2206.妖魔ランク10同士による戦の駆け引き
「ではサイヨウよ、伝えるべき事は伝えたつもりだ。悪いがまた後でな」
「はい。ソフィ殿達に謝罪を伝えた後、必ず向かいますので」
その会話を最後に、シギンは手を上げてサイヨウ達から別れていった。
…………
「あいつらは?」
神斗達の動向を窺っていた一人であるリディアは、先程と同じように紅羽たちに『真鵺』達の事を尋ね始める。
「……ちょっと待て、私も驚いているんだ。おい、朱火! 何でここに神斗様と、あの卜部官兵衛の子孫がいやがるんだっ!?」
動揺を隠し切れない様子の紅羽と同様に、朱火もまた絶句した様子で目を丸くしながら神斗達を見ていたが、そこに紅羽から話し掛けられた事でようやく我に返る。
「知りませんよ……。すでに私達と『式』契約を果たすサイヨウ殿という妖魔召士が居る以上は、卜部官兵衛の子孫が居てもそこまでの驚きはありませんでしたが、流石に神斗様がこの世界に居るというのは、簡単に信じられる事ではありません。まさかとは思いますが、真鵺を追う為に人里を襲って転置宝玉を奪ったのでしょうか? いや、神斗様も悟獄丸様も私達がノックスの世界を離れるまでは、そのような素振りは一切見せなかった。そもそも今更神斗様が動く理由がない筈ですが」
「何を言っていやがる? さっきの神斗様と真鵺の野郎の一触即発の空気を見やがっただろう! それに神斗様のあの目は、あれは間違いなく『同胞』の仇を前にした時のような目だったぞ!?」
「ええ。あの目だけは貴女の言う通り、恨みがこもった目で間違いありませんでしたが。それに神斗様は真鵺には対決姿勢を崩していませんでしたが、人間である卜部官兵衛の子孫には気を許している様子でしたし、何が何だか分かりません。何故妖魔神の神斗様が、人間の、それも卜部官兵衛の子孫と行動を共にしているのか……」
「てめぇらが一体、何を言っていやがるのかはさっぱりだが。一つだけ分かっている事がある」
朱火と紅羽の会話を傍で聴いていたリディアは、そう言って割り込むように口を挟む。
「何だよ?」
リディアの突然の言葉に朱火は彼の方に視線を送り、紅羽は直接訊ねる。
「てめぇらの口にしていた奴らが誰だかは知らないが、間違いなく『ソフィ』が全員を連れて来たんだろうぜ」
「ええ、それは間違いないでしょうね。そもそもサイヨウさんとあの御方は同じ妖魔召士のようですし、あのように親しく話されていた以上はお知り合いなのでしょう? では、元々我が主とサイヨウさんが知り合いである以上、向かわれた世界でソフィ様があの御方と知り合う機会となり、この世界に連れてきたと見るのが自然なのではないでしょうか」
リディアの確信めいた発言の後、補足するようにラルフがそう告げると、朱火と紅羽互いに顔を見合わせる。
「これは私達も一度、憎僧の奴からしっかりと説明してもらった方が良いだろうな」
先程まであれ程までに騒がしかった中庭だが、現在は死神達も居なくなり、いつもの訓練を行う時のような静けさの中を取り戻していた。
そんな中庭に居るリディア達は、自分達の研鑽以上に、この世界にやってきた者達の事情の方を気になり始めるのだった。
…………
神斗達が引き上げていった後、サイヨウは隣に立つ自身の『式』である『真鵺』に話し掛ける。
「お主、小生との『式』契約によって『力』を制限されておる筈だろう? 何故その状況下で『二色の併用』を纏わせられておるのだ?」
神斗と言い争いを行った時、去り際に『力』を制限されている筈の『真鵺』が、神斗に対応する為に『二色の併用』を用いた時に、明らかに基本値から数倍の『魔力値』を示していた事をしっかりと言及するサイヨウだった。
「……ほう? サイヨウ殿程の妖魔召士であっても見抜けなかったか?」
「何?」
すると再び『真鵺』はサイヨウの目の前で『二色の併用』を纏い始める。
だが、今の冷静さを取り戻したサイヨウは、この真鵺が行っている『二色の併用』の効力が実際に伴っていないという事に気づくのだった。
「さっきのもブラフだった……のか?」
「当然だろう? いくら私程の『魔』の概念理解度であろうと、すでに世界全体に認知されている程の『理』で縛られた『魔』の概念によって、行われた契約を反故に出来る程の『力』は存在せぬ。それも縛られて『力』を出せなくなっている張本人である私が行える筈もなかろうが」
間違いなく『二色の併用』が用いられたように見えた『真鵺』のオーラだが、どうやらそれは単なる見た目だけであったようで、本当は契約の範疇にある『魔力』を用いた、それも練度が契約のギリギリまで抑えられた『青』だった。
「何という奴だ……。あんな殺気立った状態の妖魔神を目の前にして、勝ち目がないと分かっていてあんな煽りを行ったというのか! そ、それも、そんなブラフまで使いながら……」
「厳密には、制限されている事を隠し通すつもりで神斗を煽ったのだ。私が本来の力を全く出せないと分かれば、あやつは間違いなく今が好機だとばかりに襲ってきていたやもしれぬからな。あやつも私の『呪い』がいつまでも通じると思うなとか口にしていたが、見え見えのこんなブラフに騙されているようでは、付け入る隙はまだまだあると見て良さそうだ。その証拠に卜部官兵衛の子孫だけは直ぐに私の『オーラ』に気づいていたようだぞ?」
「し、シギン様がか……? い、いや、師ならば当然か……?」
そうは言うが、あんな殺伐とした空気の中に織り交ぜられたブラフ等、普段通り以上の冷静さを保っていなければ、まず間違いなく気づけない筈だろうと考えて、少しはシギンという妖魔召士に近づく事が出来たかもしれないと考えていたサイヨウは、やはりまだまだ師との差は開いているままなのだと、悔しそうに俯くのだった。
「しかしサイヨウ殿、このままでは本当にまずい。お主の『式』の間は大人しくすると誓うから、少し制限を緩めてくれぬか? いつまでも『こんな程度』の『力』では安心が出来ぬ……」
「それはシギン様や、ソフィ殿と話を行ってから決めさせてもらう」
「ちっ! 頭の固い奴だな」
直ぐには『力』の解放を許してはくれないだろうとは考えていたが、実際に拒否されると否が応にも反発心を抱いてしまう『真鵺』であった。
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