2185.先代と当代のラルグ魔国王の関係
「レルバノンよ、事情はよく理解した。その上で聞いておきたいのだが、返事を出す事をもう少し延ばせそうか?」
当然ソフィの告げたその返事というのは、ルードリヒ王国側に所属する町の『冒険者ギルド』の勲章ランクAの冒険者達のトウジン魔国の『冒険者ギルド』への派遣に関しての返事の事である。
「え? ええ……。ルードリヒ王国から届いたトウジン魔国の冒険者ギルドへの派遣の件は、丁度ソフィ様がお戻りになられる少し前に届いた情報でしたので、まだ返答を延ばす猶予は十分に残っている状態ではありますが、どうなされるおつもりなのでしょう?」
「我の方から一度エイルの元に出向き、どういう意図があっての事なのかを尋ねてみようかと思ってな。我はすでに魔国王の座を退いてはいるが、それでもあやつと会って話す事は今でも十分に可能だと考えておる。それに相談役の座もすでにディアトロスの奴に任せておるし、発言に対する権限などは何も落ち合わせておらぬ状態だ。そう言った側面から省みても今の我は丁度いい立場だと思ってな」
ソフィはそう言うが、ハッキリと言って本人以外は全くそんな風には思っていないだろう。そもそもラルグ魔国の王の座を退いたとは言っても、レルバノンの元にはいつでもソフィを魔国王の座に戻す調印証の存在がある。
この調印証はソフィが魔国王の座を退いて直ぐに用意したものであり、本来の目的は今後数千年間に渡り、ラルグ魔国の他国に対する抑止力として用意したものであったが、当然に戦時に拘らずに効力は発揮される。
この調印にサインしている者は、あくまでヴェルマー大陸に存在する国の元首達だけだが、それでも十分過ぎる程の効力と呼べるものである。
たとえばラルグ魔国王の座にソフィを戻す事を認めないと公言する者が、調印していない国の元首から発表されでもすれば、その瞬間に現ラルグ魔国王であるレルバノンが、この調印証を公に出す事でサインした全てのヴェルマー大陸に存在する同盟国、友好国の連合軍が瞬く間に出来上がり、調印証明を持つレルバノン魔国王が認めないと公言する者を『認めさせる為の戦争』すらも、当然ながら開始させられる事が可能となる。
そんな調印証書の存在を大陸は違うとはいっても、現在の友好国であるミールガルド大陸の『ケビン』王家や、ルードリヒ王家が知らない筈もないだろう。
ソフィが如何に自分はもうラルグ魔国王の座を退いているからと口にしたとしても、そんな調印証明の存在がある以上は罷り通る事はないと言えた。
そこまで考えたレルバノンだが、直ぐに調印証明の存在を頭から消すのであった。
何故ならソフィが決めた事に関して、現在のこの世界に逆らえる存在など何処の大陸にも存在しないと、結論に至ったからであった。
「そう言えばソフィ様は、ルードリヒ国王とも私的な関係をお持ちなのでしたね」
当然ながらレルバノンの元にも、ソフィが魔国王の立場ではなく、冒険者としての立場でルードリヒ国王と面識があるという情報が届いていたのだった。
「あやつからの依頼が我の知り合いの元に届いた事がきっかけでな。少し話す機会があったぐらいのものだったが、それでも今も思い返せばエイルの奴とは、それなりに交流が出来たと思っておるよ」
レルバノンもこの国の魔国王となる以前から、ケビン王国内の王族や貴族共々に深い関係を構築しており、まだ単なるいち冒険者に過ぎなかったソフィに対しても、レルバノンはケビン王国領の屋敷と、望めば爵位といった貴族位も用意する事が可能であった。
当然に今ではレルバノンもラルグ魔国王となっている為、出来る事が増えた代わりに出来ていた事が出来なくなったとも言えるが、それと同じ事が現在のソフィも私的に可能な領分を得ていても何ら可笑しくはないだろうとレルバノンは考えるのだった。
「ありがとうございます。この件をソフィ様に相談させて頂いた時から全てを委ねようと考えておりましたので、ソフィ様のお考え通りに動いて頂いて構いません。その上で何か出来る事が有れば、何でも仰ってください」
「うむ。悪いようにはせぬ。だが、前にも行ったと思うが少しこちらも私用が色々と立て込んでおるのでな。出来るだけ早めに解決させたいとは思っておるが、ルードリヒ王国に対する返事は可能な限り先延ばしにしておいてくれ」
「分かりました。早速、シチョウ魔国王と、シス女王にも話を通しておきます」
「頼んだぞ」
「はい、お任せください」
ソフィの言葉に恭しく頭を垂れて返事をするレルバノンを見たヒノエ達は、これではどちらが王様なのか分からないなと考えるのだった。
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