2160.謝罪と本音
「ソフィさん、こちらの部屋でよろしいのでしょうか!」
「おお、すまぬな。その部屋で合っておる」
リビングで寝てしまったリーネを横にさせる為、寝室まで彼女をおぶさりながら歩いているソフィの為に、先導するように前を歩いていた六阿狐が寝室の部屋の扉を開けてくれたのだった。
ソフィは開けてくれた自分の寝室に入ると、そのままベッドの方へと歩いていき、リーネを起こさぬように優しく下ろして横にさせるのだった。
そしてソフィはリーネの身体が冷えぬようにと布団を掛けてやると、寝室に入らずに部屋の前で待っている様子の六阿狐の元に戻るのだった。
「お主も律儀な奴よな。一緒に部屋の中に入ってくれば良いものを」
「い、いえいえ! ソフィさんとリーネ様のお部屋に勝手に入るわけには参りません!」
「クックック、そんな事は気にせずとも良いというのに。さて、それではリビングに戻るとしようか」
「あ、あの……!」
六阿狐はリビングに戻ろうとするソフィに、待ったを掛けるように声を掛けるのだった。
「む……? どうかしたのか?」
「あ、いえ、その……」
いつもであれば何事も明瞭に話す六阿狐だが、今回は何やらソフィに話すかどうかで悩む素振りを見せるのだった。
「お主は王琳から預かった大事な仲間ではあるが、我はそれ以上にお主の事を本当の家族のつもりで接したいと考えておる。無理にお主にもそう考えて欲しいとは言わぬが、気に掛かる事があれば、何も遠慮せずに言って欲しい。何かうちの中の事で気になる事でもあるのだろうか?」
六阿狐はソフィに本当の家族のつもりで接したいと言われて、嬉しさで無意識に表情を綻ばせかけたが、首を振って両手で自分の頬を叩きながら無理やりに表情を戻すのだった。
「え、っとですね……。こんな事、本当は私が口にするのは烏滸がましい事なのですが……」
ここまで六阿狐が前置きをするくらいに重要な内容なのだと判断したソフィは、真剣な表情をしながら彼女の言葉を待つのだった。
「り、リーネ様はソフィさんの事を優先して、あのヒノエという人間を受け入れるように話を持っていかれたと思うのです。もちろんリーネ様自身も本心から望まれた事だと思われますし、今はもうソフィさんが受け入れた事についても乗り越えられたと仰られていましたが、それでもリーネ様はまだ我々が考えるより遥かに幼い御方です。精神面においてもしっかりなされているように見えますが、本当に成熟しきっているのかと問われれば、難しいのではないかと六阿狐は心の何処かで心配しているのです……」
どうやらヒノエを受け入れたソフィに対して、六阿狐はリーネの事を心配して声を掛けたのだとソフィは理解をするのだった。
「乗り越えられた……か。リーネはお主にそのように告げていたのだろうか?」
「……」
リーネがソフィに隠そうとしていたのかもしれない本音の部分を、このような形で明るみにしてしまって本当に良かったのかと悩みながらも、それでも彼女を大事に想うがあまり、六阿狐はソフィの質問に無言で頷くのだった。
「そうか……。やはりあやつは我の気持ちを優先させようと、そう考えていたのだな……」
リーネがソフィの事を第一に優先して考える女性なのだとソフィも分かってはいたつもりだが、ここまで私情を押し殺してまで受け入れさせようと動いた事に対して、ソフィも険しい顔を浮かべるのだった。
「知らせてくれて感謝するぞ、六阿狐よ」
「は、はい……」
「リーネの奴が今回の事を決断した以上、もう引っ込めるつもりはないであろうし、お主に対してそのような言葉を告げたのだとしたら、もう我も決して蒸し返す事は出来ぬ。そんな真似をすれば、覚悟を決めて決断を行ったあやつを侮辱する事に繋がってしまうからな。だが、そうか……、うむ……」
ソフィも言葉ではそう告げはしたが、六阿狐と同様に改めてリーネの気持ちを考えた上で真剣な表情を浮かべるのだった。
「……リーネ様は、本当にお強い御方ですよね」
「うむ、我の自慢の妻だからな」
「き、聞いて頂いてありがとうございました。本当なら私の中で留めておかなくてはならなかった事だと思いますが、リーネ様の覚悟の強さだけは、ソフィさんにも知っておいて欲しかったという強い気持ちを止められなかったのです……!」
六阿狐も断腸の思いでソフィに話したのだろう。もしかするとこのタイミングでもなければ、一生ソフィに告げることなく、自分の中でリーネの覚悟した想いを一人持ち続けていたかもしれない。
だが、しかしそれでも結果としてリーネの味方で在りたいという強い気持ちを最後まで、彼女は押し殺す事は出来なかったようであった。
「……リビングに向かうとしようか」
「はい、お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
ソフィは頭を下げて謝罪する六阿狐の頭を一撫でした後、共にリビングに向けて歩き始めるのだった。
……
……
……
――そしてソフィ達が部屋を離れて行った後、ゆっくりとリーネは目を開き始める。
(ソフィに知られちゃったか……。我慢出来ずに六阿狐ちゃんの前で本音を見せちゃった私のせいね。それにしても六阿狐ちゃんには、申し訳ない事をしてしまったわね……)
辛い思いをさせた六阿狐に対して、正面きっては謝れないと理解するリーネは、胸中で六阿狐に謝罪を行うのであった。
……
……
……
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