーリや、魔王レアとの交戦時とは比較にもならない程の状態である。
ミールガルド大陸に居た頃のラルフでは、戦う以前にすでにこの状況に放り込まれた時点で意識を失っていた事だろう。
しかし、今のラルフは苦しそうな表情どころか、少しも大魔王形態となったソフィの姿に臆する事もなく、淡々と自分の戦闘スタイルを維持し続けるのであった。
「それでは、行かせて頂きます」
ラルフがそう静かに呟いた瞬間、ラルフの『青』のオーラとは異なる『魔力』に包まれたラルフが、一気にその場からソフィに向かっていく。
どうやら、その魔力が伴った『魔』の概念技法は、アレルバレルの世界の『理』にもある『魔法』である『妖精の施翼』を使ったのだろう。
非常に効果的に速度を高める事を可能とする『魔法』の影響によって、一気に速度を増したラルフがソフィの背後に回って『青』の形成付与が齎された手刀を後頭部に向けて振り下ろすのだった。
「クックック、大したものだな。その速度は確かにもう『大魔王上位』の領域と遜色がない程だ」
そう告げるソフィは、自身もラルフと同じ『大魔王上位』領域のまま『紅』で創成具現した、ラルフの本来の手に纏わせられている手刀より、数倍程の長さとなる手刀で受け止めてみせる。
チリチリと刃と刃が擦れ合う音が周囲に響いたかと思うと、そのまま刃上を滑らしていった後にお互いはその場から距離を取り始める。
一端後ろへと下がったラルフは、再び地を蹴ってソフィに向かってくる。
しかし、今度は自分の間合いにまで入れるつもりはないようで、ソフィは真正面から飛び込んでこようとするラルフに向けて手を翳し始める。
――超越魔法、『万物の爆発』。
ソフィは正面から切り込んでくるラルフに向けて、爆発を生じさせる『超越』の魔法を無詠唱で放った。
(『中位魔族』領域以下の者達であれば、今の我の『力』から放ったこの『万物の爆発』でも甚大なダメージを負わせられるであろうし、その上の『上位魔族』領域であれば煙幕代わりにはなるだろうが、今の大魔王領域の更に上位となるラルフにはその効果も得られぬだろうな。だが、それでいい。さぁ、どう動く?)
当然ソフィもこれで勝負をつけようと考えたわけではなく、ラルフの目的とする行動指針を狂わせる目的と、どう回避を行うかを見極めて、次の一手を模索する意味で放ったのだった。
――だが、ソフィの思惑から全て外れた行動をラルフは取ってみせるのだった。
何と避ける事もせず、そのままルートも変えずに真正面から向かい続けてくるのだった。
(何……? 被弾を無視してくるつもりか? 流石にそれは……)
当初、ソフィはそのラルフの行動結果に、ダメージを無視して向かうつもりかと考えたが、そこでソフィはラルフの手がこれまでの『青』の創成付与による色合いと異なる『魔力』が伴った色をしている事に気づく。
「ふむ。何らかの『魔』の概念技法を用いるつもりか――」
そしてラルフに直撃するかと思われた『万物の爆発』が効力を発揮するコンマ数秒前、ソフィの最後に思い至った通り、ラルフの両腕がソフィに向けて上げられた。
――僧全捉術、『返魔鏡面掌』。
「むっ!?」
着弾と同時にその場で大爆発を生じさせる筈の『万物の爆発』が、ラルフの『魔』の概念技法に触れた瞬間、予想していた爆発を引き起こす事なく、そのままソフィが放った時と、そっくりそのままの速度でソフィに向かって跳ね返ってくるのだった。
そしてそれだけではなく、ソフィのコントロールが完全に外れた事を窺わせる効果が、その『万物の爆発』から見て取れる。それこそがこの超越魔法を覆う『緑色』の光の正体であった。
(これは物質そのものを相手にそのまま返す効果に近いな。確か『ホーク』の奴が得意だったと記憶しているが、これはあやつの『反射』のようなもの……か?)
この『返魔鏡面掌』は、ノックスの世界に居た『ゲンロク』や『エイジ』に『イダラマ』、そして当然とも言えるが『シギン』や『サイヨウ』も扱う事を可能とする上位捉術の一つであり、相手の『魔』の概念を跳ね返す特性を持つ。
つまりソフィが考えた通り、完全に一致するものというわけではないが、物質反射という点では近しい効力の『概念技法』であった。
そっくりそのまま跳ね返された『万物の爆発』だが、ソフィは着弾する前にあっさりと、彼の金色に輝く目の『視線』だけで完全に『超越魔法』を掻き消してみせる。
しかしその時にはすでに、先程の迫って来ていた場所からラルフの姿が忽然と消え去っていた。
そしてそのラルフの『魔力』から探知を成功させたソフィは、その方向に居るラルフの方に向けて形成付与している腕を突き出す。
次の瞬間、ユファお得意の『技』を繰り出そうと、下から掬い上げるように突き上げていた掌底をソフィは何とか防ぐ事に成功する。
(重いな……。そしてあまりに動きが早すぎる。この速度は確実に『大魔王上位領域』に収まってはおらぬ。これはリディアの言う通り、こやつも速度だけならすでに『大魔王最上位』領域に遜色ないところまで、近づいておるのかもしれぬな)
そしてソフィがそんな事を考えている間にも、視界にいた筈のラルフの身体がブレて見えたかと思えば、あっさりと姿を完全に消し去ってみせるのだった。
(……背後か)
『青』のオーラで全身が覆われているラルフの両腕だけが『緑色』に発光しており、背後からソフィの動きを止めようと仕掛けてくる。
――僧全捉術、『動殺是決』。
(これは、イツキが我に放ったものと同一のものだな!)
あの時に直撃させられた記憶を鮮明に覚えていたソフィは、この『魔』の概念技法は侮れぬと判断して、確実に避けようと身を引く。
しかしソフィが躱そうとするのを見たラルフは、最初からこの瞬間に『放つつもりがなかった』、その『動殺是決』の緑色の光を消すと、そのままソフィが引いた場所に追い縋るように、そう、まるでタックルするかの如く突っ込んでくる。
「何……!?」
どうやらソフィが先程の『動殺是決』は、ラルフの誘いだったのだと気づいた時には、すでにそのラルフの術中に囚われてしまっていた。
それが証拠に唐突にラルフの目が『青色』に輝く――。
それこそは、ノックスの世界に居る『特別退魔士』でさえ、扱う事が不可能である『妖魔召士』だけが扱う魔瞳の代物である『青い目』であった。
何もない筈のところから『魔力』の波が押し寄せるかの如く、ソフィの動きを完全に封じようと『魔瞳』の脅威が襲い掛かる。
(――これは、まずい……!)
流石に『大魔王領域上位』のままでは、確実に動きを止められてしまうだろうと理解したソフィは、咄嗟に先程と同じく自身の目にも『力』を持たせてしまうのだった。
――魔瞳、『全能の眼』。
「!?」
ラルフは『青い目』の後、更に追撃を行おうと両腕に『動殺是決』の為の魔力を纏わせていたが、動きを封じたと思っていたソフィの目を見てしまい、まともに『全能の眼』の効力をその身に浴びてしまう。
次の瞬間、ラルフの『青い目』がソフィの『全能の眼』によって強引に解除されたかと思えば、その両腕の『魔力』ごとラルフの『全ての魔力』を強引に根こそぎ奪われてしまう。
「かっ……、はっ――!」
強制的に引き起こされる魔力枯渇によって、ラルフは自身の身体が脱力していく感覚と共に、魔力枯渇を引き起こした時の血の気が引いていく感覚を同時に覚えて、そのまま意識を遮断させられてしまうのだった。
「むっ、まずい……!」
先程とは異なる『まずい』の意味が込められた言葉を口にしながら、ソフィは無意識に放ってしまった『全能の眼』によって、魔力枯渇を引き起こしてしまい、どんな時であっても『必ず残さなくてはならない』少量すらの『魔力』も失った事により、間近に『死』が迫っている様子のラルフの元に慌てて駆け寄るのだった。
――神聖魔法、『救済』。
ラルフの意識が失われて数秒もせぬ内に、直ぐにソフィがラルフに『救済』を行った事により、何とか命に別状なく、無事に後遺症も残さずに事なきを得るのだった。
そしてそのまま模擬戦というには、少しばかり危険すぎるソフィとラルフの戦いの幕が閉じたのだった。
しかし唐突に終えてしまった戦いの結末だが、それでもソフィはこれ以上ない程に満たされた様子であり、改めてラルフの恐ろしい程までの成長ぶりを実感するのであった。
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