2157.懲りない大魔王ヌー
結局ソフィは何と声を掛けるかと思案を続けていたが、その間に料理を作り終えた様子のリーネ達がソフィ達の前に姿を見せ始めるのだった。
「ソフィ、こっちはもう食事の支度は出来たけど……」
そう言いながら顔を見せたリーネだが、すでに少し前から準備は整っていた様子であり、どうやらソフィとブラストがお互いに難しい顔をしながら無言だったところを見て、声を掛けて良いのかどうか迷っていたようである。
「むっ? すまぬ、色々と考え事をしていたようで気づかなかった。それにしてもえらく早かったのだな」
「ヒノエさんと六阿狐ちゃんが手伝ってくれたからね。でも最初に言っておくけど、お客様に出せるような大したものじゃないわよ……?」
「それは突然だったのだから仕方あるまい。それに我はお主が作ってくれたものであれば何でも嬉しいぞ」
「もう……! 分かったから貴方はヌーさん達に声を掛けてきて」
リーネの顔をしっかりと見ながらそう言って笑みを浮かべるソフィに、リーネは嬉しそうな顔を浮かべかけたが、直ぐに照れた様子を隠すように言葉を返すのだった。
「うむ、直ぐに呼んでくるとしよう」
先程ヌー達の部屋から出てきたところだったように感じられたソフィだが、確かにリビングに来てからそれなりに時間が経っていたようで、もうこんなに時間が経っていたかと思いながら椅子から立ち上がるのだった。
ソフィが立ち上がると、直ぐに六阿狐とブラストが後に続こうとしたが、部屋から呼んでくるだけだから構わないとばかりに手で制止を行い、そのまま一人でリビングから出ていくのだった。
…………
そしてソフィがヌーとテアが居る部屋の扉をノックすると、直ぐに部屋が開かれて中からヌーが顔を見せるのであった。
「食事の準備が整ったが、もう起きて大丈夫なのか?」
ソフィの魔法のおかげですでに倒れるような状況からは脱却した様子だが、それでも怪我が原因というわけではなく、ヌーは『魔力枯渇』で倒れていたが故に、まだ顔色そのものは優れてはいない様子なのが直ぐに表情から見て取れたソフィであった。
「ああ、ワリィな。食事の準備までさせちまってよ……」
「それは構わぬが、悪い事は言わぬから体調が戻る数日間はここでゆっくりと休むが良いぞ」
素直に謝罪を行ったヌーにソフィがそう告げると、直ぐに何か言葉にしようと口を開きかけたが、そんなヌーを制止するようにソフィは声を被せる。
「そんな容体ではとてもではないが、直ぐにフルーフとは戦わせられぬ。体調そのものは普段通りに戻ったように感じられておるやもしれぬが、これからお主が生き死にの戦闘を行うのであれば話は別だ。あやつと戦う以上はお主も、自分で今のままでは不十分だという事は理解しておるのだろう?」
「……ああ、分かっている」
ここで片意地を張っても意味がないと理解している為か、素直にソフィの言葉に頷いて見せるのだった。
今のヌーの状況であっても相手が取るに足らない程の魔族であれば何も問題はないが、当然に大魔王フルーフと『死神皇』であれば話は別だと、ヌー自身が認めている様子であった。
「ひとまずは普段通りの体力の回復を目指すが良い。今更過ぎてしまったことを考えても仕方がないのだからな」
今のヌーが目の前に居るソフィの『忠告』を無視しなければ良かったと後悔している様子なのを悟ったソフィは、そう言って自分を責めるなとばかりに先に声を掛けたのだった。
「それも分かっている。何処かでまだ俺はこの世界の事を侮っていたようだ……。しょうがねぇから当面は大人しくしておく。だが安心しろ、そうと決まれば明日の分の食事だけは間違いなく準備しておいてやる。だからワリィが今日だけは許せ……」
どうやらヌーはまだ『魚料理』を諦めてはいない様子であり、その口ぶりからは明日にもまた懲りずに『ミールガルド』へ向かおうとしているようであった。
ソフィは呆れるようにヌーの顔を一瞥した後、直ぐに隣に立っているテアの方に視線を送る。テアの方もそんなソフィの視線に苦笑いで返していた。
「……分かった。では明日の食事は今度こそお主に任せるとしよう。だから今晩は酒も控えめにするのだぞ」
「ちっ! わぁったよ。こんな直ぐにまた、てめぇの忠告を破るわけには行かねぇからな。大人しく言う事を聞いておいてやる」
「クックック、そうするのだな。ではリビングに行くとしよう。すでにリーネ達が温かい食事を用意してくれておるのだ」
「ああ、本当にワリィな……」
どうやらヌーは本当に反省している様子であり、急だったのにも拘らず、自分達の分まで食事を用意してくれたソフィやその仲間達に申し訳ない気持ちを抱きながら静かにそう呟くのだった。
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