2199.真鵺VS死神公爵
ヌーは真鵺の声を危険と感じた事で距離を取ろうと離れ始めた筈だったのだが、いつの間にか逃げているつもりが、ヌー自身が自ずと真鵺の元へと向かってしまうのだった。
「――」(おい! おい、ヌー!! 私の声が聞こえないのか!?)
ここにヌーがやってくる間中、ずっと死神のテアはヌーに声を掛けていたのだが、当人のヌーは全くテアの声が聞こえていない様子で無視を続けており、仕方なくテアもヌーを追って敵である『真鵺』の前にまで姿を現してしまったのであった。
そして今も懸命にテアはヌーに声を掛け続けているのだが、すでにヌーは真鵺に何らかの術の干渉を受けてしまっている様子であり、全く声に反応を示さずに虚ろな目を浮かべ続けていた。
「無駄だ。その者はすでに私の『呪い』の術中にある。いくらそのように呼び掛けようとも、私が術を解かない限りは反応を見せる事はないだろう」
テアはそんな真鵺の声を無視してヌーに声を掛け続けている。元々神格を有していない真鵺の言葉をテアは理解出来ていないのだが、それ以前に今はそれどころではないとばかりに、真鵺を無視して懸命にヌーに言葉を掛けていたのだった。
「やれやれ……。話が通じぬどうこう以前に、私の話を聞くつもりすらないようだ。久しぶりの神格持ちの『存在』と対峙出来る良い機会だと思えたが、少しばかり期待外れだったようだ」
真鵺はそう呟くと、いつの間にやら隣に立っていたサイヨウの方に視線を向ける。
そしてそれは、これ以上続けても良いのかという『サイヨウ』への確認の意が込められている視線だった。
「どうやら今のあやつは一種の催眠状態に陥っているようだが、詳細はどうなっておるのだ?」
「お主の注文した通り、命の危険を迫るような危害は一切加えてはおらぬ。やった事といえば意識を混濁させて、奴自身の認識能力を赤子程にまで低下させたぐらいだな。聴覚や視覚そのものを遮断させて完全な闇の中へ放り込む事も出来たが、あやつ程度の耐魔力では『甚大な後遺症』を残してしまうだろうからな。少しばかりの手心は加えておいたぞ」
「そうか……」
サイヨウは自分が『式』にしたとはいっても、それは彼自身の『力』だけで真鵺を屈服させているわけではなく、あくまで真鵺がサイヨウに興味を示した結果だという事を理解している為、先程まで彼が厄介だと思っていた大魔王ヌーをあっさりと無力化させている現状を省みて、複雑な心境を抱きながらそう呟くのであった。
真鵺が言葉にした通り、今の大魔王ヌーの持つ耐魔力では、真鵺という『魔』の概念理解者の『呪い』に抗う事は到底不可能であり、僅かに力を示しただけに過ぎない今の『呪い』の一端でさえ、もう大魔王ヌーは戦闘不能といえる状態に陥っていた。
もし、このままサイヨウが真鵺に『続きを行え』とでも一言指示すれば、認識能力が著しく低下してしまっている今の大魔王ヌーの抵抗力を完全に排除した後、本当の意味でヌーを戦闘不能に変えてしまう事も問題なく可能である。
直接命を奪うような危険な『呪い』を一つも繰り出さず、少し相手を見ただけでどれだけの『力』を使えば無力化出来るかをあっさりと示して見せた真鵺は、流石はノックスの世界で妖狐族の『王琳』に次ぐ実力を持った、鵺という種族の王と呼べるだろう。
「もう勝負はついた。後はお主が抵抗を止めてさえしてくれれば、小生達も手は出さ……――っ!」
「離れるぞ、サイヨウ殿……」
サイヨウが今も尚、懸命にヌーに声を掛け続けていたテアに向けてそう言葉を掛けていると、最後まで言い切る前にそのテアが恐ろしい眼光をサイヨウ達に向けてきた事で最後まで言葉を言い切る前に、真鵺はサイヨウを担いでその場から離れるのだった。
――次の瞬間、ヌーとテアの居る場所に次々と『死神』が出現を始めていく。
十、二十、五十、百、百五十、三百……、五百――。
『死神貴族』の中でも最高位に居る『死神公爵』である『テア』は、その地位を利用して次々と幽世に居る自身の配下達を出現させるのだった。
そして今も速度が衰える事なく次々と増え続けている『死神』の中には、かつては死神皇の命令によって『テア』と共にヌーと戦った彼女と同じ『死神貴族』の姿もあった。
流石に全死神、全死神貴族を動かす事は『死神皇』でもない今のテアには到底不可能と言えるが、それでも『テア』の号令に従っても良いと判断すれば、こうして死神皇の指示を待たずとも、テアの要請に直ぐに応じる事は可能である。
つまりこの場に現れた『死神貴族』は、テアの命令に従ってもいいと考えている死神だという事に他ならなかった。
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