2201.この一触即発の空気の中で
「何やらとんでもない数の者達が現れて、そして勝手に揉め始めたかと思えばそれも落ち着いたようだぞ」
「ふむ……。しかし更に厄介な事になったのではないか、真鵺よ」
サイヨウは少なからず私情を抱えてはいたが、それでも師であるシギンに頼まれて、ヌーを少しでも鍛えてやろうという気持ちで手を出したに過ぎなかったのである。
だが、想像以上にヌーが『魔』に関して侮れぬ力を持っていた事もあり、話は思い通りに行かず、更には神格を有する死神達を完全に敵に回してしまい、次々と神位を有する死神達の数が増えて行ってしまい、事が大きくなりすぎたとばかりに後悔し始めるサイヨウであった。
「流石に向こうもこれだけの数を集めてしまっては、もう簡単には収まりもつけられぬだろう。サイヨウ殿、契約時に施した私の力の制限を完全に撤廃してくれぬだろうか? そうでもしなければ、相当に厄介な目に遭う事になるだろうよ」
先程までであっても、相当な強さを有していた『真鵺』だが、どうやらそれでもこのままでは、この場に続々と現れた現世の存在達ではない『神格』を有する神々を相手にするのは、とても厳しいものにだろうと『真鵺』は判断した様子だった。
「……真鵺、悪いがそれは出来ない相談だ。こうなると想像が出来なかったのは小生の実力不足によるものだと認めはするが、しかしここでお主に『力』を戻し自由の身に戻す事は、今以上に危険だと小生は感じる」
「では、この現状をどうするつもりなのだ? 『式』となった以上はお主と共に戦う事に異論はないが、相手は神格持ちの神々、それもあの数が相手では、流石に今の力を制限されている状態では力になってやる事も出来ぬぞ? 意地を張って死んでしまえば元も子もないと思うがな」
真鵺の言葉を聞きながらサイヨウは、確かにこうなってしまった以上はどちらを選ぶにしても、碌な事にはならないだろうと判断するのだった。
(最初から小生は取る選択肢を間違えてしまっていたようだ……。シギン様にあやつの下地をもう少し整えてやって欲しいと頼まれた時、私情など挟まずにしっかりと説明を行い、素直に順序立てて『魔』の指導から入っていれば真鵺を使役する事もなく、万事上手く行ってた筈だ……。こうなってしまっては、残されている選択肢も限られてしまっている。せめてあの者の意識が失っていなければ声を掛ける事も出来ただろうが、どうやらあの『死神』とやら達は小生達の言葉は通じぬようだし、参ったな……)
これがまだ話の通じる相手であれば、ひとまず謝罪を行って事情を説明して、何とか矛を収めてもらえないかと交渉する事も一応は考えられたわけだが、相手に話が通じぬ以上はどうにもならない。
そもそも契約者をやられて激昂している様子のあの少女を見るに、もし会話が成立していたのだとしても話を聞き入れてもらえたかどうかも怪しいのだ。
これはもう真鵺の言う通り、妖魔召士と妖魔の『式』契約時に行った『制約』の撤廃を考えざるを得ないかと、サイヨウが真鵺に声を掛け始めようとした……――。
――その時であった。
「とんでもない音が庭から聞こえて来たかと思えば、更に現場はとんでもない事になっておったようだな」
言葉が通じない一部の死神達を除き、その場に居る大半の者達が突如として聞こえてきたその声の主の方に視線を向けた。
その声の主とは、隣に『魔神』を従えて現れた十歳程の少年の姿をしたソフィであった。
「ソフィ殿……!!」
「ソフィ様!」
「やれやれ、今までアイツが城の中でレルバノンの奴とどんな話をしていたか知らないが、やっと登場したか」
サイヨウだけではなく、これまで呆然と成り行きを見守っていたラルフ達も主の登場に思わず我に返りながら声を掛け始めるのだった。
そしてソフィの登場に少し遅れる形で、シギンやディアトロス達も中庭に出て来るのが見えた。
「これは壮観じゃな……。庭だけではなく、空を見上げれば上空にもあれだけの『神格』持ちの神々が現れるとは……」
「ディアトロス殿、あれを見て下さい! どうやらこの死神達の中心に居るのは、どうやらヌーの奴みたいですぜ?」
「ほう……」
ディアトロスとイリーガルがそんな会話を行っているのを尻目に、シギン達と共に中庭に現れたブラストもまた、昨晩直に会話を行った『ヌー』の意識を失っている姿を見つけるのだった。
(アイツを腕に抱きながら恐ろしい眼光を見せているあの少女が、この死神の軍勢を束ねているのか。ソフィ様の屋敷では可愛らしく見えた少女だが、どうやらその認識は誤りだったようだ。この俺でさえ、あのテアという死神の今の『紅い瞳』を見れば、このように震えが走る程だ……。何があったかは知らんが、シギン殿と同じ世界からきたあの妖魔召士という人間がやった所為のようだな)
「魔神よ、ひとまずこの場を鎮めたい。頼めるか?」
「――」(ええ、当然よ。任せて頂戴)
ソフィに頼まれた『力の魔神』は、ゆっくりとこの大勢の死神達の中心の存在である『テア』の元に、歩いて行くのだった。
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