2179.リーネが告げる隠れたメッセージの意味
約束の時間まで庭で配下の魔物達と戯れていようとソフィが考えていると、朝の家事を終えたリーネが庭に顔を見せるのだった。
「もうレルバノンさんに話は通したの?」
「うむ。昼頃に向かっても良いかと尋ねたら直ぐに了承してくれた。準備が整い次第、またあやつの方から『念話』を送ってくれる事になった」
「そう。急な用事でも直ぐに時間を作ってくれたレルバノンさんに感謝しないとね」
「そうだな。先程話をしていて思ったが、やはり相当に多忙なようだ。我がラルグの魔国王を務めておった時とは比べ物にならぬようでな……」
「そうなのね……。でも日常の忙しさは今の方が上でも貴方の時は、別の意味でもっと忙しかったじゃない。むしろあの時の方が今より大変だったんじゃないかしら?」
「む? そうか? あやつは今朝も会議を行っておったのだぞ? それも最近はヴェルマー大陸だけではなく、友好国となった『ケビン』王国や『ルードリヒ』王国といったミールガルド大陸の王族や貴族達とも交流を深めておるようだし、我の時とは比較にもならぬ程に忙しくなったと思うが」
リーネからソフィが魔国王だった時の方が忙しかったんじゃないかと問われた為、過去を思い返しながらそうソフィが口にすると、直ぐにリーネは両手を上げるジェスチャーを交えながら口を開いた。
「さっきも言ったけど、確かに日常的な忙しさは間違いなく今の方が上でしょうね。でも考えてみて? 貴方が魔国王だった時は、レアちゃんが別の世界から多くの軍勢を引き連れて襲撃を行ってきたり、龍族の国からキーリちゃんたちがこちらも龍の軍勢を引き連れて国ごと消滅させようと動いてきていたのよ? もし今のレルバノンさんが貴方と同じ立場に晒されていたら、きっと忙しいでは済まされなかった筈よ?」
リーネの言葉を受けたソフィは、確かに有事の際の話をされてしまえば比較にならないだろうという結論に至り、議論の余地さえも失わされるのだった。
「ね? 貴方の時も貴方にしか出来ないやり方でラルグ魔国を立派に守っていたし、今のラルグ魔国があるのも貴方の功績で間違いないのよ」
苦笑いを浮かべていたソフィにそう告げたリーネは、そのままソフィの肩に頭を乗せるのだった。
「施政の方針が違っていても、貴方は立派に務めを果たしていたと思うわ。国の内側の為に行う政も大事だけど、外からの圧力に晒された挙句、そのまま国の存続が危ぶまれるような事態になれば、いくら会議の数を重ねても役に立たないかもしれない。どちらも大事な事で正しい事だとは思うけど、そこに無理に優劣をつける必要もないと私は思う。大事な事は国に生きる者達の日々の安寧を長く保てられるかどうかだしね」
ソフィが現ラルグ魔国王であるレルバノンの方が仕事をしていると、暗に告げるような言葉を出したソフィに対して、それにやんわりと反論する形でリーネは優しく諭すように口にするのだった。
国の統治は決して有事の際の事だけを考えるのが重要というわけではないが、何かあった時に正論を並べ立てるだけで抵抗を行う術を持たなければ、国力差による暴力で一方的に蹂躙されて終わる場合もある。
施政の違いはあれど、リーネはソフィが立派に魔国王としての務めを果たしたのだと、魔国王の座を退いた今になって改めて気づかせるように伝えたのだった。
「やり口は違えど、我にしか出来ぬやり方で務めを果たした……と、お主は言いたいわけか」
「ええ、その通りよ。貴方は分かっているようで分かっていないみたいだけど、考え方を変えれば貴方は常に統治を立派に成し遂げられていた筈よ。後から結果だけを見て何かを口にするだけの人達より、行動を伴って守ってきた貴方は、間違いなく正しい事をやってきたと胸を張っていい」
それはこの世界の事を言っているのだろうか――。
――それともリーネは『アレルバレル』でのソフィの行ってきた統治の悩みについて、暗に言及しているのだろうか。
自分の肩に頭を乗せながら、広い屋敷の庭を見つめているリーネの様子からは、最後までソフィは判断がつかなかった。
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