2156.何とかしてやりたいと考えるソフィの苦悩は続く
ソフィは隣で強くなる為にはどうすればよいのかと苦悩するブラストの横顔を見て、彼が何度目かの強くなる為に必要な『壁』に再び辿り着いたのだろうと判断する。
しかしソフィ自身はその『壁』そのものを迎えた事はなく、あくまで自分の研鑽の中で多少強くなる為に必要だった事を思い返しながら、更にはこれまで見てきた多くの魔族達が苦しんできたところを省みた事による傾向から予想立てているのであった。
まずソフィ自身が思う躓くポイントというのが、多くの魔族達が『魔王』へと至るのに必要な『青』のオーラの体現である。
『オーラ』の技法は魔族の場合、先に『紅色』のオーラを体現する事から始まるが、多くの魔族達は『紅』を会得しようと思って会得するのではなく、強くなる過程で他の魔族が使うところを見たり、直に教わる等で得られる場面が多くあり、体現を果たす事にそこまで悩む必要はないのだが、そこから『青』を同じ要領で会得しようとすると、これが全く上手くいかないのが実状なのである。
その理由として『青』は『紅』とは異なり、他者から教わって直ぐに覚えられる程簡単ではなく、また会得に必要な基礎力が鍵となってくる為、魔族達の『基本研鑽演義』を身につける事をせずにはどうにもならないのだ。
加えて知識として身につけられていたとしても、体現に必要な『魔力コントロール』、そしてそのコントロールを行うのに必要な『魔力』の動かし方が必要となる上、元々の『魔力量』も必要となる為に多くの魔族達がこの最初の壁で諦めてしまい、最終到達領域が『最上位魔族』で終わる者も珍しくない。
『最上位領域』に達する程の魔族であれば、自分の強さに自信を持つ者も出て来る為、オーラに頼らずとも自分が『魔王』の器なのだと考えてそれ以上の研鑽をせずに威張り始める者も多いのだ。なまじ力が強い分、アレルバレル等のような『魔王』が多く蔓延る世界でもない限り、もう充分だと判断してしまうのだった。
その壁乗り越えた先、会得したオーラの練度の向上等、まだまだ身につけていかなくては強くなれない研鑽の段階はあるが、待ち受ける壁というのが『二色の併用』や『三色併用』を会得する時となる。
これは『紅』から『青』を会得する時以上の難易度であり、特に『三色併用』に関して言えば、アレルバレル程の世界でソフィに次ぐ強さを誇っていた『大魔王ヌー』でさえ、テアという新たに契約を行うに至った『存在』をなくして会得する事は出来なかった程である。
もちろんソフィや大魔王レキのように、壁を壁とも思わずにさっさと駆け上がって行き、あっさりと『三色併用』を体現してしまう者も居るが、そんなものはあくまでも一握りであり、誰もが『三色併用』を身につけられる程、容易に会得出来る代物ではない。
しかしソフィは自分の配下である『ブラスト』に関しては、すでに『三色併用』を会得する下地は十分に出来ていて、後はちょっとしたキッカケと『気づき』が重要なところまで来ていると考えている。
これは大魔王ヌーが『三色併用』に至る少し前の状態と酷似していて、ソフィもいつブラストが『三色併用』を身につけられてもおかしくはないと思っている状態にあった。
だが、ヌーの時と同様にソフィの口から至るまでの道を全て話す事はしない。これは意地悪く説明をしないというわけではなく、ソフィの見ている『魔』の観点から説明する事で、その先に待ち受ける彼の成長の為の道筋を壊してしまいかねないと考えているからに他ならない。
――もう『三色併用』という『魔』の領域を会得する手前まできている者に対して、余計な助言をする事で成長出来る幅を狭めるどころか、そこで成長を止めさせてしまう可能性すら孕んでいるからである。
今のブラストの強さの領域に辿り着くまで、先に話したような『青』の領域、そして次の『二色の併用』の領域を乗り越える必要があった。そしてそれは研鑽の賜物であり、自分で理解したからこそ辿り着けた境地なのだ。
理解と経験則の連続で成り立つ『自己』の研鑽演義の末、辿り着いた『三色併用』会得の壁を前にして、すでに至っている第三者の余計な助言一つで『成長の可能性』そのものを破綻させてしまいかねないのである。
それ程までに今ブラストが抱えている問題とは、非常に難度が高いものにして繊細なモノなのであった。
だからこそ、ソフィは今後のブラストの事を考えて、自分が至った時の話を客観的に説明する事すらも憚られてしまっていて、何とかしてやりたいという気持ちも相まって苦悩を抱えているというわけであった。
(我はこやつの事を信頼しておる。その信頼は自分だけで乗り越えられるだろうという信頼とは別に、我が客観的な助言をする事に対して、こやつは余計な思案を我の助言から取り入れることなく、我の言葉に対して、自ら良き方向へと捉える事が出来るだろうという信頼だ……。だが、おいそれと決断を下すわけにはいかぬ。万が一、たとえそれ以上の確率だったとしても、ここまで我が認める程の努力を行ってきた者の大事な研鑽を台無しにするような真似は決して出来ぬ)
ソフィはブラストという自分の大事な配下を想うが故に、彼がここまで地道に築き上げてきた『魔』の概念の理解領域を破綻させる事は出来ないと、安易に言葉を掛ける事さえ憚れたのだった。
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