2180.リーネが待ち望んでいた時間
ソフィは自分の屋敷の庭で、久しぶりにリーネやベア達と共にのんびり過ごし始める。
先程まではラルグ魔国の魔国王であった頃の話や、現在のレルバノンの話などを行っていたが、そこからハウンド達の話や、ここセグンスで流行り始めている娯楽の話など、ソフィが屋敷に戻ってきたら一緒にしたいと思っていた話をリーネが聞かせてくれて、それにソフィも関心深そうに耳を傾けて相槌を打つのだった。
空を見上げればゆるやかに雲が流れていき、穏やかな晴天の中で二人の楽しそうな会話は続いて行く。
集まってきていたソフィの配下の魔物達も、ひとしきり撫でてもらえた事で満足したのだろう。今はソフィ達の足元で寝転がって気持ちよさそうに眠り始めている。
こうしていると彼らが冒険者達からとても凶悪だと恐れられている魔物達には思えず、一般的な家庭で飼われて、可愛がられている動物たちと何も変わらずに見える程であった。
このおだやかな空間を過ごしていた彼らだが、気が付けばあっという間に時間が過ぎていき、先程まで楽しそうに喋っていたソフィやリーネ達も今では、互いに顔を寄せ合いながら、うつら、うつらと眠りにつきそうになっていた
そんなソフィの元に、レルバノンからの『念話』が届き始めるのだった。
(お待たせしました、ソフィ様。こちらの準備は整いましたので、いつこちらに頂いても構いませんよ)
「む……」
寝惚け眼で虚ろな目を浮かべ始めていたソフィは我に返ると、直ぐにレルバノンに『念話』を返すための波長を合わせ始めるのだった。
(分かった。急かしてすまなかったな。この後直ぐにヌー達にも声を掛けてそちらに向かうとしよう)
(はい、お待ちしております。すでに王宮内の者達にも話を通しておりますので、そのままラルグの塔までお越し下さっても構いませんよ)
(うむ、分かった。そのようにしよう)
(はい、それでは失礼致します)
実際に目には見えていないが、その『念話』を切ろうとしている声だけで、レルバノンがソフィに頭を下げているのが目に浮かぶソフィであった。
「今の、レルバノンさんから?」
隣でソフィと共に寝かけていたリーネは、どうやらソフィが突然に庭の隅を見つめながら止まり始めたのを見て直ぐに『念話』を用いているのだと気づいたようで、邪魔をしないように隣でソフィが『念話』を切るのを待っていたようであった。
「うむ。どうやらあちらも準備が整ったようだ。お主も一緒に行くだろう?」
「ええ。でも、久しぶりだから少し緊張するわね……」
「クックック、直接レルバノンの部屋まで行く事になっておるからな。見知った者達ばかりだから、そんなに緊張することもあるまい」
「そう? でも貴方の世界に居た人達や、ヒノエさん達の居た世界から来た人も居るのでしょう? やっぱり初めてだと緊張するわね……」
不安げにそう言い始めたリーネを安心させようと、ソフィが声を掛けようとしたその時だった。
(おい、ソフィ! そろそろ昼だが、まだ行かねぇのか?)
今度はレルバノンではなく、朝方にこの場所から東の空へと飛んで行ったヌーから『念話』が入るのであった。
(今レルバノンから連絡が来たところだ。一度リビングに集まって全員に説明を行おうと思う。お主も一度屋敷の庭へ戻ってきてくれぬか?)
(ああ、分かった)
(では、待ってお……)
しかしソフィが続きを告げようとしたところ、直ぐに『念話』が切られるのだった。
「どうやら今のはヌーさんからだったみたいね?」
「クックック、分かるか?」
「ふふ、その『念話』……? っていうのが切れたタイミングで貴方が少しだけ眉を寄せたからね。多分貴方はまだ何か言おうとしていたんでしょうけど、勝手に切られたってところかしら?」
リーネは内容を聞いていたわけではないのだろうが、まさにその通りだった為にソフィも苦笑いを浮かべるのだった。
そしてそんな話をしていた時に唐突にソフィが空を見上げ始めると、つられてリーネも空を見上げる。
一瞬だけ空に一筋の光が見えたかと思えば、次の瞬間には目の前にヌーが現れるのだった。
どうやら『高等移動呪文』を用いてこの場に戻ってきたのだろう。
すでにこの場所の座標も正確に把握出来ていた様子であり、ソフィとリーネの前に寸分違わずに到着して見せる大魔王ヌーであった。
「待たせたな」
「クックック、まだ『念話』を切ってからそれ程経ってはおらぬぞ。まぁよい。ではリビングに行くとしようか」
「そうね」
リーネは久しぶりにのんびりとソフィと過ごす事が出来て、満足そうに笑顔で返事をするのだった。
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