2147.告白に対する本音での返事
変化の魔神の干渉によって強制的に魔力枯渇を引き起こされてしまい、動けなくなったヌーは何もする事が出来ないままではあったが、現在は何とか意識だけは保とうと必死に抗い続けている中にあった。
そんなヌーを救い出そうと必死に彼を抱き抱えながら、ソフィの居るヴェルマー大陸を目指してテアは空を飛翔し続けるのだった。
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そのテア達が目指しているヴェルマー大陸に居るソフィはというと、庭で配下の魔物達と戯れているのだった。
これまで長い期間、ソフィが屋敷を離れてノックスの世界へ向かっていた事もあり、配下の魔物達は自分達に構ってくれる主に喜び、一秒でも長くここに居てもらおうとばかりにソフィの気を引こうと必死になっていた。
ロードの一体である『ハウンド』や、ベイルタイガーの『ベイル』と共に庭で徒競走を行ったり、こちらもロードの一体である『デス』や、他の空を飛べる配下の魔物達と庭の空で遊覧飛行したりと、ソフィの方も配下の魔物達の全員とこれまで構ってやれなかった分、その埋め合わせをするかのように相手をするのだった。
やがてそんなソフィの元に、リーネがヒノエを連れて庭に入ってくる。
「ソフィー! ハウンド達と戯れているところ悪いんだけどさ、ちょっとヒノエさんを交えて貴方と大事な話がしたいから部屋に来てくれないかしら?」
ひとしきり配下の魔物達と戯れ終えて、ベアのお腹にもたれかかりながらハウンドの頭を撫でていたソフィに、リーネが真剣な表情でそう声を掛けてくるのだった。
そして庭の奥の方で他のロード達と一緒に戯れていた六阿狐の耳が大きく揺れ動き、視線を現れたヒノエ達の方に向け始めた。
「む? 昨晩言っていた話だな?」
「ええ、そうよ。最初に言っておくけど、本当に大事な話だから心してね……?」
「うむ、分かっておる」
最後のリーネの確認とソフィの頷きだけで、この話し合いは相当に重要なモノなのだと六阿狐も理解し、昨晩ヒノエが言っていた事なのだと、表情を引き締め直して真剣な瞳を浮かべるのだった。
六阿狐は自分もその話し合いの席に付いて行きたいという気持ちを抱いていたが、ぐっと堪えて帰ってきた時に直接ヒノエから話を聞きだそうと決意してソフィ達を見送るのだった。
…………
今朝皆で朝食を摂ったリビングへと庭から戻ってきたソフィは、早速話を聞こうとリーネ達の方に視線を向けるのだった。
すでに昨晩のリーネとの会話からソフィは、今回の話が何の話なのかの察しは付いてはいるが、どうやらヒノエの方もすでにリーネから事情を聞いているのだろう。ここに来てから一番緊張した面持ちでソフィを見つめているのであった。
全員が椅子に座ると同時、リーネが口を開き始めた。
「もうこれから何の話をしようとしているのかは理解していると思うから、早速本題に入らせてもらうわね」
リーネがそう口を開くと、ソフィもヒノエも直ぐに頷いた。
そしてリーネの口から昨日ソフィと話していた内容通りの説明が語られていき、リーネ自身がどう考えているかを改めて言葉にして二人に言って聞かせながら、更にはソフィ自身がヒノエの事をどう思っているかをこの場で言葉にして欲しいという旨を伝えていく。
リーネがわざわざこの話し合いの場を設けた理由は、ソフィがヒノエの事を本音ではどう考えているかを当事者を前にして話してもらう事であり、もちろんソフィがどう答えたとしてもリーネもヒノエも受け入れる覚悟は出来ている状況である。そこにまどろっこしい建前や、この期に及んでのリーネを慮っての言葉などは抜きにして本音で説明する事をリーネは本気で望んでいるのだった。
もちろんリーネの本音は昨晩ソフィに告げたように、今すぐに自分と同じようにヒノエと一緒になる事を強要するつもりではなく、結ばれる事を前提とした婚約という形で付き合って欲しいと考えてはいるが、ソフィがどうしてもそのつもりがないと一晩経った現在、気持ちを新たに口にした場合は、もうリーネも潔く諦めるつもりである。
そしてヒノエとしても今もソフィと共に在りたいという願望を抱きはしているが、たとえ断られたとしてもソフィの配下として一生を捧げるという決心は少しも鈍る事はないと決意を固めており、とうの昔に彼女は覚悟を終えてこの場に臨んでいる為、彼女も小さく溜息を吐いた後にはしっかりとソフィから目を逸らさぬように、ソフィに真剣な眼差しを向けていたのだった。
「ヒノエ殿、お主からの告白の言葉をノックスの世界で受けた時、我は妻帯者であるという事を伝えて断らせてもらったな」
「……ああ」
「このリーネにお主からの告白を受けたという事を告げる前に、お主に答えを示す事は我には出来なかった。我はリーネを心の底から愛しておる故に、お主と一緒になるという事を最初から考える事の余地すらなかった」
「ああ。もちろん、その事も分かっている。ソフィ殿は何も間違っちゃいねぇ……」
ヒノエはソフィの言葉の一つ一つをしっかりと受け入れようと、少しも自分の感情を表に出す事をしようとせず、膝の上に置いた自らの手を強くを握りながら、ソフィに勘付かれないように懸命に震えを隠し通し続ける。
ソフィとヒノエが向かい合う場所のちょうど真ん中に居るリーネだけが、ヒノエが震え始めた最初から気づいてはいたが、そんな事を少しもおくびに出す事もなく、気づかないフリを続けながらこちらもソフィの言葉を待つのだった。
「――昨日、リーネの気持ちを聞かせてもらうまではだがな」
「……」
「!」
僅かながらにリーネの視線がソフィの口元に移動し、ヒノエの方は自身が想像していたものとは違う言葉がソフィの口から出てきた事によって、こちらは分かりやすく驚きを見せた。
「こやつに私の事は抜きにして、我にお主の事を今一度、しっかり考えて欲しいと言われてな、我はヒノエ殿と過ごした期間の事を最初から思い出し、自分がお主の事をどう思っていたかを自分なりに考えてみたのだ」
「……」
「……」
リーネもヒノエも口を挟むような事をせず、ソフィの次の言葉を待つ。
「どうやら我は自分が思っていたよりもずっと、ヒノエ殿の事を気に入っていたようでな。思い返せば我は何度もお主の元気な姿に気分を良くしていたと思う。そしてお主の突然の思いもよらぬような行動一つ取っても非常に興味深く、先を見届けたくなるような気持ちにさせてくれておった。どうやら我はお主の快活さをとても好んでおるようなのだ。出来ればこの先もお主を近くで見続けていたいと本心から強く思った」
「つ、つまり、それって……?」
ソフィの言葉を噛みしめるように聞いていたヒノエだが、とうとう震えを隠し通す事が出来なかったようで、声を震わせながらソフィのその先の言葉を促すように訊ねる。
「我はこの先もお主と共に在り続けたいと考えておる。出来れば我の傍にずっとお主が居てくれると嬉しい」
ソフィの言葉を受けたヒノエは、その大きな衝撃が身を駆け抜けて行く感覚を覚えると同時、両目から止め処なく涙が流れていくのだった。
そして隣で一緒に聞いていたリーネは、ソフィから視線を外した後に、こちらはとても嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
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