2175.大魔王ヌーを覚えている魔物達
「我はこの後直ぐにラルグ魔国に向かおうと考えておるが、一緒について行きたいという者は居るか?」
朝食を済ませた後、まだ全員がこの場に居る間にソフィはそう告げた。
「ソフィ様、向かわれるラルグ魔国には、ノックスの世界から共に来られたという方々が居られるのですよね?」
「うむ。前にお主に告げたシギン殿や、神斗殿も居るぞ」
「では、是非私も連れて行ってください……!」
「分かった。ではレルバノンの奴にお主をシギン殿達に合わせて欲しいと先に伝えておくとしよう」
「……ありがとうございます!」
ソフィの自分を思っての粋な計らいに、ブラストは感激しながら感謝の言葉を口にするのだった。
「ヌーよ、お主も共に来ぬか? どうせ当面の間はここに過ごす事になるのだ。今の内にこの世界に来ておる我の配下達と改めて顔を合わせておくのも悪くはないと思うのだが」
ソフィは自分の配下の者達の中で一番相性が悪いと思っていたブラストと、ある程度酒宴を通して打ち解けている様子を見せているヌーに、今ならば魔王軍の主だった者達と会わせても問題はないだろうと考えて、そうヌーに提案を持ちかけるのだった。
「そうだな……。レパートに向かう予定を少しずらす意味でも、先にシギン達との約束を優先してもいいかもしれねぇな……。テア、お前もそれで構わねぇか? 例の食事処へは夕方から向かっても問題ねぇだろ? もう場所は覚えてんだから『高等移動呪文』でも行けるしよ」
「――」(ああ、私もそれで構わないよ)
「よし、決まりだな。ソフィ、俺達もてめぇらと一緒に『何たら』って国に向かう事にする。それで今回こそ夕食は任せておけ。てめぇらに最高の調味料を加えた魚料理を用意してやるからよ」
ソフィはその言葉を聞いて、どうやら今晩も当たり前のようにここに泊まるつもりなのだと知り、嬉しそうに顔を綻ばせた後、首を縦に振るのだった。
「リーネよ、これでお主も何の気兼ねもなく我と共に行けるだろう? 夕食は『今度こそ』ヌーが用意してくれるそうだからな」
「ちっ! ソフィの女、昨日は悪かったな。今晩こそ間違いなく用意してやる」
「べ、別に私は何も思っていませんから……。用意して下さるのは嬉しいですけど、無理しないで下さいね?」
本当に何とも思っていなかったリーネは、慌ててヌーにそう告げると少しだけ不機嫌そうにソフィに視線を送るのだった。
「クックック、それでお主も付いてくるだろう?」
「ええ……。それじゃ久しぶりに私も家を出る事にするわ」
「決まりだな。では昼にまたここに集まってくれ。それまでにこちらの予定をレルバノンに伝えておく」
「分かった」
「分かったわ」
「分かったぜ」
「「分かりました」」
そう言ってこの場に居る全員が、ソフィに返事をするのだった。
…………
今日の方針を決めた後、ソフィは自室へ戻ろうとしたところをヌーに呼び止められた。
「ソフィ、ちょっといいか? シギンらのところへ向かう前にちっと話があるんだがよ」
「構わぬよ。昨晩の事であろう?」
当然ソフィもヒノエと共にミールガルドへ向かった事をヌー達にも知られていると理解していた為に、今日中に何があったかを尋ねられるだろうと考えていたのだった。
「ああ、まぁな」
「では、話は庭でも構わぬか? 屋敷に居る間は出来るだけ『ベイル』や『ハウンド』達に構ってやりたいのでな」
「てめぇの配下の魔物達か。分かった、庭で構わねぇよ。テア、お前はどうする?」
「――」(私はもう少しだけ部屋で寝ていてもいいか?)
「昼にまた起こしてやるよ。昼にシギン達の元に向かった後、夕方にはまたあの食事処へ向かうから忘れるなよ?」
「――」(あいよ。ふぁあ……)
テアはヌーに返事をした後、欠伸をしながらこの場から離れて行くのだった。
「では、行くとしようか」
ヌーとテアのやり取りを見守っていたソフィがそう告げると、ヌーは頷いてそのまま二人で屋敷の庭へと向かうのであった。
…………
今日もソフィが庭へと顔を見せると、直ぐに庭に居たソフィが名付けを行った魔物達が我に先にとばかりに集まってきたが、ソフィの傍に居る背の高い男がヌーだと気づくと、ロードやベアといったソフィの魔物達の中でも顔役の者達が身構えるように動きを止めて、その周囲に居た魔物達がベア達を守る盾となるように動き、唸り声を上げたり鋭利な爪を見せ始めるのだった。
どうやらレイズ魔国でヌー達の姿を見た事がある魔物達は、今も彼の事を覚えていたのだろう。ソフィと共に居る事から、直ぐに襲い掛かるような真似はしなかったが、それでもヒノエ達や六阿狐が姿を見せた時とは明らかに異なる態度を見せるのであった。
「落ち着くのだ。今のこやつは敵ではない。それどころか我の客人なのだ」
そう言ってソフィが軽く手を挙げて庭で威嚇を行う配下達に告げると、直ぐにそれを聞いた『ロード』の者達や『ベア』が同胞達を宥めて威嚇を即座に止めさせるのだった。
その瞬間、庭に居た数百といった数の魔物達の威嚇が止み、空に居た魔物達もヌーに襲い掛かる為に向けていた毒針などを元に戻していく。
そしてそのままソフィがヌーを連れ立って、明朝にリーネ達が座っていた縁側の方へと移動を行いそのまま腰を下ろすと、おっかなびっくりといった様子でハウンド達は、ソフィとヌーの周りに集まってくるのだった。
普段であればハウンド達は、このままソフィの胸元に飛び込んできて、撫でて欲しいとばかりに頭を差し出すのだが、今は隣に居るヌーを恐れているのか、忙しなく座ったり立ち上がったりしながら、ヌーの様子を見ているのだった。
「クックック、どうやらお主はこやつらに相当警戒されておるようだぞ」
「ふんっ、知らねぇよ……」
どうやらヌーも目の前に居るソフィの魔物達が、かつてレアを狙った時に庇おうとした『災厄の大魔法使い』と共に居た魔物達だと気づいたようだが、わざわざそれをここで言う必要はないと判断したようであった。
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