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2146.大魔王ヌーが流す悔し涙

 ヌーとテアが国境から引き返していった後、クッケの町の山脈からヌーに視線を送った『変化』の魔神が溜息を吐くのだった。


「――」(やれやれ、あの魔族と共に居た死神は『狭間の世界』に居た奴だな。魔族の奴は意識を保つ事も出来ぬ程の力量だったと記憶しているが、明確に奴はこちらに視線を向けて何かを探ろうとしていた。狙いはやはりこいつか?)


 魔神の視線の先には、何やら培養槽の中の液体に浸けられている生物が入っており、その中で口を覆う生命維持装置を付けられた状態で眠っている者が居た。


 ――その生物の名は、レキ・ヴェイルゴーザ。


 入れられている培養槽は、元々はアレルバレルの世界にあったものであり、かつて煌聖の教団の総帥であった『ミラ』が実験生物を生み出す時に使っていたモノであった。


 レキはその話を新たに配下にした元『煌聖の教団(こうせいきょうだん)』の分隊幹部であった『マルクス』から聞き、魔族の罹る病に罹患(りかん)して徐々に弱っていく本来の身体を少しでもマシな環境に置こうとして、生命維持装置の代わりとして少しでも役立てばいいと考えてレキ自身が山脈の奥に用意したものであった。


 当然に『梗桎梏病(こうしっこくびょう)』という魔族だけが罹る病を治す事や、身体を維持するのに役立つのかと問われれば、首を傾げる事しか出来ないのだが、何もせずにベッドの上に横たわらせておくよりはマシだろうとレキは考えたようである。


 そしてそんなレキは現在、煌聖の教団の総帥の身体を奪った代替身体の状態で、すでにこの世界から離れているのだが、彼の本体はこの『変化』の魔神が監視している状況なのであった。


 どうやら今の代替身体(だいたいしんたい)となったレキに対しても、一応は監視の目を届かせられてはいるようだが、そんな代替身体のレキなんぞはどうでもいいとばかりに『変化の魔神』は、こちらの本体を優先して見張っているようだ。


 ほとんど何もする事が出来ないレキ本体の身体だが、それでも『煌聖の教団』の総帥であったミラの身体を奪った代替身体のレキよりも、魔神にとってはこちらを優先すべき対象と認めている様子である。


 つまりそれはこんな状態になって尚、煌聖の教団の大賢者『ミラ』よりも、遥かに危険な存在だと『天上界』の上位執行者である『変化の魔神』が、本気で考えているという事に他ならない。


「――」(どういう目的があってここに近づこうとしていたのかは知らないが、一度目だけは警告するに留めておいてやる。だが、次にまたここを探ろうとした素振りを見せたなら、その時は……)


 この山脈の洞窟内に『陰』の姿で背景と同化していた魔神が、突如として現世に顕現したかの如く姿を現し始める。


 そしてここから相当の速度で離れて行く『ヌー』と『テア』の姿を再び視線で捉えると、まるでターゲットをロックしたかのように目を細めて見つめ始める。


 今度は先程行ったような『力』を行使した『警告』ではなく、単なる視線だけではあったが、もう次にヌーやテアがこの場所を目指す事は出来ないだろう。


 少しでもこちらに向かう意志を見せた瞬間、変化の魔神は今度は警告ではなく、確実に仕留めるつもりで動くつもりだからである。


「――」(やれやれ……。上も面倒な任務を課したものよ。どうせならこんな死に体となった者の監視より、あの『守りの要』と契約を果たした『超越者(ソフィ)()()()()()を与えて下さればよいものを……な)


 変化の魔神は『次元の狭間』で自分と相対した存在であるソフィの姿を思い出し、さっさと始末しろとでも命令して欲しいと暗い場所で一人、離れて行くヌー達の姿を捉えたままで胸中で呟くのであった。


 ……

 ……

 ……


 両手で大事そうにヌーの身体を抱き抱えて飛んでいるテアは、ソフィの居るヴェルマー大陸を目指して懸命に空を飛び続けていた。


 すでにルードリヒの国境付近から相当の距離を移動し、もうすぐヌーと一緒に魚料理を食べた港町『コーダ』が見えてくる所にまで戻って来ていた。


 ルードリヒ領内に向かう時の凡そ三分の一程の時間で、自分よりずっと身体の大きいヌーを両手に抱えながら移動を行ってきたテアだが、流石に疲れてきた様子を隠す事が出来ず、肩で息をしながら片目を閉じてはいるが、疲弊している姿をヌーに極力見せないようにと、懸命に前を向いて疲労を何とか堪えていた。


 そんな様子のテアをヌーは、寝たふりをしながら薄目を開けて見ていたが、胸中でテアに何度も何度も謝罪の言葉を口にしていたのだった。


(テア、すまねぇな……。こんな事させちまって本当にすまねぇ……。俺がもっと強ければ、お前にこんなしんどい思いさせねぇで済んだのによ……。情けねぇ、本当に俺は自分が、弱い自分が情けねぇ……っ!)


 気が付けばこれまで数千年間でたった数度しか流した事のない涙が、彼の目から一筋の雫となって頬を伝っていくのだった。


 ……

 ……

 ……

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