2142.コーダの町を気に入った様子の大魔王ヌー
※加筆修正を行いました。
ニーアに紹介された食事処に貰った魚を持ち込んだ後、店主に魚を捌いてもらったヌー達は、遂に念願の港町の魚料理を口にするのだった。
流石は港町だけあって、ヌーがアレルバレルの世界に居た頃に食べた魚の味とは比べ物にならない程に美味であったようで、普段なら食事中はテアと会話を積極的に行うヌーも今回ばかりは、魚料理を食べるのに必死になっていた。
やがてテーブルの上に乗っていた料理の大半を平らげたヌーは、店主に付けてもらった酒をぐいっと呷ると、一気に呑み干して満足そうに溜息を吐くのだった。
「ここを選んで最高だったな……!」
「――」(ああ、最高に美味かった! 特にこれ、このタレが美味しさを倍増させてる。こんなの今までの世界で見た事もなかった)
「俺もだ。刺身自体も新鮮で美味かったが、こんなタレはこれまで出てきた事もなかったな」
そしてヌー達が食べ終わった頃を見計らって、奥から店主が出て来るのだった。
「そのタレの名称はショーユって言うんだとよ。最近隣町のグランで出来た『カーネリー商会』が扱い始めた商品らしくてな、この町にも商会の人間がきて宣伝がてらに置いて行きやがったんだ。それから一気にこの店にも客が増えて大繁盛ってわけだ。まだ他の店で使われてるところを見た事がないから、独自に編み出した商品なのかもしれねぇな。何やら商会も冒険者を多く雇って材料を集めさせているらしいから、単純な作り方じゃ出来ねぇ代物のようだな。もう残り少なくなっちまってきているから、今度来た時は本格的に卸してもらうつもりだ」
「ほう……? 『カーネリー商会』か。こんなすげぇモンを扱っていやがるなら、俺も名前を覚えておくとするか。次に来る予定とかは分かっているのか?」
「いや、予定自体は分からねぇが、グランの町ならここから目と鼻の先にある。近くに強い魔物が多く出る森があるから元々は危険な辺境の町だったんだが、最近は『破壊神』のおかげでグランにも強い冒険者も集まってきているから、今ではそこまで問題視はされてないが」
(また『破壊神』か……。ククッ! ニビシアでも冒険者共が言っていやがったが、ソフィの野郎は本当にこの大陸でも絶大な知名度が有りやがるんだな。ま、当然と言えば当然か。それにしてもショーユは個人的にも手にしておきたいところだな。クッケの町近くの山脈とやらを一目拝んだ後にでも行ってみるか。いや、その前にソフィの野郎に『念話』で伝えておくのが先決か)
このミールガルド大陸に向かった事で大魔王ヌーは、当初の予定より大幅にやる事が増えていくのを自覚しながらも、この大陸の魚料理と『ショーユ』に関しては、とても有用な情報を得たとほくそ笑むのだった。
「それでお前さん、奥にある大量の魚の事なんだが……」
どうやらそちらが本題だったようで、店主はおっかなびっくりといった様子でヌーに交渉を持ちかけようと話しかけてくるのだった。
「ああ、そうだったな。有用な情報をくれた礼に半分程くれてやるよ。その代わり次までに『ショーユ』を仕入れておくんだな。また俺達はここに必ず食べにくる」
「おお……、そうか! いやいや、この後に急に大口の客が来る予約が入ったもんでな。少しばかり余裕を持たせておきたかったから、とても助かるよ」
「そうか、ならついでにそっちも凍らせておいてやろうか? ある程度客共が来る時間が分かるなら、それに合わせて溶けるように『魔』で設計構築してやるが」
「え……!? そ、そんな事が可能なのか!? と、というかアンタ『魔法使い』だったのか! 俺はてっきり、その身なりだから戦士職だとばかり……」
「まぁ……、そんなところだ。それでどうする?」
かつてユファが数千年前にこの世界で行ったように、魔族に前衛も後衛もないと説明しようかと考えたヌーだったが、この世界の者達は、一部を除いて戦闘分野に関しては、アレルバレルの世界と比べて遥かに遅れているという事を思い出して、説明するのが面倒になった様子で適当に流すのだった。
「もちろん、お願いするよ! それとさっき捌いた分も無料でいいぜ? アンタらとは仲良くしておいた方がいいみたいだからな、がははははっ! それじゃ持ってくるから、ちょっとそこで待っててくれ!」
どうやら店の店主はヌーを相当に気に入った様子であり、上機嫌で店の奥に入って行くのだった。
「――」(あの人間が何て言っていたかは分かんねぇけど、お前の事を相当気に入ったみたいだな)
「知らねぇよ」
「――」(へへ。今のお前、めっちゃ嬉しそうな顔してんぜ? あの人間に気に入られて、本当は嬉しかったんだろ?」
「ちっ! 馬鹿な事言ってねぇで残りもさっさと食えや! ああ、俺はちっと外でソフィに『念話』をしてくるからよ、魚はお前が代わりに受け取っておけよ?」
「――」(は!? ま、待てよ! 私は神格を持っていない奴とは会話が出来ねぇんだって! あ、おい! マジで置いて行くなよぉ!!)
揶揄ってきたテアに意趣返しのつもりだろうか――。
ヌーはテアが慌ててテーブルの上の料理を口に運び始めるのを見て、邪悪な笑みを浮かべるとそのまま席を立ち、本当に店の外へと歩いて行くのだった。
このコーダの町が港町という事もあったが、それ以上にこの町の事を気に入った様子の大魔王ヌーであった。
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