2165.ソフィの力の開放と、結界の崩壊
「分かった。ヒノエ殿にもついて来てもらう事にしよう。だが、最初に告げておくが、今回はあくまでヌーを襲った者の確認に向かう事が目的なのだ。こちらから手を出すつもりはないという事は、充分にヒノエ殿も心に留めておいて欲しい」
「! わ、分かった! 恩に着るよ、ソフィ殿!」
一緒に連れて行ってくれると言われた事でヒノエは、頭を上げながら嬉しそうな顔を浮かべるのだった。
「もう夜も十分に更けておる。急いで行くとしよう」
「ああ!」
ソフィ達はあまり音を立てないように玄関から外へ出ると、直ぐに庭に居たベア達がソフィの元に近づいてくる。
「我達は少しミールガルドに向かう。何かあれば直ぐに我に『念話』で教えてくれ」
「……分かりました。お気をつけて」
そう言ってベアは何をしに行くかなど訊ねる事もなく、主であるソフィの言葉に頷いて見送るのだった。
そしてベア達を一瞥した後、ソフィはヒノエの肩を掴んだ。
「え、ソフィ殿……?」
「こんな時間だ。もう誰も近くを歩いてはいまい。このまま我の魔法で『ミールガルド』大陸へ向かうが良いな?」
「そ、そういう事か! 了解したぜ」
急にソフィに身体を触れられて頬を赤らめていたヒノエは、理由を聞いて慌ててこちらも頷くのだった。
「では、行ってくる」
ソフィはベア達にそう言い残して、ミールガルドへと『高等移動呪文』で移動をするのであった。
……
……
……
そうしてソフィ達が『高等移動呪文』の効力で一瞬の内に、ミールガルド大陸にある『クッケ』の町付近の山脈に辿り着くと、ソフィは辺りを見渡し始める。
ヒノエもノックスの世界に居た頃に比べると、ソフィの『高等移動呪文』にもだいぶ慣れた様子であり、直ぐに戦闘態勢を取りながらソフィの『感知』の邪魔にならぬように刀に手を充てて、じっとその時を待つのだった。
「ふむ……。前回この大陸でこの山から視線を感じた時は、直ぐに居場所を突き止められたのだが、今は『結界』を張られておる為か、直ぐに居場所を割り出す事は出来ぬようだ」
「ソフィ殿でも直ぐには分からねぇか……。やっぱり、その『魔神』って奴は相当にすげぇんだな……。私の方も気配を探ってはいるが、山の動物らしき気配以外に察知出来ねぇし、どうしようか?」
「普段であればこちらに姿を現すつもりがないのであれば、我も無理に炙り出すつもりはないのだが、今回で我も色々と確かめておきたい。少し強引に動かせてもらうとしよう」
ヒノエにそう告げた後、ソフィは直ぐに力の開放を行い始めた――。
――六割の開放。
大魔王ソフィの目が金色に輝き始めた瞬間、彼の身体の周囲に『金色』『青』『紅』の三種の色違いのオーラが展開されていき、ソフィが軽く右手を上げながら握ると、完璧な『魔力コントロール』から色違いの三種のオーラが一瞬の内に綺麗に交ざり始めていく。
あっという間に彼の戦力値と魔力値が跳ね上がると同時、ソフィはその状態でゆっくりと空へと浮き上がっていく。
「まずはこちらの察知能力の阻害を行っておる面倒な『結界』を全て失くすとしようか……」
ソフィはそう言って浮き上がった空の上で右手を軽く横に振ると、目に見えない衝撃波が山脈を駆け巡り、全ての『魔』の概念から齎されている『結界』を音もなく掻き消して見せるのだった。
――次の瞬間、ソフィとヒノエが同時に同じ方向へと視線を向けた。
ソフィは『魔力感知』、そしてヒノエの方は独自に持つ気配察知能力から、目的の存在を探り当てられた様子であった。
「ソフィ殿……!」
「うむ。どうやら思っていた通り、この世界に来る時の『魔神』で間違いなかったようだな」
そう告げるソフィの視線の先、何もないように見えた空間に突如として亀裂が入ると、そこからあの『神々の通る道』である『次元の狭間』に居た『変化の魔神』が、あの時と同様の暗い影の姿のままでこの場に姿を現すのであった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!