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最強の魔王が異世界に転移したので冒険者ギルドに所属してみました。  作者: 羽海汐遠
交差する思惑編

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2192.ヌー達の乱入に手を止める者達

 ヌーとテアが中庭の木の陰から見守る中、サイヨウの合図と共に『式』の妖魔達とラルフ達は実戦演習を行い始めるのだった。


 実戦とはいっても両者が殺し合うような本格的なものというわけではなく、あくまでリディアやラルフ達を強くする為に行われる模擬戦のようなものであり、当然に式札から出てきた瞬間の時のような強さは、現在のこの妖魔達からは感じられない。


 どうやらあのサイヨウという男が、この二人の人間を強くしようとあくまで実戦形式の模擬練習を行っているに過ぎないという事が一目瞭然だった。


 式札から出て来たばかりの妖魔二体は、あのノックスの世界の女天狗や、天従十二将てんじゅうじゅうにしょうをあっさりと抑え込む事が出来る程の戦力値を有していたが、ラルフやリディア達と組み手を行っている現在では、その時程の戦力値は感じられない。意図的に妖魔達が力を抑えているというわけではなく、ノックスの世界に居た妖魔召士達のように、式札を出した妖魔召士である『サイヨウ』が、この場に相応しい強さで戦わせているという事なのだろう。


(実際に数値を確認したわけじゃねぇが、何となく長年の勘でこいつらが今どれくらいの戦力値で戦っているかの理解は出来る。どうやら実戦形式を取りながら、あの人間共を強くしようという試みの組手だというのは間違いなさそうだな)


 ヌーは今の二体の妖魔が、出現と同時に示していた戦力値とは程遠い程に低くなっている事を実際に戦っている『紅羽(くれは)』たちの動きから、瞬時に見極める事が出来ていた。


 最初に姿を見せた時は戦っていない状態ですでに、妖魔山で見た『天従十二将』達を圧倒出来る力量であったが、今の実戦中の彼女達の動きを見るに、魔族達で比較対象を果たすとすれば、良くて『大魔王上位』の領域くらいだろうとアタリをつけるのだった。


(まぁ……、あの妖魔召士の目的が、あの人間共を強くしようとしているという事は直ぐに理解は出来たが、それでもあまりに差がありすぎるな。戦力値などの数値だけ見れば、あの妖魔共は相当に下げられて攻撃力も大した事がなくなっちまっていやがるが、それでも目や耳といった五感や、身体の動かし方を見れば戦力値は均等に出来ていても実際は、相当に実力に開きが出来てしまっていやがる。ハッキリと言って実際の戦力値以上に目に見えるレベルで差が有り過ぎやがる。単に数値上の戦力値を近くしたところで、あれでは修行や研鑽で得られるものにも限りが有るだろうな。これが真剣を使った殺し合いだというならまだ話は変わるだろうが、今の奴らは木刀を使っていやがるし、緊張感のかけらもないお遊びに成り果てていやがる)


 サイヨウの『式』である以上は、あの妖魔達が本来の力を示す事が出来ないのは直ぐに理解出来たヌーだが、それでも戦力値以上に差がある戦いを見て、徐々に興味を薄れさせてしまうヌーであった。


「面白いモンが見れると思って、ついここまで付いて来ちまったが、所詮は()()()()()()()だったな。今更この程度の戦いに興味も湧かねぇ。テア、九大魔王達の連中が居る部屋に戻――……」


「折角ここまで足を運んで見物に来たのだろう? もう少し続きを見て行かれてはどうかな」


「!?」


 いつの間にか『ラルフ』達の近くで模擬戦を観戦していた『サイヨウ』は、木の陰から戦いを眺めていたヌー達の隣に立っており、声が聞こえてくるまで彼は『サイヨウ』の気配すら感じる事が出来なかった。


「――」(び、びっくりしたっ! いつの間に隣に立っていたんだ!? この人間がこの場で喋るまで全く気付けなかったぞ!?)


 テアの言葉を聞きながらヌーもまた、内心で同じように毒づくのだった。


「お前、何処となく、あのシギンの野郎と気配が似ていやがるな……。てめぇも『空間魔法』とか何だかとかいうのを使えやがるのか?」


「シギン様は元居た世界の小生の師だ。やけに師の事を詳しそうだが、一体どういう関係なのかな?」


「ふんっ、奴とはノックスの世界でちょっとあってな……。別にそこまで詳しい間柄ってわけじゃねぇが、強くなる為に奴には協力してもらうつもりだ。もちろん合意は取ってある」


 そのヌーの言葉は予想外だったようで、これまで話をしながらも視線はラルフやリディアの方に向けていたのだが、今は視線どころか、顔ごと隣に居るヌーの方に向ける『サイヨウ』であった。


「これは驚いた。小生の知るシギン様は、自分の興味ある事以外には全く目を向けるような御方ではなかった筈なのだがな。それとも、お主にはそれだけの価値があるという事だろうか」


 どうやら隣に立っている人間は相当に驚いている様子だが、勝手に価値があるかどうか吟味するような視線を向けてきた事に、ヌーは歯噛みしながらサイヨウを睨みつけ始める。


 ――どうやらヌーは、相当にサイヨウの態度が気にくわなかったようである。


「……言葉に気を付けやがれよ? てめぇ如きが俺の価値を推し量ろうとしてんじゃねぇぞ、()()()


()()? ははははっ! これは異な事を言うではないか」


「ぐっ!?」


 ――次の瞬間、隣に立っていた筈のサイヨウの姿が忽然と消えたかと思えば、突然ヌーはその場に立っていられない程の重圧を背に感じ、ワケも分からずにそのまま地面に()し倒されるのだった。


 まるで自分だけが重力の異なる空間に放り込まれたかの如く、ヌーは地面に倒されたまま、その身体を起こす事が出来なくなってしまうのだった。


「――」(ヌー!? てめぇ……っ!?)


「案ずるな。少し()()()()()()()()に過ぎぬよ」


 ヌーを地面に倒されて苛立ち混じりにテアはサイヨウを睨もうとしたが、そのサイヨウの姿は目の前から忽然と消え去り、いつの間にか背後からそう声を掛けられるのだった。


「――」(何を言っていやがるか、分かんねぇんだよ!!)


 テアは自分の大事な相棒のヌーに手を出されてしまい、激昂するままに黒いオーラに包まれた鎌を具現化したかと思えば、一切の躊躇もなしにその鎌をサイヨウに向けて振り切るのだった。


 この時のテアは全く手加減などを考慮しておらず、ヌーに手を出したサイヨウを真っ二つにするつもりで本気で鎌を振り切るのだった――。


 ――しかし。


 サイヨウはその黒いオーラに包まれている『テア』の死神の鎌を器用に親指と人差し指で摘まんで見せたかと思えば、にこりとテアに微笑みかけるのだった。


「――」(う、動かねぇ……! く、クソが、舐めんじゃねぇぞ!!)


 テアは一度具現化していた死神の鎌を消し去ると、今度は手を左右に広げて、先程より小さな鎌を左右別々の手に再び具現化したかと思えば、サイヨウの首を刎ねようと挟み込むように動かす。


 しかしサイヨウは、左右両腕から自身に向けて迫ってくる黒いオーラで包まれた刃をこちらもノータイムで左右別々の手で掴んだかと思えば、テアの右手を強引に手前に引き寄せて体勢を崩させる。


「――」(わ、わわっ!?)


 フラフラと倒れそうになっているテアの肩を二本の指で軽くとんっと押すと、そのまま後ろで倒れているヌーと同じように、地面に倒されてしまうのだった。


「テア!! ()()()()()()()()()()……!」


 サイヨウの『捉術』の術中に嵌って動けなくなっていたヌーだが、大事な相棒であるテアがやられて地面に倒されたのを見て、蟀谷に青筋を立てながら『三色併用』を用いて見事に術を打ち破ってみせるのだった。


「ほう……。怒りで強引に術を解いたというのか? 別に強く力を込めていたわけではないが、それでもそのような力任せで破れる程に、小生の術は甘くはない筈なのだがな……」


 …………


 サイヨウ達が今居る場所から、少し遠い場所に居る模擬戦闘を行っていたラルフ達は、いつの間にか試合を行っていた手を止めていたかと思えば、戦っていた全員がヌー達の行いに視線を向けていたのだった。


「あれ、誰なんだ?」


 そんな中、視線を向けていた者達の中で最初にそう口を開いたのは、鬼人の『紅羽(くれは)』であった。


「あれは我が主と同じ世界出身の大魔王でして。ヌーという名前の『魔族』ですね」


「へぇ……?」


「彼、相当の戦力値をしているわね。実際、腕前の方も『七耶咫(なやた)』くらいはあるかしら……?」


 紅羽達の会話に割り込むように、ラルフの隣に歩み寄ってそう口にする妖狐の『朱火(あけび)』だった。


 ……

 ……

 ……

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