2195.妖魔召士サイヨウVS大魔王ヌー、死神公爵テア
このヌーを取り囲む赤い真四角の『結界』は、かつてノックスの世界で妖魔召士シギンが『悟獄丸』を相手に用いたものと同一のものであり、対象者を閉じ込める事に特化した『空間魔法』の一つである。
当然にこの『魔』の概念技法は、これまでサイヨウが使ってきた『捉術』とは違い、シギンが生み出した『理』を用いた『空間魔法』を基としている為、サイヨウの『魔力』を上回る『魔』の概念技法を用いて抜け出すか、はたまたこういった『魔』の概念技法そのものを打ち消す『魔』の技法を用いなければ、抜け出す事はまず難しいと言えるのだった。
そして更に『結界』の内側で、サイヨウを罵る言葉を吐きながら喚いているヌーには一切の耳を貸さず、彼は粛々と更なる行動を取り続けて行く。
何と赤い真四角の『結界』の内側に、先程はヌーによって消滅させられた『輝鏡』が、再び数多く出現を果たしていくのだった。
そしてその『輝鏡』に対し、サイヨウが二本の指を口元に持っていきながら、新たに『捉術』の発動の文言を呟き始めると、赤い真四角で出来た『結界』の内側に展開されていた『輝鏡』が、煌々と青白く灯り始める。
「さて、これでお膳立ては全て整った。果たしてお主に小生の技を破る事が出来るかな?」
そう告げたサイヨウは、もうヌーに対して攻撃を仕掛けるつもりがないのか、周囲を覆っていた『オーラ』も『青』だけに留め始めるのだった。
「くそっ、舐めやがって! こんな見掛け倒しの『結界』でいつまでもこの俺様を閉じ込められていられると思うなよ!」
そう言ってヌーが拳を『結界』に向けて振り下ろそうとしたが、次の瞬間には『結界』の内側に数多く展開されている青白い光が伴った『輝鏡』が、何と自らそのヌーの拳に向かって迫っていくのが見えた。
「なっ!?」
ヌーは自分の拳に向かって近づいてくる『輝鏡』を見て慌てて拳を止める。
明らかにこの『魔』の概念技法で出来た鏡は、割れる事によって効力が発揮される代物だと理解した為であった。
(ほう? 見事なものだ。咄嗟の機転もさながらに、あの一瞬で迫ってくる小生の『輝鏡』を一枚も割らずに速度の乗った拳を止められるとはな。どうやら『魔力コントロール』や、自分の技法を完璧に使いこなすだけではなく、己の身体的な面まで完璧に理解を終えておるようだ。そこまでの境地に至るのは中々出来る事ではない)
ヌーの取る行動の一つ一つを確かめるように観察を行うサイヨウは、ヌーが単に膨大な『戦力値』や『魔力値』だけに頼って技を繰り出しているのではなく、自分が行う行動や技法に対して十全にこなしていると判断するのだった。
(しかし、見事ではあるが、そのように慎重に立ち回っておるだけならば、いつまでもその『結界』から出る事は出叶わぬぞ? さて、次はどうする……?)
サイヨウはそう胸中で呟くと、腕を組みながら再びヌーの観察を始める。
だが、そんな観察を始めたサイヨウの元に、予期せぬ襲撃が行われるのだった。
何もない空間に亀裂が入ったかと思えば、そこからテアが出現を始める。
「――」(殺してやる)
そしてこれまで見た中で一番大きな鎌に『黒いオーラ』を纏わせたテアが、恐ろしい殺気を醸し出しながら、サイヨウに一直線に襲い掛かる。
「むっ!?」
ヌーを真四角で出来た赤い『結界』で閉じ込めた後、完全に油断をしていたサイヨウであるが、傍と呼べる程の近い場所の空間から突如として現れた『死神』に対して、コンマ数秒で『オーラ』を纏い直してみせたかと思えば、その『死神』の鎌を回避する為に思いきり身を屈める。
思いきり振り切られたテアの大きな鎌の風圧は衝撃波となって、ラルグ魔国の中庭を駆け抜けると、その先にあった城の一部分を三日月状に切り裂いて真っ二つにしてしまうのだった。
本気でサイヨウに襲い掛かるテアのその表情は、普段のようなヌーに見せているような少女の顔ではなく、対象者の魂を刈り取る『死神』然としていた。
一度目の攻撃を回避されたテアだが、その大きな鎌に身体の軸を揺らされる事もなく、恐ろしい程にしっかりとした体幹を見せながらサイヨウを追撃しようと再び振り被り始める。
「やる気になっているところ悪いが、小生はお主には用がないのでな」
サイヨウはそう言って、振り下ろそうとするテアの大鎌を持つ腕を素早く取ると、今度は右手でテアの首を掴んで『魔力』を込め始める。
――捉術、『動殺是決』。
当然にテアを殺すつもりまではないサイヨウは、意識を遮断させる程度に力を抑えて捉術を放ったのだが、効力が発揮されたかと思われた瞬間、テアの姿が忽然とその場から消え去るのだった。
「な、何だと……――!?」
目の前で突然に姿が消えたテアに驚いていたサイヨウだが、背後に気配を感じて慌てて振り返る。
「――」(死ね)
「ぬぅっ……!」
確実に仕留めようと何度も殺し掛かってくる『死神』を前に、意を決してサイヨウも本気で捉術を放つ。
――僧全捉術、『動殺是決』。
次の瞬間、ボキリという首の骨が折れる音が周囲に響くのだった。
自分の命を刈り取ろうと本気で襲い掛かってくる『死神』を仕留める為に、手加減を全く行えなかったサイヨウが全力で首を握りしめた為、その『魔力』が伴った捉術の効力が発揮される前に、テアの首の骨の方が先に折れてしまったようである。
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