2196.時空干渉領域
(しまったな、少しやり過ぎてしまった。だが、この少女にしか見えぬ者は、シギン様の説明では不死と呼べる存在の『死神』だという説明だった。何とか……、――!?)
何度撃退してみせても瞬時に蘇っては、サイヨウに向けて襲撃を繰り返してきたテアだったが、どうやら先程の『動殺是決』で首の骨をへし折った事で、少しだけこれまでよりかは、彼女の再生する時間が長引いている様子であり、その間にサイヨウは息を整えて改めてテアの気配を探ろうとした――。
――その矢先の出来事だった。
『空間』の『理』が用いられた『魔法』によって、動きを封じていた筈のヌーから再び『魔力』が膨れ上がるのを感じ取り、強引にテアの気配を探るのを遮られたサイヨウだった。
そしてサイヨウが視線を向けた先、大魔王ヌーを閉じ込めていた赤い真四角の『結界』が、ガラスが割れるような音と共に消え去るのが見えたのだった。
(これは……!? あやつを取り囲む『輝鏡』には何一つ異常が生じていないというのに、その外側の『結界』だけが完全に効力を消失させられてしまっている。つまりあやつは外側から小生の『結界』を打ち消したという事だろうか? だが、あやつの最大魔力値を省みても、小生の魔力値の半分にも満たなかった筈。つまり『魔力量』の影響を度外視して小生の『魔』の概念技法の打ち消しを見事に成立させたという事だ。そしてこの『魔』の概念技法は、間違いなく『透過』で間違いないであろうがしかし……、まさか……!)
サイヨウがテアの気配を探るのを完全に断念し、自身が展開した赤い真四角の『結界』を砕いて強引に解除してみせたヌーの『透過』と呼ばれる『魔』の概念技法に、これだけ狼狽してしまうのも無理はなかった。
ヌーが展開した『透過』によって打ち消した『魔法』は、単なる相手の『魔法』で行われた『障壁』や『軽減』といった単なる『超越』や『神域』といった『魔』の概念領域にある代物ではなく、シギンが編み出した現在のノックスの世界で唯一存在すると呼べる『空間』の『理』が齎されたものなのである。
つまり、現在ヌーが使った『透過』は、妖魔召士イダラマの『魔利薄過』すらも完全に打ち消してしまえる領域の『透過』であり、それは大魔王エヴィが到達している三段階目と呼ばれる『透過』領域どころか、その更に先の領域に居る妖魔神『神斗』ですら、まだ完全には足を踏み入れられていない五段階目の『時空干渉』の領域の『透過』で間違いない。
この五段階となる『透過』領域とは、あらゆる世界に居る『透過』技法を扱う者が最終地点と考える『時空干渉領域』と称される領域であり、行える効力は『時魔法』の完全な無効化、及び『空間魔法』の座標の改竄、及び歪曲を正常に戻し、更には強引に消去させるといった干渉すらも可能とする領域である。
まだ完全にヌーが使いこなせているかは未知数と言えるが、もしこの『透過』を完全にモノにしていた場合、シギンがノックスの世界で行った数多の『移動術』に於ける『空間魔法』そのものを無効化し、煌阿を長年封じ込めてみせた『卜部官兵衛』の『時間術』に於ける『空間魔法』の強制解除も可能となりえる。
――それは現存する全ての『時魔法』の無効化に繋がるものであり、大魔王ソフィの『終焉』に新たに付加された『時魔法無効化』や、天上界に存在する上位執行者に位置付けされる『魔神』達が体得している『時魔法無効化』に匹敵する代物である。
一部とはいえ、神々が扱う『魔』の領域に、まだ『魔神級』にすらなって日が浅い筈の大魔王ヌーが、足を踏み入れた瞬間であった――。
(いやはや……、シギン様に成長を促してやって欲しいと頼まれた事で、少し小生の私情が入りはしたが、まさか『空間』の『理』を用いたシギン様の編み出した『結界』すらも打ち消す『透過』をこの土壇場で体現するとは恐れ入った。何という天性の才能だ。何の下地すらも用意を必要とせず、まさか仲間がやられそうになるといったキッカケ一つで、このように何の前触れもなく『時空干渉』領域の『透過』を使用してみせるとは……!)
あくまでサイヨウがこの場で使用した、赤い真四角で出来た『結界』を壊す事だけならば、他にも色々と手立ては存在する。
それが証拠にノックスの世界に居た妖魔神である『悟獄丸』は、実際に過去にその腕力で割る事を可能としていた。
だからこそ、サイヨウは腕力や『魔』の概念技法を用いられて、この『結界』を壊させないように、更に付随する形で『輝鏡』を数多く配置したのである。
しかしまさかその『輝鏡』を一つも割ることなく、それも不可能だと思われた方法で『結界』を破られるとは思ってもみなかったサイヨウであった。
「――覚悟しろや、お前は確実にこの手で殺してやる」
彼を縛る全ての『魔』の概念で出来た枷が取り除かれた事で、大魔王ヌーは迸る『魔力』を漲らせながら、妖魔召士サイヨウを睨みつけて、滅する為にそう告げるのだった。
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