2193.サイヨウに式にされた妖魔達
先程までサイヨウの術によって動く事が出来なくなっていたヌーだったが、相棒のテアに手を出されて地面に倒された事で強く苛立ち、信じられない事に、怒りで無理矢理にサイヨウの術を解く事が出来たようである。
そしてそのままヌーは、サイヨウを敵とみなして『三色併用』までもを使い、少し前まで居たノックスの世界を含めても、これまでで一番の戦力値を以て、改めてサイヨウの前に相対するのであった。
「ふーむ……。ほんの少しお灸を据えるつもりで手を出したのだが、そこの異国の少女に手を出したのは少し失敗だったかな」
サイヨウはあえて、ヌーに聴こえるくらいの声量でそう呟くのだった。
「今更後悔してもおせぇぞ……! テアの分も込めて一発手痛い一撃をてめぇにお見舞いしてやる……!」
現在の『三色併用』を伴ったヌーは、ノックスの世界で『三大妖魔』と呼ばれていた『天狗族』の頭領であった『帝楽智』とほぼ互角の戦力値を有してこの場に立っているのであった。
それはつまり、あの猛者がひしめくノックスの世界であっても、妖魔召士と妖魔退魔師の両組織に属する人間達が、決して見過ごす事が出来ぬと思える程の力量をヌーは、この場で示している状態となっているわけであった。
妖魔退魔師組織に属する組員であれば、副総長のミスズ級――。そして現在の妖魔召士組織であれば、エイジやゲンロクといった組織を束ねる首級クラスの力量の持ち主が、直接相対せねばならない状況という事に他ならない。
今の大魔王ヌーを無力化させるには、それ程の戦力が必要となっている状況になって尚、かつての妖魔召士最高幹部の一人であったサイヨウは、涼しい顔を浮かべながら『三色併用』を伴っている大魔王ヌーを見下すように眺めていた。
…………
「憎僧の奴、一見冷静な顔をしているように見えるが、今のアイツは確実に相手の鼻っ柱を折ってやろうって感じで意気込んでいやがるな」
「そんな事まで、お前は分かるのか?」
「当然だ。私やそこの朱火は、他でもねぇあの妖魔召士一人にやられた挙句に、こうして無様にも『式』にされちまったんだぞ? 今はこうして仕方なくアイツに従ってはいるが、少し前までは何度もアイツを出し抜いてボコボコにしてやろうって思ってたんだ……。だからあの野郎の一挙手一投足、表面上の態度や仕草、それら全てをこっちは把握している状態なんだ。それを省みて、今のあの野郎は冷静そうに見えて、本当は相当に苛立っていやがるぜ? 何が一体そこまで癇に障ったのかまでは、私らには与り知らねぇ事だがな」
先程までリディアと戦う時に使っていた刀の『翠虎明保能』を背の鞘に戻しながら、そのリディアの質問に本音で答える紅羽であった。
「確かに紅羽の言う通り、あの妖魔召士はあの御仁に並々ならぬ思いを抱いているようだけど、何が気にくわなかったんでしょうね? 少しお灸を据えるつもりだけだったと言っていたけれど、あの御仁の動きを封じてみせていた術は、山の中でも『魔』の概念に多大な自信を持つ『鵺族』達でさえ、嫌に感じてその場を逃げ出す程の本気の捉術だったわよ。ちょっとお灸を据えるとか、そんな程度で簡単に放つ術だとは、とても思えないのだけれどね」
今度は妖狐の朱火が、ラルフの頬を愛おしそうに撫でながら告げるのだった。
「ちょっと朱火さん……。話して頂けるのはとても結構な事なのですが、そのように私に触らないで頂けませんか?」
そう言ってラルフは朱火から離れようとしたが、逃さないとばかりに今度はラルフの首に手を回して自分の胸元に抱き寄せる朱火だった。
「うふふ、まぁそう言わずに。ほら、続きが始まりそうよ?」
今度は首に回した手に力を込めて、ラルフが逃げられないようにしっかりと掴んだ朱火は、意識をヌー達に向けさせるのだった。
仕方なくラルフは溜息を吐いた後、朱火にされるがまま諦めて、視線を前に向け始めるのであった。
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