2178.レルバノンと行う念話
ソフィは用事を思い出したと言って空へと飛び去って行ったヌーを見送った後、庭に居る配下の魔物達をひとしきり可愛がりながら、レルバノンに『念話』を送り始めるのだった。
(聞こえておるか?)
ヌーが居なくなって更にソフィの隣に集まってきた配下達だったが、ソフィがレルバノンに波長を合わせて『念話』を使い始めたのを察したベアが、ソフィ様の邪魔をするなとばかりにひょいひょいと『ロード』ではないハウンドと同じ種のハウンド・ドッグ達の首根っこを掴んで退かし始める。
ソフィにまだ可愛がってもらっていなかった配下達は、ベアに掴まれて残念そうにソフィの元から離されていった。
そんな配下達を見て、後でうんと撫でてやろうと考え始めたソフィの元に、レルバノンから『念話』が返ってくるのであった。
(お待たせしました。少し会議が長引いておりましたので……)
(むっ、お主はもう働いておったか……。この時間であればまだ余裕があるだろうと思ったのだが……)
ソフィが魔国王であった頃、今のレルバノンと同様に頻繁に会議が行われていたが、こんな朝早くから行われる事は稀であった為、自分が務めていた頃と、今のラルグ魔国の政がこんなところでも少しだけ異なっていると感じられたソフィであった。
(本当にすみません、ソフィ様。前回も少しだけお話させて頂きました通り、現在は『ミールガルド』の王族達との会合も頻繁にありまして、それに対する会議も我が国で行わなければならなくなり、毎日決まった時間に行われていた会議だけでは収まらず、常に話し合いを行わなければ間に合わない状況に陥っているものでして……)
ソフィはレルバノンの切羽詰まった様子が『念話』からも伝わってきてしまい、この後にそっちに向かってもいいかと気軽に口にするのも憚れるのだった。
(それでソフィ様、今回の『念話』の件とは、先日話にあった『ヌー』殿と別世界へ向かわれる一件の事でしょうか?)
しかしそんなソフィの思惑を知ってか知らずか、レルバノンの方からソフィが言い出し難かった内容の話を振ってくれたのだった。
(ああ、当初の予定ではそろそろ『レパート』の方に向かうつもりでおったのだがな、少しヌーの身に想定外の出来事が起こってしまったのだ。それであちらの世界へ向かうのを少し遅らせる事となったのでな、お主と直接会って色々と話しておきたいと考えておったのだが……)
(成程、そういう事でしたら昼頃に会って話をしませんか? こちらもソフィ様の耳に入れておきたい内容の話もありまして……)
(そう言えば前にも言っておったな。そういう事であれば、昼頃にそちらに向かっても良いだろうか?)
(ええ、構いません。会議も重要なモノは先程済ませましたし、ラルフ殿やリディア殿、それにディアトロス殿達も貴方に会われる事を待ち望んで居られるようですからね)
今日会う事が『お互いにとって望ましいでしょう』と暗に告げられたソフィは、渡りに船とばかりにレルバノンの言葉に同意するのだった。
(では昼頃にそちらに向かう事にしよう。それですまぬが、屋敷の者達も連れて行っても構わぬだろうか?)
(ええ、もちろん構いませんよ。流石にソフィ様の屋敷に居る配下の魔物達全員をという話でしたら、少々お時間を頂く事になりそうですが)
(クックック! そうだな、イリーガル達にこちらで配下にした魔物達を紹介する良い機会かもしれぬな)
当然レルバノンの告げたのは冗句なのだという事は分かっているソフィだが、あえてその冗句に乗っかる形で話を進めてみせたのだった)
(え? まさか本当に全員連れて来られる……、なんて事はないですよね? さ、流石に昼までにという事でしたら、色々と必要な根回しが間に合わないかもしれません……)
流石にソフィの言葉も冗談だと分かっているつもりのレルバノンだったが、最後の方は本気かもしれないと、徐々に自信がなくなっていく様子がソフィにも伝わってくるのだった。
(いやいや、そこで本気にされると、我も本当に連れて行かざるを得なくなるではないか。当然にそんな真似はせぬよ。リーネ達やヌー達も連れて行きたいと思っただけだ)
(そ、そういう事でしたら、もちろん構いませんよ)
そのソフィの言葉に、安堵した様子のレルバノンだった。
(ではまた昼頃にそちらにお邪魔するとしよう。忙しいところに声を掛けてすまなかった)
(いえいえ、いつも事前にお知らせを頂けて助かっていますよ。それではお待ちしております、ソフィ様)
(うむ、ではな)
その言葉を最後にソフィはレルバノンとの『念話』を切るのだった。
「うむ、上手く行って良かった。後はヌーの帰りを待つばかりだな。リーネ達にも報告に行くとしようか」
そうソフィが独り言ちると、ベアによってこの場から引き離されていたハウンド・ドッグ達は『もう行っちゃうの?』 とかばかりに残念そうな表情を浮かべてこちらを見るのだった。
「クックック、まだ時間は充分にあるしな。もう少し庭でゆっくりするとしようか」
ソフィが改めてそう口にすると、ベアの元から一斉に配下の魔物達が嬉しそうにソフィの元に駆け寄ってくるのだった。
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