2205.かつて妖魔山で頂点に居た者同士の再会
「やれやれ、とんでもない事態を引き起こしたものだな?」
「し、シギン様……。いやはや、これは申し開きも出来ませぬ……」
現れたシギン達を見たサイヨウは、直ぐに頭を下げて謝罪をするのだった。
「謝罪を私にしても仕方なかろう……。しかしまぁ、お前にヌー殿を任せた私にも責任はある。それにひとまずはその件は置いておくとして、この騒ぎを収める事を優先せねばならないだろう。有難い事にすでにソフィ殿も動いてくれて、ヌー殿やテア殿達の方を納めてくれているようだ。後はお前達さえ矛を収めてくれれば助かるのだがな……?」
「分かっております。元はと言えば小生がやられそうになった事で、こやつを使役せざるを得なくなっただけでして、戦う必要性がなくなるのであれば、今直ぐにでも……」
「ふふふふっ、此度はまことに残念だった。お主らが余計な真似をせず、もう少し後から出てきてくれていれば、私も本来通りの『力』を取り戻せたものをな」
あまり残念そうに思っていないように感じられる声色で、現れたシギンと神斗を視線に捉えながら、真鵺はそう話し出すのだった。
「君が妖魔召士の『式』になって別世界に居た事には驚きだけど、力を制限させられると分かっていて、何故『妖魔山』から離れたのかな?」
「神斗、その話は事を収めて落ち着いてから、改めてゆっくりと話そうではないか。私も今はソフィ殿の顔を潰すわけにはいかぬのでな」
「……それもそうだね」
どうやら神斗も真鵺に対して色々と思うところはあるようだが、シギンの話す内容が正論だと認めた為か、直ぐに引き始めるように納得した様子を見せるのだった。
だが、シギンの言葉に大人しく引き下がろうとした神斗を見て、サイヨウの背後で『真鵺』が、嬉しそうに笑みを浮かべて口を開くのだった。
「おやおや、えらく従順になったものだ。たかが人間相手に、牙でも抜かれたか。滑稽なものだな、竜翼族の神童殿?」
「……」
シギンに後で話すようにと告げられた事で、この場を先に後にしようと背を向けて歩き出していた神斗は、真鵺に煽られてその場で足を止めるのだった。
「そっくりそのままお返しするよ、真鵺。姿が見えないと思ったら、こんなところにまで逃げ込んでいたなんて、とても驚きだったよ。卜部官兵衛に恐れをなして逃げ出した挙句に、そこに居る人間の妖魔召士に、頭を下げて『式』にしてもらって連れ出してもらったのかな。僕が滑稽だと言うのなら、君はとっても惨めだね」
「ははははっ!!」
神斗に滑稽だと言い放った真鵺は、その神斗に逆に惨めだと言い返された事で大笑いを始める。
確かに『神斗』と『真鵺』の傍には、互いにこれまで見下していた人間達の存在があり、そのどちらも現在はその人間達が『必要不可欠』な状態となっている。
かつては両者共に『妖魔山』で一目置かれていた彼らではあるが、確かに今の何も知らない妖魔山に居る妖魔達から見れば、今の彼らを滑稽で惨めだと思う者も居るかもしれない。
――だが。
「覚えておけよ、神斗。私には私の計画があって、自分の意志でここに来たのだ。そして必ずお前を呪い殺してやると、ここで改めて約束しよう」
「真鵺、残念な事だけど、時代は常に進んでいるんだ。いつまでも君程度の『呪い』で何でも思い通りになるとは思わない事だね」
互いにそう言い切った後、神斗も真鵺も『二色の併用』を纏いながら、互いに強い殺意を以て睨み合うのだった。
今の彼らを滑稽で惨めだと思えたとしても、それでも彼らは今でも妖魔ランク『10』である事には変わりがない。
片や、妖魔神であった竜翼族の神斗――。
片や、あの『煌阿』を上回る程の『魔』の概念理解者にして、その『鵺族』の始祖である真鵺――。
たとえ妖魔山の猛者たちが、この両者を陰で揶揄出来たとしても、現在の妖魔神にして『妖狐族』の王を除けば、誰も表立って口出し出来る相手ではないという事は、間違いないだろう――。
――そして気が付けば、この場に居る者達の大半が『神斗』と『真鵺』の動向を窺っているのだった。
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