2198.大魔王ヌーVS真鵺
「おい、あれは一体何なんだ?」
サイヨウやヌー達が戦い始めるにあたり、彼らや直接手を合わせていた紅羽たちも研鑽を行う事を止めて、この勝負を眺めていたが、サイヨウがこれまで彼らに対しても見せた事が一度もない『妖魔』の『式』を使役し始めた事で、リディアが紅羽に尋ねるのだった。
「そういえば、お前達はまだ『真鵺』を見た事がなかったんだったな」
紅羽は視線をサイヨウ達の方に向けたまま、リディアの質問にそう答えるのだった。
「ええ。私もサイヨウさんが、あの方を使役されるのを見るのは初めての事です」
「ラルフさん、あれは私達の世界でも『邪悪』の根源とされていた『鵺族』の『真鵺』ですわ」
「鵺族の『真鵺』……?」
リディアやラルフの疑問に対して正体を明かしたのは、紅羽ではなく『朱火』の方であった。
「そもそも私らが憎僧に『式』にされちまった原因もアイツにある。私らは体よく『真鵺』の野郎に利用されちまったせいでここに居るんだからな……」
「あら? そもそも貴方は『真鵺』の提案に乗り気だったでしょうに。今更『真鵺』に全てを擦り付けるのは卑怯ではないかしら」
「ふんっ、だがアイツが話を持ってこなければ、現実に『式』にされることはなかったというのは本当の事だろうが」
「まぁ……それはそうでしょうけど、一度提案に乗る意志を見せた時点で、貴方も同罪なのは変わりませんよ」
「同罪だ? 全く、お前はそういうところが狡いよな。上手く私を笠に使って、自分だけ目立たぬように立ち回りやがってよ。人間共の里に居る妖魔召士や、護衛たる妖魔退魔師共は、あの事変の首謀者を私だと思い込んでいやがるんだぞ? 上手く『式』から解放されて無事に元の世界に帰れたとしても、もう私には安息の日々は戻らねぇ。てめぇはいいよなぁ? 王琳様の元にさえ戻れば、お前だけは何があっても『ぱぱぁ、助けてぇっ』とでも言って泣きついちまえば済む話だもんな」
「はい? 今、何て仰りました……? おい! 腐れ鬼人がよ、誰が狡いってぇ? それに親父は関係ねぇだろうがっ!! あんま舐めた口利いてんじゃねぇぞ、テメェ」
「ああ? 誰に調子くれてんだテメェ! お前から先にぶち殺してやろうかぁ? あぁん!?」
「おお! 出来るモンなら、やってみろやぁ!」
いつの間にか、リディアやラルフを置いてけぼりにして会話を行い始めた妖魔二体は、段々と険悪なムードになっていったかと思えば、遂にはお互い睨みつけながら周囲に殺気をばら撒き始めるのであった。
「おい紅羽、やめとけよ。今お前らが揉めてどうする……」
「そうですよ。落ち着いて下さい、朱火さん。それより始まりそうですよ?」
互いの襟首を掴みあげながら、恐ろしい眼光をして睨みつけあっていた両者は、リディアとラルフにそう声を掛けられて、渋々と視線をヌー達に向け直し始めるのだった。
…………
「おい、テア! あの野郎が何をしてきやがるか分からねぇ。まず俺があの野郎の相手をする。お前はあの人間の方を頼むぞ!」
「――」(分かった! でも、気を付けろよ? あの『魔力』の高まり方は少し異常だぞ……)
「分かってる」
『三色併用』を纏い直しながらヌーは、テアをその場に残しながら自らは前に出始める。相手の注意を自分に引き付けようという狙いなのだろう。
「ここは、私のやりたいように動いて良いな?」
「仕方あるまい。こうなった以上は好きにするが良い。だが、先程言ったようにやり過ぎるなよ? 『呪い』に関してもだ」
「あの程度の『魔力』しか纏えぬ輩が相手だ。どれだけ力を抑えようとも問題ない」
サイヨウの忠告にそう返した『真鵺』は、迫りくる大魔王ヌーの恐るべき速度を前にしても、余裕綽々の笑みを絶やさずに迫ってくるのを待ち構える。
「どうやら戦力値自体は『天狗』共と変わらぬと見えるが、果たして『魔』の概念理解度に関しては如何かな――」
そして一瞬の内にヌーが『真鵺』の前に接近すると、その右手を突き出し始める。どうやら『極大魔法』を至近距離から放とうというのだろう。
「――これは幻影だな」
だが、目の前で手を翳されて『極大魔法』を放とうとするヌーの『魔力』が高まりつつあるも『真鵺』は、その場から動こうとはせずに笑みを浮かべたまま、幻影と告げたそのヌーの行う事を眺めるだけだった。
そして目の前の本物にしか見えないヌーが、実際に『極大魔法』を放つ寸前、腕を組んで笑みを浮かべていた『真鵺』が唐突に動いた。
「……居た。右方斜め、上空か」
――『朧の如く、くユる意心ハ無きシに非ズ』。
真鵺が何やら文言を呪文のように唱え終えると同時、目の前で『極大魔法』を放とうとしていたヌーの姿が『魔力』の高まりごと消え失せる。
――『祓、穢れヲ宿す罪に報エ』。
そして続けて真鵺が新たに文言を口にすると、完全に『魔力』ごと姿を『隠幕』で消していた筈の本物のヌーの姿が、明るみに出されてしまうのだった。
「なっ!? 『隠幕』を使っている俺を気配ではなく『魔』の概念を用いて炙り出しやがっ……――!?」
「――」(ヌー! その場から、今すぐ離れろぉ!!)
明確に遠くの方から自分の姿を捉えていると悟ったヌーが、驚きに目を丸くしながら真鵺に視線を送っていたが、言葉を最後まで口にする前に自分の居る場所より更に後方に居たテアの声がヌーの耳に届き、すぐさまその場から彼は離れるのだった。
――『混沌とハ、生ジるのでハ無く、起スもノ也』。
――『高の塔、目視認ゆるハ、儚げシ煌月』。
すでに先程の場所から真鵺の姿がなくなっており、自身もその場から離れて移動を行いながら真鵺の居場所を探ろうと『魔力感知』を行うヌーの耳に、何処からともなく真鵺の文言が聴こえてくる。
声は聴こえてくるというのに、いまいち何処から聞こえてきているのかがハッキリとせず、ヌーは真鵺の声のする場所から離れられているのか、それとも逆に近づいてしまっているのかを把握出来ぬまま、まるで反響しているかのように聴こえてくるその真鵺の声に操られるかの如く、彼は勢いよく移動を行い続けるのだった。
やがて自分の意志なのか、操られているのかもハッキリとせぬままに、ヌーはピタリとある場所でその足を止めてしまう。
――そしてその場所で立ち止まったヌーの前に、先程と同じように腕を組んで大魔王ヌーを見て笑う『化け物』がそこに佇んでいたのだった。
……
……
……
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