2203.魔神の微笑
テアの命令によって死神達の多くが『幽世』へと戻り、今は何やら『アーテ』や『ナイトメア』達といった同じ死神貴族の仲間達と会話を交わしている様子のテアを尻目に、力の魔神はソフィに静かに声を掛けるのだった。
「――」(ソフィ、少し前に私があの子を『死神皇』にしたいと告げたのを覚えているかしら?」
「む? そう言えば、ノックスの世界でそんな事を言っていた気もするな」
見慣れぬ妖魔を従えているサイヨウの元に、シギンと神斗が説得に向かっていく姿を捉えながら、ソフィは魔神の言葉にそう返事を行う。
「――」(ええ、その事なのだけど。少しその話には続きがあってね? 私はテア……というより、次代の『死神界』を担う全ての死神達を今の内に手懐けておこうと考えているの)
「何……?」
突然に何の突拍子もなくそう告げた『力の魔神』に、流石のソフィも視線をシギン達から外して彼女に向けざるを得なくなるのだった。
「――」(今の幽世の『死神皇』……、貴方の友人の『魔族』と契約を交わしている死神はね、昔から頭が固くて秩序を重んじる面倒な堅物だったわ。私や他の魔神達、それに『上』を含めた神々に対して、死神皇は『上』に対して機嫌を損なわぬように話を合わせはするけど、これまで完全な言いなりになるような事はしなかった。言ってみれば、魂の取り扱いといった彼ら『死神』達の不可侵領域を私達に対しても認めさせてきたという事なわけね)
「ふむ……。お主ら魔神や『上』とやらに居る者達にある程度の協力体制は敷くが、内側での決め事に関しては『幽世』独自のやり方を主張しているというようなモノだろうか」
ソフィは『死神界』と呼んでも差し支えない現在の『幽世』と、自身が契約を行っている『魔神』達や、その『上』に居る神々とやらが集っている『天上界』にそこまで詳しくはない為、自分達の常識内で考えられる話を当てはめる形で魔神の話に合わせる。
「――」(ええ、その認識で間違っていないわ。我々『魔神』を含めた多くの神々に言える事だけど、長く生きている所為か、小さい事や細かい事に関しては寛容というか、大らかというか……。そうね、分かりやすく言い換えてしまえば、とんでもなく『いい加減』なのよ。貴方のような『超越者』に対しての『執行』を行う時以外は、基本的に何をしていても強く咎められる事はないしね。それで、当然に『天上界』は『幽世』に居る『死神』達に対しても普段何を行おうとも説明責任を強いることもなく、自分達に強い影響を及ぼす事がなければ、死神達が何を行おうと基本的には何も口出しはしない。だから下界で執行を行った『超越者』達の魂の扱いに関しても、洗浄を行った後の『転生』に関しても『天上界』というよりは、大半が『幽世』の代表たる『死神皇』の裁量に任せているの)
「ほう。それはつまり、我を『超越者』と呼んでいるお主らや『上』とやらに居る神々とやらは、我に対して『執行』を完了させた場合もまた、その魂の在り様をその時代の『死神皇』に任せるというわけか?」
ソフィはこれまで執行を終えた後の『超越者』の魂に関して、洗浄して再び現世に呼び戻すのではなく、完全に『無』となような消滅をしてきていると考えていた。
しかし今の『魔神』の話によれば、一度は『天上界』に居る『上』と呼ばれる者達に報告は行くが、その後の処置に関しては『幽世』の『死神皇』に丸投げしているようであった。
「――」(ええ、その認識で間違っていないわ。まぁでも貴方の場合は『特別』だろうから、他の『超越者』とは少し扱いは異なるでしょうけど、それでも『死神皇』に関与させる事は間違いない。さっきも言ったけど、魂の扱いに関して『幽世』は、その決定権を『天上界』に委ねる事はなく、自分達のモノだと主張し続けてきているしね)
それが先程現在の『死神皇』が堅物だと、力の魔神が告げた話に繋がるのだろう。
「なるほど……。しかし魔神よ、我はお主の話を聞いてずっと疑問に思っていた事があるのだが、実際のところ『幽世』は『天上界』に対してどの程度抗えるものなのだ? 我の個人的な認識なのだが、死神達がお主や『上』とやらに力で勝るとは思えぬのだが」
実際に『力の魔神』と激突し、その『魔神』を従えるに至ったソフィにしてみれば、同じく友人のフルーフが契約をしている『死神皇』が如何に強くとも、強さの次元そのものが『天上界』の存在とは異なっていると判断しているのだった。
これはソフィが自分の強さを過信しすぎていて、慢心しての発言というわけではない。
ソフィはあくまで感覚的に強さの物事を捉えているに過ぎないが、実際に『死神皇』や『テア』が敵意を見せたとしても、この目の前に居る『力の魔神』や、レキを監視する『変化の魔神』、そしてこの『魔神』達に命令を出す『上』の存在たちに太刀打ちが出来るとは、ソフィにはどうしても思えないのであった。
「――」(その認識も当然に間違ってはいないわよ。死神共が如何なる『魔』の概念技法を使用したとしても、我々『上位執行者』の力を保有する『魔神』はおろか、世界の敵となる存在の監視だけを行うような『執行者』以下の『魔神』にさえ太刀打ち出来ないでしょうね。もちろん我々を遥かに上回る『上』の代表たる『天上神』何て、そのご尊顔を拝するどころか、居ると認識する前に完全消滅させられるでしょうね)
これは彼女自身、力の魔神に執行命令を下したであろう『上』の存在の事を強く持ち上げているわけではなく、淡々と当たり前の事を述べているだけに過ぎなかった。
「ふむ……。しかしそうであるならば『幽世』の死神達が、いくら魂を自分達が扱うと主張したとしても、その『天上界』が認めないと頑なに拒否をすれば、結局は『幽世』は従わざるを得ないのではないか?」
「――」(……ええ、まぁ、そういう事になるわね)
(む……?)
ソフィは自身の行った質問に対して、魔神の返事が先程までより歯切れの悪い返答だった事に小さく疑問を抱くのだった。
「――」(私はあの『テア』という『死神』の事を大変に気に入っているの。あの子を『死神皇』にしたいという気持ちは前以上に強くなっている。それにね? 貴方の友人の魔族と、テアの契約者である魔族の一戦が行われた後の事だけれど、勝敗如何によっては『幽世』の代表が変わると私は見ているわ)
「何故そう思う?」
「――」(ふふ、これは所詮は私の勘に過ぎないけど、あの堅物はこれまで敗北らしい敗北をしてこなかったからね。きっと一度の敗北で退く決断をすると、私は見ているのよ)
そう言って見る者を幸せにさせるような、美しい微笑みをソフィに見せる『力の魔神』であった――。
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