2189.最高の魔の概念理解者による研鑽の実演
ブラストは再び今の『二色の併用』状態から『金色』を発動させ始める。
先程の暴発の失敗時から変わった事といえば、単に『紅』の練度を上げた事だけであった為、ブラストは同じ失敗を繰り返してしまうだろうと半ば確信をしながらも、シギン達であれば如何様にも防いでくれるだろうと信頼して、言われた通りに纏い始めるのであった。
ブラストは左手に『青』を集約させて、右手に練度を上げた状態の『紅』、そしてその状態から『金色』を纏おうとしたが、その瞬間に僅かだが、練度を変えていない方の『青』の色合いが少し強まり始めていく。
「やはりか……」
「これは僕達の『二色の併用』の応用だね」
シギンと神斗の二人共が冷静にそう呟いていたが、当の本人であるブラストはそれどころではなく、何とか暴発しようとする自身の『魔力』を外にも内にも向かないように、その場所に滞在させる事に全集中し、更にその状態から『金色』を発動しているが故に、後数秒もすればそのままコントロールが出来なくなり、高まった『魔力』が暴走してしまうだろう。
しかしブラスト自身は気づいていないが、彼の左手の『青』は、これまでの『淡い青色』から、くっきりとまではいかないが、明らかに色合いの濃さが増した『ノックス』の世界の者達が『天色』と呼んでいる『青』を体現している状態となっていた。
――だが、現在の状態ではまだ、ブラストは『二色の併用』と『金色』を別々に発動させている状態に過ぎず、上手く交わらすために必要なコントロールが行いきれていないが故に、彼の『戦力値』や『魔力』の最大値には全く上昇といった影響を受けてはおらず、単に別々のオーラを展開しているだけの状態となっているのだった。
「わ、悪いがこれ以上は、もう無理だ――」
そしてブラストの両手に集約していた『魔力』が膨れ上がっていくと、これまでのようにそこに滞在していた集約されて綺麗な玉状となっていた『魔力』が、縦や横に線状に広がっていき、雷のような音を立てながら暴走を始めていこうとする。
どうやらブラストの『魔力コントロール』が、完全に消失する寸前と呼べる状態のようだった。
「神斗、出来れば彼の今の『魔力圧』を直接我が身に浴びておきたい。悪いが、彼の身とこの部屋に影響を来さないように後の事は頼むぞ!」
「やれやれ……。さっきまでそんなつもりがなかった癖に、急に方針を変えないでよ。単に消すより、それは相当に厄介な注文だよ?」
「これもまた、お主にとっては良い経験になる筈だ」
「ちぇっ、そう言われてしまえば、仕方ないな……」
二人の言葉のやり取りが行われた直後、まるで照らし合わせたかの如くブラストの『魔力コントロール』が途切れて部屋中に『魔力』の塊が暴走を行い始めて行く。
「――さて、出来れば彼の作り上げた『魔力』の分と寸分違わぬ程度が望ましいが『二色』と『一色』の点在分となると、流石に目測だけで見極めるのは相当に至難だな。では、まず確実に耐えられる『耐魔力』を用いて、直に浴びた瞬間に耐えられると判断出来るまで『耐魔力』落とすと……しようか!」
シギンはそう口にすると同時、口元に人差し指と中指を持っていきながら何かを呟く。
――すると次の瞬間、四方八方に迸っていたブラストの『魔力圧』は、瞬く間に一つの方向に指向性が固まり始めると、そのままシギンに向かっていき始めるのだった。
本来であれば、このまま『軽減』を行ったり、そのままダメージを全く受けないように『打ち消す』事も容易に行う事が可能なシギンだが、先程彼が思いついた事は、ブラストの『三色併用』になり損なってはいるが、それでも『天色』になりはじめている『青』と、これまでノックスの世界ではその身に被弾の経験をしたことがない魔族の『紅』が用いられた『併用紛いの魔力』の効力を直に受ける事であった。
何故そんな事をするのかは、同じく『魔』の概念理解度を相当に深いところまで到達している筈の神斗にさえ理解が及ばぬところではあるが、それでもシギンの事を自分以上の概念理解者なのだという事を踏まえた上で、彼の注文した通りの動きを見せ始めるのだった。
やがてブラストの『魔力圧』を自分に向けるように仕向けたシギンもまた、自身に『青』と『金色』の『二色の併用』を行い始める。
但し、先程述べたように『耐魔力』を完全にブラストの『魔力圧』の効力を受けないレベルまで上昇させる事はさせずに、同等程度よりやや高い程度に合わせて行う。
そうしてその直後、ブラストの『魔力圧』がシギンの元に到達し、バチバチと音を立てながら『魔力圧』はシギンの身体に襲い掛かるのだった。
「!?」
ブラストは何も対策をせぬまま、自身の最大火力といえる『魔力圧』を直撃させたシギンに驚き、目を丸くさせるのだった。
(先程の話では、俺にもこの部屋にも、そしてシギン殿自身にも被害を齎さぬようにする筈ではなかったのか! あ、あれでは他の場所に被害は出なくとも、シギン殿自身に甚大なる被害が……――!?)
そのブラストの心配を余所に、直撃した筈のシギンの目は少しも苦しそうに見えず、それどころか真剣さの中にも愉悦のようなモノが交り始めて行くところをブラストは目撃する。
そしてブラストの『魔力圧』を耐えていたシギンは、そこから更に自分の『耐魔力』を弱めていくと、そのまま神斗に合図を送るかの如く目配せをする。
「ここから僕の役目というわけか。仕方ないね……!」
そう呟く神斗だが、まだそのまま待機状態で周囲に『魔力』をスタックするだけに留めると、目まぐるしく視線を部屋の四隅に動かし始める。
それはこの後にシギンが行うであろう『耐魔力』の弱体化による『魔力圧』の影響を及ぼす箇所を絞り、その場面に『透過』で打ち消す準備の為のモノのようであった。
自分の意図を正しく理解した様子を目で捉えたシギンは、満足そうに視線を目の前のブラストの『魔力圧』に戻し始めると、被弾している箇所の『耐魔力』を急激に下げ始める。
「ぐっ――!」
これまで全くダメージが通っていなかった『魔力圧』の威力に対して、自身の『耐魔力』を下げた事によって、シギンは明確にダメージが通り始めて苦悶の表情を浮かべ始めるのだった。
痛みを伴いながらもシギンは、同時に『魔』に対しての探求心を高めていき、今のブラストの『魔力圧』の状態から、魔族の扱う『紅』による『青』の影響、増幅される効力幅、そして一番重要な自身の『二色の併用』と、ブラストの望んでいる『三色併用』に至る為に必要な『魔』の概念の三つの工程を同時に頭に張り巡らせる。
これが出来るからこそ、シギンが長年『最強』の『妖魔召士』と呼ばれていた所以でもある。
単に『魔力』や『知識』があるだけでは届かない領域、経験に基づき、枝分かれしていく数多の『魔』の可能性を一つずつ紐解いて『解』を示し続けてきた『魔』の化け物。
それらの全ての『知』を結集し、彼は更なる高みに向けて『ブラスト』という魔族の『オーラ』の力を直に経験するのであった――。
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