2187.今を取るか、それとも後を取るべきか
「しかし最初は『二色の併用』に関しての悩みなのかと思ったが、まさか『三色併用』について悩んでいたとは驚きだ」
「そもそも『金色の体現者』自体、現れる事が珍しいからね」
横で二人がそう話すのを聞いていたブラストは、どうやらアレルバレルと異なる別世界であっても、同様に『金色の体現者』は珍しいのだなと理解するのだった。
「しかしそうなると助言する事も難しいな。何となく一つ色が増える事でやる事そのものというのは、私の中ではある程度絞れるが、それでも他者にこの感覚を身につけさせられるかと問われたら自信がないというのが本音だ」
「黒羽殿や、あのヌーって魔族が同じ『紅色』のオーラを纏っていたように思うけど、どちらかに教わった方がいいんじゃないかな」
どうやら『三色併用』そのものに対しての驚きなどは少しもなさそうな二人だったが、それでも自分達が『三色併用』を纏えるわけではない様子であり、上手く教えられるかは分からないと告げるのだった。
「……ソフィ様は出来るだけ俺自身の力で体現させたいようなのだ。それにヌーの奴には昨晩少しだけ話をしたのだが、どうやら無意識の内に使えるようになっていたと告げられてな。貴方がたと同様に教える自信がないと言われてしまったんだ」
ブラストは昨夜のヌーとの会話を思い返しながらも、アイツは嫌がらせで教えたくないわけではなさそうだったなと改めて思えた様子であった。
「ソフィ殿もヌー殿も言葉自体は違うが、同様の事をお主に告げているのだと今の話で私は感じたな」
「何……?」
シギンのその言葉には素直に同意する事が出来ず、思わず睨むようにして訊き返してしまうブラストだった。
「これは『オーラ』に拘らず、全ての『魔』の概念技法に通ずる事なのだがな。お主の今の悩みの種である『三色併用』も含めて、こやつの『透過技法』、更にはヌー殿が知りたいと思っているであろう『魔』の概念技法に関してもだが、全て自分の力である程度までは自分の力で理解に至らなければ、進んだ先で必ずまた壁にぶつかってしまうものなのだ。そしてその時に自分自身で気づいたのではなく、他者の助言だけで解決を行ってしまうと、どうしても理解に及ぶ事が出来ず、結局はまた後戻りをせねばならなくなる。これが一つ前の段階の話だけであれば問題はないのだが、その前も他者の力を借りていた場合、結局『魔』の概念理解度を深めるたびに、何もかもが本質を伴わない知識だけが手元に残っているだけになってしまう。そうなれば何処までが理解出来ている正しい知識なのか、そして何処からが理解出来ていない知識なのかの見当がつかなくなり、最悪の場合は全てやり直しになってしまいかねないのだ。もしお主がこの『三色併用』という『魔』の概念技法を終着点としていた場合であれば、私がすでにお主の『オーラ』から理解出来た情報をそのまま教える事で『体現』に至る可能性は高くなるのだが、結局のところはそれは自分の力で体現したわけではないが故に、その先に待ち受ける『魔』の概念に関しては、全くの知識不足の状況に陥ってしまい、今以上に苦しむ事になるだろうと容易に予想が出来てしまう」
何となくシギンが言っている意味を理解出来たブラストだが、それならば『助言』そのものを他者にする意味がないではないかと考えて、少なからず苛立ちを覚えてしまうのだった。
「落ち着くのだ、ブラスト殿」
「何の事だろうか……? 俺は『まだ』何も言っていないつもりだが……」
すでにブラストは破壊の衝動に駆られている状態なのだろう。確かに口では明確に暴言めいたものを吐いてはいないのだが、何かの拍子に思っている事を口に出してしまいかねない状況にあるのは明白であり、すでにその態度からシギンは察し始めていたようであった。
「今のお主に告げたところで私の言葉の本質には気づかないだろうが、折角こうして教えを乞いに来てくれたのだから、伝えておくべき事だけは伝えておこう」
シギンの言葉に訝しむように眉を寄せたブラストだが、すでにこの両者の隣に居る神斗は、シギンが何を言うつもりなのかを理解した様子であり、視線を二人から外して小さく息を吐くのだった。
「私が先程告げた『魔』の概念技法についての『助言』の事だが、まず大前提として『魔』の事柄について知りたいと考えている事の下地となる部分をお主がどれだけ理解しているかが重要になってくるのだ。今のお主が知りたいと思っているオーラ技法に関してで言えば、何故お主の纏う『青』の色が淡い色のままなのか。それをまずお主が理解せぬ事には、その先にある『金色』を纏わせる行為そのものを理解出来ずに、私が行う『助言』で『そうあるべきものだ』と理解したつもりになってしまい、本質に気が付かぬまま先の領域へと向かう事になってしまうのだ。しかしお主が纏っていた淡い『浅葱色』と、我々が纏う鮮明な色をした『天色』や『瑠璃色』の違いを正確に理解する領域にまで辿り着きさえすれば、自ずと私の『助言』から真理に到達出来るだろう。つまり『助言』が意味を為さないというわけではなく、現段階のお主への『助言』こそが真理から遠のかせてしまいかねないという事に繋がるのだ」
端的に言ってしまえば、今のブラストの理解力ではまだ、シギンの『助言』を耳にするのは早いという事なのだろう。
神斗もシギンが分かりやすくブラストに説明を行う前からすでに、彼がこう告げるのだろうという事を察していた為に、無理に関わる事をやめて傍観に徹し始めていたのである。
(こういった真面目な事に関しては、面白半分に関わるべきじゃない。もう僕は無理に関わらなくていい事で痛い目に遭うのは御免だからね)
再び神斗はシギン達のやり取りから目を逸らして、過去の苦汁をなめた経験の二の舞を避けようとするのだった。
「つまり俺が『三色併用』さえ覚える事が出来れば充分だという見解であったのならば、シギン殿は今すぐにでも、俺に『三色併用』を纏わせられるという事か?」
「……」
そう返してくるとは思っていなかったのか、シギンはブラストの真意を探るように無言で視線を送った。
「俺はソフィ様に返しきれない程の恩義がある。ソフィ様の願望を叶えると誓ったあの日から、俺は俺なりに研鑽を休むことなく続けてきたつもりだ。もちろん貴方達から見れば、そんなレベルでか? と言いたくなるかもしれないが、少しも嘘を言っているつもりはない。だが、それでも俺はもうこれ以上同じ場所で足踏みを行い続けているわけにもいかないんだ。頼む、今の状態から少しでも脱却出来れば、後は必ず俺は真理とやらに辿り着いて見せる。だから、俺に『三色併用』の道筋に辿り着く為の『助言』をして欲しい!」
そう言ってブラストは、シギンに頭を下げるのだった。
「『三色併用』の『オーラ』の技法で躓いているというのに、本当にその先の更に難度の高い『魔』の概念の『真理』に辿り着けると思う?」
これまで我関せずを貫いていて、面倒事に関わる事を強く拒否していた筈の神斗が、シギンに『オーラ』の技法について教えを乞おうと頭を下げているブラストに、小声で語りかけるようにそう問いかけるのであった。
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