2138.後悔しない為に
「君が本当にソフィ君と親しいかどうかは分からないけれど、どうやら見た目ほどに悪い人という感じはしないから、君の言葉を信用する事にするよ。でもさ、本当にリルド達の記憶を失わせられるというのは可能なのかい?」
ニーアの含みある言い方に色々と思うところはあったようだが、ヌーはそこには言及せずに頷くのだった。
「ああ。俺とこいつらの力量差があれば、ここであった事を忘れさせるどころか、間違いなく自由自在に操る事も出来ると断言が出来るな。こいつらは相当に自分達が強いと思い込んでいたようだが、二度と戦場に立てなくなるような臆病者に性格を変えてやる事も出来るぜ?」
邪悪な笑みを浮かべながらニーアにそう告げるヌーだが、実際にそんな事をするつもりはなく、あくまでそういう事も出来る程の力量差が、こいつらと自分の間にはあるのだとニーアに伝えたかったようである。
「! そ、それは一時的にではなくて、半永久的に行う事も出来るのかい!?」
「あぁ? まぁ魔力の関係やら色々と問題はあるが、こいつら人間の寿命が尽きるぐらいまでなら、別に何も問題はねぇだろうな」
目の前の男に『そんな事は止めてくれ』と言葉にされると予想していたヌーは、まさか質問されるとは思わなかった為に、眉を寄せながら本音を口にするのだった。
「そ、それなら彼らの意識の一部を変える事は可能なのだろうか? たとえば普段と違う行動を取る事が当たり前の事なんだと思わせられるようにするとか……」
「ククッ! 何だ? てめぇこれまで真面目ぶってやがったが、てめぇもこいつらに何か含みがあったってワケか? 目的はこの気の強そうな女か?」
ヌーはそう言って杖を折った方の女性ではなく、最初にレオルに対して声援を飛ばしていた『エレナ』の方に視線を向けるのだった。
「ち、違うよ! 僕はそういうつもりで言ったんじゃない! ただ、少しだけ彼らと僕の間に簡単には分かり合えない冒険者としての常識が有ったようでね、それを何とかしてもらえないかと思っただけだ……」
辛そうに本音を語り出したニーアに、ヌーも冗談を続ける気が失せたようで、更に湿っぽい話になりそうだと舌打ちをするのだった。
「別にてめぇらの事情なんざ、少しも知りたくねぇが、出来るか出来ねぇかで言えば出来る」
話の続きを聞くつもりがないヌーは、ニーアが一番知りたがっている答えに対しての返事をするのだった。
「だがよ、その前に聞いておきたい事がある」
出来ると口にしたヌーに表情を明るくさせていたニーアだが、このヌーの口振りに何か難しい条件を言われるのだろうと、気を引き締め直すのだった。
「てめぇはソフィとは、どういう関係なんだ?」
…………
ニーアはヌーの行った質問に包み隠さずに、過去にあった対抗戦での話を交えながらソフィとの関係を告げたのだった。
説明を最後まで聞き終えたヌーは、一度目を閉じてニーアの話を頭の中で反芻させる。
(成程な……。確かにソフィは最初に何処の町にも冒険者ギルドはあると言っていやがったが、どうやら各町の冒険者ギルドで対抗戦を行う催しにあの野郎も参加し、その時に同じメンバーだったのがコイツだったというわけか。どうやら思った以上に面倒だな。ギルド対抗戦とやらがどんな規模の催しであったかまでは知らねぇが、組んだチームの仲間だったという事は、ある程度親しい相手だったという事は容易に想像がつきやがる。適当にこいつも操ってそのまま何食わぬ顔で去ってやろうかと考えていたが、あの野郎は間違いなく俺の残す『魔力』の残滓にも気づきやがるだろう。その時におかしな点があれば、奴は間違いなく俺を疑う筈だ。下手にこいつに手を出せば、後になって後悔するのは目に見えやがる)
このままニーアも『金色の目』で操り、何事もなくこの場を去ってやろうかとも考えていたヌーだが、どうやらその考えを捨てて希望通りにしてやった方が、後の事を考えても良いだろうと結論付けるのだった。
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