2144.ヌーとテアの関係性
ソフィとの『念話』を終えたヌーは、美味い食事の後の浮ついていた気持ちを引き締め直す事が出来たのだった。
(今の俺がブラストの野郎より実力面で優れているのは当然の事だ。俺だけが三色併用を使えるんだからな。だが、あの野郎の『魔』の概念理解度なら、俺やソフィと共に行動する事で何らかのキッカケ次第で直ぐに扱う事が出来る事になるかもしれん。今の俺はソフィに手が届くどころか、下手をすりゃ下に居る連中にも直ぐに追い抜かれるような立ち位置に居るのは間違いねぇ。このまま胡坐をかいてふんぞり返っているわけにはいかねぇ! まずはフルーフと『死神皇』を完膚なきまでに叩きのめし、盤石の強さをブラスト共に見せつけるのが先決だ……!)
ヌーはこの町で美味しい食べ物と、新たな調味料の発見に浮ついていた気持ちを掻き消し、さっさとクッケの町近くの山脈を確認次第、直ぐに研鑽を再開しようと決意を新たにするのだった。
「よし、テア! そろそろ食い終わったか! 食ったならさっさと出る……ぞ?」
勢いよく店の扉を開け放ち、テアに出立の準備を急かそうとしたのだが、彼の目に入ってきたのは涙目でこちらを睨んでいるテアの姿だった。
「――」(ヌー……! てめぇ、マジに私だけを置いて出ていきやがってぇ……! この人間と私がどれだけ苦労していたと思ってやがんだ!!)
テーブルの上に出る前と変わらずの量を残しているところをみるに、テアはゆっくりと味わおうと思っていた魚料理も食べられず、ヌーが出ていってから今までずっと店の主人と身振り手振りで意思の疎通を図ろうと健気に頑張っていたようである。
「や、やっと戻って来たのか……! お前さん、この子は国外なのかい? 話は通じないし、かといってお前さんの姿はなくなっているし、困っていたところだぞ……」
そして店主の方も姿がなくなっていたヌーが現れた事で、いきなりヌーの姿が消えて怒っているというよりは、テアの事が可哀想になって、彼女の代わりに苦言を呈した様子であった。
「あぁ、悪かったな……。ちっと大事な用があって席を外していたんだよ。そこに置いてあるのが俺らのだな? 代金もきっちり払うからよ、もう貰って行っていいか?」
「あ、ああ……。そりゃ構わねぇけど、本当に通常料金でいいのかい?」
店主は自分の店に多くの魚を残して行ってくれると約束してくれたヌーに、色々とサービスをしようと考えていたのだが、結局戻ってきたヌーに正規の料金を支払うと口にされて戸惑うのだった。
「構わねぇ。別にこの金もニーアって冒険者から渡されたモンだしな。全部やるから取っとけ」
そう言ってヌーは、手持ちの通貨全てを会計の机の上に置くと、テアの方へと歩いて行くのだった。
「ちょ、ちょっと……!?」
正規の値段どころの騒ぎではない程の金貨を渡された主人は、慌ててヌーを呼び止めようと声を掛けたが、そちらの方を無視してヌーはテアに声を掛けるのだった。
「テア、ワリィが飯の続きはソフィと合流してからにしろ。さっさとクッケの山脈の方を確認して奴の元へ向かう事にした」
「――」(何だ? この後に『ショーユ』って奴を扱っている商会を探しにグランとかいう町に向かうんじゃなかったのか?)
「ああ、それはもう今度でいい。そういう気分じゃなくなった」
「――」(そうか、分かった。じゃ、行こうか?)
ヌーが戻ってきたら文句の一つでも言ってやろうと考えていたテアだが、今のヌーの焦燥しきっている表情を見て直ぐに言葉を呑み込み、ヌーの気持ちに合わせる事にした彼女だった。
「ああ。――おい、さっきので代金は充分だったんだろ? 俺達はもう行くが、構わねぇな?」
「あ、ああ……。もちろん構わないが、本当に魚も金貨も、こ、こんなに貰っちまっていいんだな?」
「美味いモンを出してくれた礼だ。またこの町に来たら間違いなくここに足を運ぶ事になる。その時はまた美味いモン食わせてくれや」
「そ、そりゃモチロンだ! アンタもそこの嬢ちゃんの事もしっかり顔を覚えたぜ! だから、いつでも食べに来てくれ、あんたらなら大歓迎だ!」
「……ふんっ、じゃあな」
そう言ってヌー達は、お辞儀をして見送る主人に別れの言葉を告げて店を出るのだった。
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