2194.妖魔召士サイヨウVS大魔王ヌー
リディアやラルフ達が手を止めて自分達を見ているなど露知らず、当人であるヌーはテアに手を出された事に苛立ち、目の前で嫌な視線を向けてきている妖魔召士『サイヨウ』を睨みつけるのだった。
しかしそこでヌーは、余裕綽々に自分を見ているサイヨウに気づき、苛立ちの感情に囚われていた彼は、少しずつ普段の冷静さを取り戻していく。
ここがこれまでの大魔王ヌーとは異なり、一番の成長を果たしているところだと言えるだろう。
(よく見ると奴の両手が、うっすらと青く光っていやがるな……。すでに何らかの『魔』の概念技法を用いる為の準備は終えているってわけか。このまま感情任せに『極大魔法』を放つのは危険だと感じるな。ここは少し様子を見るか……)
(ほう……? どうやら気づけたようだ。流石にシギン様に教えを乞おうとしているだけの事はあるようだな。そのまま怒りに任せて襲い掛かってくるようであれば、手痛い一撃を食らわせてやれたのだが)
ヌーは戦闘を行う際の冷静さは取り戻せたようだが、それでも相棒をやられた事に対しての収まりまでをつけたわけではないようで、このまま戦闘自体を取りやめるつもりは毛頭なく、併用しているオーラをそのままに何とかしてサイヨウの隙を突こうと凝視し始めるのだった。
(単に睨んでおった先程の状態から、明確にこちらの動きを探るような視線に変えたな。これではもう『返魔鏡面掌』での反射に期待は出来ぬな。それどころか、このまま『待ち』を続ける事で逆に取れる選択肢を狭めてしまうな)
サイヨウは胸中でそう呟くと、これまで両手に纏わせていた『魔力』を消して、そのまま『青』と『金色』の『二色の併用』を纏い始めるのだった。
「むっ――!?」
注意深くサイヨウを探っていたヌーは、何かを行うつもりで纏わせていたであろう『魔力』が消えて、何かをする前触れだろうとは察していたが、自分を上回る『戦力値』と『魔力値』を僅かコンマ数秒で体現されてしまい、少しだけたじろぐように、右足を後ろへと退げてしまう。
それを見たサイヨウは、どうやら自分の『二色の併用』を見たヌーが気後れしたのだと判断して、好機と捉えて動き出す。
「――散、空動狭閑」
サイヨウが口元に指を持っていきながらそう呟くと、忽然と姿を消し去るのだった。
「ちっ! シギンが使っていたのと同じ技かっ!」
ノックスの世界でシギンが使っているところを見た事があるヌーは、すでにこの技がどういったモノであるかをある程度理解している為に、サイヨウが姿を見せる前からすでにその場から離れようとし始める。
――だが。
「ほう、この捉術の事を存じていたか。まぁ、シギン様を知っているのであれば、当然と言えば当然であるか」
先程の場所にサイヨウが辿り着くより先に、回避に成功したと考えていたヌーの更に背後から、突如としてサイヨウの呟きが聴こえてくるのだった。
「!?」
背後を確認するより先に、ヌーは『転移』を使って上空へと向かいながら更にサイヨウから距離を取ろうとする。
しかし次の瞬間、空の上へと浮上を果たしたヌーの更に上空から、眩い光が降り注いでくるのが見えた。
「何だか分からねぇが、あれはまずい……っ!」
――神域『時』魔法、『次元防壁』。
間一髪、ヌーは自身に降り注ぐ前にその『魔』の概念で出来た『光』を目で捉える事が出来た事で、その対応に成功する事が出来たのだった。
「……よしっ!」
「そのように目を離して良いのか?」
「!」
しかしヌーが先程の降り注ぐ光の正体である『蒙』の対応をさせられた事で、本来であればすでにサイヨウの居場所を突きとめられていた筈の『探知』を行う分の時間、コンマ数秒分のロスが生じてしまい、その間にサイヨウは自由に動ける時間を確保する事に成功し、その生まれた猶予の時間を利用して次の行動を取っていたのだった。
慌ててサイヨウの声がする方を振り返ると、次元の彼方へ消し飛ばした先程の『次元防壁』がある方とは、真逆の空の上からサイヨウが落下して来るのが見えた。
「や、野郎っ! 一体何処から現れやがった!?」
「安心するが良い。痛みを感じぬ前に意識を遮断してやろう」
驚くヌーの首元に向けて、魔力を覆ったサイヨウの手刀が振り下ろされる。
「くっ……!」
あわやというタイミングで、ヌーもまた右手に『紅』で創成具現した『魔力』が伴った手刀を作り、見事にサイヨウの手刀を防いでみせた。
互いの腕から本来は聞こえる筈がない刀と刀がぶつかり合うような音が響き渡ると同時、再びサイヨウの姿がその場から忽然と消え去り始めてしまい、今度こそヌーはサイヨウから目を離すまいとばかりに『魔力探知』を行って居場所を突き止めようとする。
「野郎、シギンの奴のように『空間』を使って移動していやがったのかっ!」
空間の中に居る間は流石のヌーも『魔力探知』が出来ない様子だったが、移動を終えて別の空間から出て来る瞬間だけはその目で捉える事が出来たようで、現世に現れさえすれば『探知』も可能とばかりに、直ぐに『高速転移』を用いてヌーはその場所へと向かい始める。
「見事に自分の出来る技を使いこなしておるようだが……、まだ甘いな。小生が分かりやすく姿を見せたという事にまず疑問を抱き、先に警戒を行うべきであったな」
馬鹿正直に空の上から自分の元へと迫ってくるヌーの音を聞きながら、再びサイヨウは口元に二本の指を持っていき、何かを呟き始める。
――次の瞬間、その場からサイヨウの姿が三度消え去ると、直後にその場に到達したヌーの元に『赤い真四角で出来た空間』が出現し、彼はそのまま封じ込められてしまうのだった。
「な、何だこれは……!? くそっ! 出しやがれっ!!」
自分がサイヨウの罠に嵌ったのだと早々に気づいたヌーだったが、すでに時遅しというべきか、彼はサイヨウの術によって、その赤い真四角の『結界』から出る事すら出来なくなってしまうのだった。
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