2186.想像を超えた天才達
「それでソフィ殿の仲間の……何て言ったかな?」
「ブラストだ」
「ブラスト殿か。それで私達に話があるようだが、一体何なのだろうか?」
「だいたい察しは付くところだけど、一応訊いておかないとね」
あの後に別部屋に案内されたシギンと神斗は、自分達を指名したブラストにそう告げるのだった。
現在この部屋にはシギンに神斗、そしてブラストの三名だけであり、どういう内容の話をするのかと興味を持って、一緒にこの部屋に入ろうとしていたサイヨウにもシギンは『今は遠慮してくれ』と付いてくる事を断っていた。
「お前た……、ごほんっ。貴方達は『魔』に精通する者達だとソフィ様から伺っている。そこで是非知恵を貸して欲しいと思い、こうしてお呼び立てさせてもらった。恥を承知で頼む、俺に『魔』の概念に関しての知恵を貸して欲しい!」
ソフィの『九大魔王』にして『破壊』の異名を持つブラストが、このように他者に対して教えを乞う姿など、アレルバレルに居る魔族達は想像だにしないだろう。
彼自身、こんな風に他人に頼るような真似をするのは初めての事であったが、今はなりふり構っていられないとばかりに、教えを享受して欲しいと『シギン』と『神斗』に頼むのだった。
「『魔』の概念に関して知識を得ようと考えるのは、その道を志す者達にとっては当たり前の事だけど、君が一体どれぐらい『魔』の概念に関して理解をしているのかを分からない以上は、僕達もおいそれと知恵を貸すとは言えないね。まぁ、黒羽殿の配下というぐらいだから、全く『魔』の概念に精通していないとまでは思っていないけどね」
シギンが何かを考えている横で、先に神斗がブラストに対してそう告げるのだった。
神斗の言葉を耳にしたブラストは、その場で両手を前に出し始める。
「「!」」
それを見たシギンと神斗は、何も言わずとも同時に『オーラ』を纏い始めるのだった。
滑らかに魔力コントロールを行う『シギン』と『神斗』の両名は、先に『魔力』を高め始めたブラストをあっという間に抜き去り、あっさりと自身の持つ『魔力』の『最大値』に到達する。
それだけで『魔力』を高めながら二人の様子を見ていたブラストは、信じられないとばかりに愕然とした表情を浮かべた。
(お、俺より後から『魔力』を高め始めたというのに、まだ俺がしようとしている事に対する必要な魔力量を用意し終える前にすでに、両者共に完璧に高め終えるか……! こ、これがソフィ様の告げられていた『妖魔神』と呼ばれていた者と、あの大賢者に匹敵するか、それ以上の『魔』の概念理解者だという『シギン』殿か!)
目の前のシギン達の滑らかな『魔力コントロール』に目を奪われていたが故に、実はそれ以外にもシギンはこの部屋に『魔神級』の『結界』を展開していたのだが、ブラストはその事に全く気付く事が出来ていなかった。
アレルバレルの世界でも『魔』に関しては、指折りの卓越者である筈の『ブラスト』だが、この『シギン』と『神斗』を前にすれば、普段通りの冷静さを保つ事は不可能だったようである。
そしてそんな事を考えていたブラストは、ようやく自身が行おうとしている事に対しての必要な『魔力量』の準備が整う事が出来た様子で一度目を閉じ始めて集中し始める。
そのまま精神を統一させた後、ブラストは両手に先程高めた『魔力』を別々に用意し、同時に『オーラ』を展開し始めるのだった。
「『青』……いや、二色の併用か」
「我々のとは色合いが違うけど、それでも確かに二色の併用だね」
そしてブラストが行おうとしている事を先に察したシギンと神斗は、同時に同じ『魔』の概念技法の名を口にするのだった。
シギンはこの後にブラストがどういう『魔』の技法を用いるかに注視し、神斗の方はすでに、ブラストが何をしようとしているのかを理解するのだった。
四つの瞳がブラストを捉える中、遂にブラストはソフィの屋敷で行ってみせた事をこの場でも行い始める。
それは左右の掌に『青』と『紅』を用意したその状態から、自身の身体の周囲に『金色』を展開し始めたのであった。
そしてそれを見たシギンと神斗は、同時にブラストから目を離して互いの顔を見合わせて頷くと、こちらも同時に『魔』の概念技法を展開し始めるのだった。
やがてブラストの『金色』の体現によって、屋敷の時と同様に左右の両手に集約していた別種のオーラが雲散していき、オーラでなくなった『魔力圧』は、彼の元から離れて暴発を起こしかける。
ブラストはマズいと判断したが、そこでようやく自分はこの場に『結界』を展開していなかったのだと気づき、慌てて『魔力圧』を自分の身体を犠牲にして何とかしようと、苦肉の策に出始めるのだった。
そしてそんなブラストの様子を見たシギンと神斗は、この後には何も披露するものはないのだろうと判断すると、直ぐにブラストの『魔力』の暴発となる『魔力圧』に対しての対抗策を瞬時に行うのだった。
――魔神域『時』魔法、『塞所細分化』。
――『透過』技法、『魔力』干渉領域。
まず暴発しようとするブラストの魔力が、余所に向かないようにと必死に抑え込もうとするブラストによって、外ではなく内側へと向けられていくところを『シギン』の空間魔法によって、ブラストの『魔力』そのものを細分化し、空間そのものに亀裂を入れたかと思えば、六つの箱と呼べるようなそれぞれ小さな正方形状の空間を生み出して、その中に細分化したブラストの『魔力』を強引に移動させて閉じ込め始める。
ブラストは自身の暴走する『魔力』が、自分の制御を離れて行く感覚を味わうと同時、そのシギンの『空間魔法』によって、自らの『魔力』が閉じ込められていくところを目の当たりにする。
そして信じられないとばかりに目を丸くするブラストを余所に、そのシギンによって閉じ込められたブラストの『魔力』が、今度は神斗の『透過』によって、六つの箱の中から同時に完全消滅させられるのだった。
最後に何もなくなった六つの箱と呼べる正方形の透明な空間は、シギンが指を鳴らすと同時に最初から何もなかったかの如く雲散していった。
「危ないところだったな。しかし咄嗟に被害を出さぬようにと『魔力圧』を内側……、自分に向けたところに私は非常に好感を覚えたぞ」
「そうだね。明らかに先程の『魔力圧』の威力は、彼自身であっても相当の被害を被っていた筈だ。自分が制御出来ない程の『魔力』の威力の攻撃だからね」
先程行った目を疑うような連続で行われた『魔』の概念技法の技巧には何も触れず、シギンと神斗が自分を褒めるような言葉を投げかけてきた事にブラストは、この両者は自身の想像を遥かに超えて『レベルが違いすぎる』と理解するのだった。
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