2139.筋の通ったヌーの言葉
「おい、さっさと起きろや」
「ん……?」
意識を失っていたリルドは、ヌーに頬を叩かれてゆっくりと目を覚まし始める。
「こっちを見やがれ」
「え……」
ヌーに言われるがまま、視線をヌーに向けたリルドだが、次の瞬間にはキィイインという音が周囲に響くと同時、リルドは目を開けたままで虚ろな目を浮かべ始めるのだった。
そして今回の乱闘の一戦の件と、後はニーアの要望通りに高ランク冒険者の常識というものをリルド達から取り除き、一般的な冒険者パーティの常識をニーアから伝えられたそのまんまの通りに『金色の目』を用いて、新たに植え付けるヌーであった。
『金色の目』で洗脳を施し終えた後、ヌーはぼんやりとした目を浮かべているリルドの意識を強引に魔瞳で遮断させると、ヌーはその場から立ち上がるのだった。
「よし、これで全員終わった。後はこいつらが目を覚ませばいつも通りの筈だ。俺と会ったという事実は完全に記憶からなくなっているがな」
「では、僕が言った事も……?」
「ああ。何だかよく分かんねぇ冒険者の常識だったか? それもてめぇの思惑通りに変えてやった」
ヌーからその言葉を受けて、ようやくニーアも嬉しそうにするのだった。
「俺は冒険者って奴らの事をよく分からねぇがよ、俺はてめぇよりはこいつらの考え方の方が理解出来るがな」
「それは、どうしてかな……? 仲間だったら難題に皆で話し合って解決を目指して、無事に終わったら皆で喜びを分かち合い、次も上手く行くように反省も行うのが普通……じゃないのかな?」
ニーアはヌーが自分よりもリルド達高ランク冒険者の考え方の方が理解が出来ると言われてしまい、嬉しそうな表情を一変させて持論を展開するのだった。
「そりゃお前の言っている事も分かるがよ、流石に毎回仕事が終わるたびに集まる必要はねぇだろうが。てめぇらは冒険者ギルドとかいう組織では高ランクと呼ばれている連中なんだろ? だったらミスをしても各々が失敗点を見つけ出して勝手に次に活かせば済む話じゃねぇか。俺から言わせりゃよ、そんな事も自分で考えられねぇ程度の低さで高ランクだっていう事に驚きだぜ。ハッキリ言ってやろうか? お前らの所属している冒険者ギルドってのは、全体的にレベルが低すぎる。正直言って俺が出会った冒険者ギルドの冒険者と名乗ってやがった連中は、例外なく全員が雑魚だ。よくもまぁそんな程度でここまで生きてこられたと感心するぐれぇだぜ」
「これでも僕達は努力してここまできたんだ。それにそんな直ぐに強くなれるわけじゃないし、皆で協力して良い所と悪い所を話し合って、次に活かそうとする事は決して悪い事じゃない筈だ……!」
「俺に噛みついてんじゃねぇよ。俺はお前の言っている事も分かるって最初に言っただろうが。だが今のお前の言葉に対しては、一つだけ言っておきたい。今のお前如きが結果を語るにはあまりにも早すぎんぞ。これでも僕達は努力をしてきた? そんなにすぐに強くなれるわけがない? ハナっから自分の限界を決めつけて物事を口にするんじゃねぇよ。そう言う言葉を吐くのはな、本当にやるべき事を全てやり遂げた者が言う台詞だ」
「――」(おい、もうその辺にしておけよヌー。お前だって偉そうに言える立場じゃねぇだろ? それに直ぐに強くなれるわけじゃないってのは、私には的を得ている話だと思うぜ?)
「そんな事は分かってんだよ! ただ、俺とこいつらとでは意味合いが全く異なっていやがるだろうが! この俺でさえ、上の連中に比べりゃ何も努力してねぇのと変わんねぇってのによ、こんな程度の奴らが努力をしてきたと自慢気に言っていやがるのが納得出来ねぇだけだ。この世界にも『精霊』の『理』がしっかりあるっていうのにどいつもこいつも『魔力値』が低すぎやがるし、誰もまともに研鑽してねぇ証拠だろうが! 朝から晩まで一日も欠かさずに数年程度でもしっかりこなしてりゃ、どんだけ元々の魔力値が低かろうとも、最低でも今の数倍から数十倍にはなってやがる筈だ。誰でも簡単に行える事でさえ不十分で居る連中に『努力してきた』とか『そんなに直ぐに強くなれるわけじゃない』とか言われたら、誰でも腹が立つのは当然だろうがっ!」
「!」
ヌーの真に迫るような言葉を聞いていたニーアは、はっとさせられるのだった。
(朝から晩まで毎日欠かさず『魔法』の練習。それを年単位で行う事は確かに難しい……。でもこの人は間違いなく実践してきたんだろうと思えてしまう……。確かにこの人からすれば、僕なんかが努力してきたとか、そんなにすぐに強くなれる筈がないって告げる言葉に反感の気持ちを抱くのも無理はないかもしれない。目の前で圧倒的な強さを見せつけられて失念していたけど、この人だって初めからこんなに強かったわけじゃないだろうし、ここまで強くなるのに相当な努力をして来た筈だ。そんな人の前で、僕みたいなのが努力がどうとか言う事が烏滸がましかったかもしれないな……)
彼はテアの言葉を聞き取れなかったのだが、それでもそんな彼女と話すヌーの言葉を横で聴いていて、確かに言っている事は間違っていないと結論に至ったニーアであった。
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