2141.大好物を前にした大魔王
コーダの港町でニーアと別れたヌー達は、ニーアから譲り受けた大量の魚をこの町の食事処に持ち込む事にするのだった。
別れ際に魚を貰って嬉しそうにしていたヌー達に、ニーアが魚を持ち込めば格安で捌いて出してくれる店があると教えてくれたのであった。
どうやらニーアはヌー達が魚を受け取ってくれると口にした時から、魚を持て余させて困る事のないように路銀を渡そうと決めていたのだろう。あんなことがあったばかりだというのに、何処までも他人想いなニーアなのであった。
…………
やがてニーアに紹介された場所の食事処に辿り着いたヌー達は、早速店に入るなり持っていた大量の魚の入った籠を会計を行う場所の前に置き、店主に直接事情を説明すると二つ返事で了承をしてくれたのだった。
「ああ、それと悪いんだがよ? こっちの分は今俺達が食う用に捌いてくれ。それとこっちの分は持って帰りてぇから個別に用意してくれねぇか?」
「まぁ、それは構わねぇが……」
置かれた籠の中身の魚を指差しながら説明を行うと、店主は渋々といった様子で頷くのだった。
どうやら今食べると言われた方の分だけでも二人で食べる量ではない為、これだけ多くの魚を持ち込んだ時点で、捌いて食べ切れる分だけを自分達で食べて、残りはてっきり店に置いて行くつもりなんじゃないかと僅かながらに店主は期待していた様子である。
「しかしこれだけの量だし、早めに食べねぇと痛んで食えなくなると思うが、本当に持って帰るつもりのか?」
「ああ。その辺は考えてあるからよ、アンタは魚を捌いてくれりゃいい」
何とかして置いて行かせようと考えていた店主だが、頑なに持ち帰ろうとするヌーの態度に折れたようで、直ぐに用意してくると言って籠を奥へと持ち運んで行くのだった。
「――」(でもよ、ヌー? この後もまだクッケって町のある方角に向かうんだろう? 流石に持ち運んで行く前に一度事情を説明しにソフィさんのところに戻った方が良いんじゃないか? あ、それか前みたいに『念話』とかいうヤツで伝えておくとか)
「それもそうだな。魔法で凍らせておけばいいと考えてはいたが、急に持っていくのも迷惑かもしれねぇな」
「――」(な、なんかヤケに素直だな……? ま、まぁ、ちゃんと考えてるならいいけどさ……)
ヌーの口から迷惑かもしれないという言葉が飛び出してきた事でテアは、信じられないような目でヌーを見つめながらそう呟くのだった。
そんなテアの呟きすら耳に入っていない様子でヌーは、上機嫌に会計席の机をトントンと指で叩きながら、まるで子供のようにワクワクした様子を見せながら、魚が出て来るのを待つのだった。
どうやら相当に魚を食べられるという事に夢中になっていて、他の事が半分くらいしか頭に入っていない様子なのが今のヌーから容易に見て取れるテアであった。
(何だ……、てっきりソフィさんと魚料理やお酒を呑むのに何の抵抗もなくなったのかと思ったけど、単にこいつは刺身? とかいうのを楽しみで仕方ないってだけみてぇだな。ま、こいつらしくて可愛いからイイけどね)
テアは嬉しそうに調理場を眺めて静かに待っているヌーを見て、普段の態度との差を感じながらこちらも和んだ様子を見せたのだった。
…………
やがて店主が調理場へと入っていってからそれなりに時間が経ち、ようやくここで食べる用に捌いてきた魚料理をヌー達の元へと運んでくるのだった。
「待たせたな。種類も豊富で量も多いだろう? それに味も最高だろうぜ? あ、それと酒も付けてこようかと思ったが、アンタ飲める口か?」
「ああ、もちろんだ。熱燗で付けてくれ!」
「あいよ。それと持ち帰り用に捌いた奴は奥に置いてあるが、本当に全部持って帰るつもりなのか?」
「……どうすっか、魚料理が出て来るのが楽しみで野郎に聞いておくのを忘れちまってたぜ。人数分は確保しときてぇからよ、その話はもう少しだけ待ってくれねぇか?」
「お! 分かった。したらまた言ってくれや、ちょっとでも置いてってくれるなら、捌いた分の値段も更に下げてやるからよ!」
店主はヌーの気持ちが少しでも変わるようにとばかりに、そう言って嬉しそうに笑いながら奥へと引っ込んでいくのだった。
「まぁ、あんだけありゃ充分足りるだろ。それよりテア、ソフィに連絡するより先に食べようぜ。俺はもう我慢出来ねぇ」
「――」(はいはい、お前は本当に魚が大好物だもんなぁ? ま、私もお前のおかげで魚は大好きになっちまったけど)
もうテアの話よりも魚を優先したようで、ヌーはすでに魚料理を口に運びながら満面の笑みを浮かべていたのであった。
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