2190.大魔王ブラストの大きな前進
ブラストの『魔力圧』をその身に浴びたシギンだったが、被弾してからそれなりに時間が経ち、もう充分だと判断した様子のシギンは、自分の『耐魔力』を高めるために『二色の併用』のオーラを展開させる。
すると最初にシギンの周囲を『金色』が纏われ始めていき、次に先程のブラストのように『青』が展開されて、その『青』が『金色』に交わり始めると、あっという間に『二色の併用』が完成し、瞬く間にブラストの『魔力圧』がはじけ飛んで行った。
そして当然にその行き先を強引に変えられたブラストの『魔力圧』は、準備を終えて待っていた神斗の『透過』によって、まるで最初からブラストの『魔力圧』など無かったかの如く、完全に部屋から消え去るのであった。
「よくやってくれたな、神斗。おかげで無事に事なきを得る事が出来た」
「やれやれ、君の急な発想に振り回されるのはもう御免だからさ、無理難題を告げるのはこれっきりにしてくれよ?」
ブラストの『魔力圧』を消す事を突然に任せられた神斗は、溜息を吐いてそう言うのだった。
シギンは改めて神斗に感謝の言葉を口にした後、視線を呆けている様子のブラストに向け始める。
「待たせたな。それで先程お主が『金色』を纏い、二度目の『魔力』の暴発を起こしかけた直前、何か普段とは違う感覚は感じる事が出来ただろうか?」
「明確にどう変わったかなどは……」
「些細な事でも良い。覚えている今の内に、微かな違いなどを言語化出来るならしておくのだ」
それが重要なのだと言わんばかりに視線を鋭くさせるシギンに、ブラストは慌てて先程の『二色の併用』からの一連の流れを思い返し始める。
(最初『紅』の練度を『1.7』に上げて、普段通りの『青』のオーラと併用させた時、これまでより『紅』に意識がいっていた。もちろん練度そのものが異なっているのだから、普段通りとは違うというのは当たり前なのだろうが、それでも明らかな違和感があった……。あの違和感をシギン殿の言うように言語化しろと言われても、直ぐにはこうだと口には出来ないな……)
ブラストが何も言いださない為、どうやら違和感だけが彼の中で先行していて、何処がどう違ったかなどを明確にはしきれていないのだとシギンは判断し、口を開きかけたその時だった。
「違和感そのモノの正体は分からないが、今回は普段の時には感じられなかった『高揚感』があった。もちろんシギン殿達であれば、俺の『魔力』の暴発も何とかしてくれるだろうという信頼も多分に加味する部分もあったのだろうが、普段自分だけで行っているよりも『気楽』に感じられたような……」
その言葉に再びシギンは神斗と顔を見合わせる。
「ブラスト殿、その感覚こそが、本来は気づくのに一番重要な事だったのだ。練度を変える事もそうだが『魔』の概念には全てに意味がある。特にオーラはその辺が顕著に出るものでな。違うオーラを交ぜ合わせる以上は、使っている『魔』の概念二つともが重要でそこに差別されるような事があってはならぬのだ。お主は『紅色』の方のオーラを最初に覚えるから『青』に比べれば、難度も知れているだろうと考えていたのかもしれないが、オーラそのものに『青』も『紅』もどちらが上とか、どちらが下と決めつけるものではない。そしてそれは本来は先天性のものである『金色』にも当て嵌まるモノの筈なのだが、そこはまだお主に説明しても理論を理解させられぬだろうから置いておく。ただ、今回お主が覚えた『高揚感』の感覚は是非忘れずに覚えておく事だ。練度の違いによる『変化』、そして『高揚感』と呼んだお主が感受した感覚。今後これらもまた重要な因子として出て来るだろう」
今回はシギンに『解』を教えられる形で伝えられたが、それはそれで覚えておくべき事としてブラストの頭に記憶された事だろう。
自分で気づいた方が『魔』の概念理解度を深めるという意味では、非常に効率性があっただろうが、それでも効率性を重視しすぎて最後まで覚えられなければ、結局は意味がなくなってしまう。
そう言う意味では今回のブラストの判断は、停滞する現状を変えられるという意味では非常に良い結果を迎えられたと言えたのかもしれなかった。
「『紅』の練度の変化はまだ腑に落ちるが、あんな僅かな違和感とも呼べるような『高揚感』に『魔』の概念に対しての意味など、本当にあるのだろうか?」
「ふふっ、今回の事に関しても自分で気づけたわけではないからな。その辺は今後ゆっくりと理解していけばよいだろう。ひとまずお主の頼み事であった『停滞』している現状は少しは変えられた筈だ。お主が本当に得たいと考えている『三色併用』とやらも、その感覚を突き詰めていけば近い内に必ず体現せしめるだろう」
(ブラスト殿にとっては少し遠回りになるやもしれぬが、ノックスの世界に数多く居る『青』を覚えた妖魔退魔師の連中に比べれば、必ず『魔』の概念理解度で上回る筈だ。そしてその時こそ、真の意味で『三色併用』のオーラへの理解に到達して体現も叶う事だろう)
――まぁ、中には単に感覚だけで理解せぬまま完全に体現を果たす者も居れば、他者が扱うものを一目見て全ての真理を解き明かすような『化け物』も存在するが……な。
妖魔召士シギンは『ソフィ』の事や、まだ未熟ではあるが、素質ある退魔士の『イツキ』の事を頭に思い浮かべながら胸中でそう呟くのだった。
感覚で全てをモノにしようが、理論を突き止めて体現を可能にしようが、最終的に扱う事が可能になれば、そこに何も問題はないのである。
――但し、向き不向きというモノは例外なく存在する為、不向きなやり方を妄信的に続けていても効率はガタ落ちとなってしまい、無駄に年数だけが掛かってしまうが故に、まずはどんなやり方が自分にとって向いているのか、それを自らの手で確かめる事が最初の一歩として何事も重要なのだといえるのだった。
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