2135.大魔王ヌーVSAランクパーティの紅蓮の魔導
「ねぇ、ちょっとアンタ。そこ邪魔なんですけど?」
いつまで経っても道を譲ろうとしないヌーを見て、魔法使いのローブを着た顔立ちの整っている女性冒険者の一人が不満そうに声を掛けてくるのだった。
「あ? 目ん玉腐ってやがんのか? 邪魔なのはテメェらが横一列に並んでいやがるせいだろうが。それとも状況把握能力に乏しい馬鹿共だから、そんな事も他者に言われねぇと分かんねぇのか? 同じ人間でも奴らと比べてお前みたいな低能の馬鹿が居やがるから、俺もこれまで人間共を勘違いしてたんだよな。お前みたいな頭の足りねぇゴミクズを発見出来て、人間共も優れている奴は一握りなんだと再確認出来ただけでも、ここに来て良かったと思えたぜ。再認識させてくれてありがとな? そのままくたばりやがれ、低能のゴミクズ」
普段からどういう事を考えていれば、このように初対面の者に対してペラペラと暴言を吐けるのだろうか。
驚くほど流暢に罵詈雑言を吐き捨てたヌーに、直接言われた魔法使いの女性冒険者だけではなく、横一列に並んで歩いていたパーティメンバー達も一様に、唖然とした様子でヌーに視線を送り続けていた。
やがて女性冒険者と同じ先頭に立っていた細みの男が、他の者達より一足早く我に返った様子で口を開き始める。
「こ、これは驚いたな。俺達に対してそんな口を利ける奴がまだこの周辺に残っていたのか……。信じられない事だけど、もしかして君は俺達の事を知らなかったりするのか?」
「今初めて会った奴の事なんざ、俺様が知るわけがねぇだろう。そこの女だけじゃなくて、てめぇも足りねぇのか? もしかするとてめぇらは、馬鹿を集めて世界チャンピオンでも目指す滑稽な集団なのか? 悪いがよ、俺はあんまりこの世界の常識を知らねぇからよ、何が流行っていやがるのか全く分かんねぇんだよ。お前らを理解出来る奴らの前で、勝手に自分達の馬鹿さ加減を披露しといてくれや? こっちは迷惑なんだよ、足りねぇ馬鹿共が」
再びノータイムで若い冒険者に暴言を告げるヌーを前に、とうとう目の前の男だけではなく、他のパーティメンバー達も我に返った様子であり、各々が青筋を浮かべながらヌーを睨みつけるのだった。
「上等だ……。テメェは俺達『紅蓮の魔導』に正面切って喧嘩を売ってきたんだ。どうなろうとも、覚悟の上なんだよなぁ?」
筋肉隆々の男がそう口にすると、持っていた大量の魚が入った篭を道に投げ捨てて、指をポキポキとならしながら、ヌーの前に出て来るのだった。
ヌーは目の前に出てきて喋っている男を無視して、放り投げられて地面に散らばってしまった魚を見て、大きく舌打ちするのだった。
「オイ、てめぇ……! 今すぐにその魚を拾えや。食べモンの大切さも分かりやがらねぇゴミクズが……」
「あぁ? いきなり何を意味の分からねぇ事を言ってんだ?」
「レオル! きっとそいつはアンタにビビって、必死に話題を逸らそうとしているのよ! 構わないから、一発強烈なの食らわしちゃいなさいっ!」
先程ヌーによって黙らされていた女性冒険者のエレナは、余程に腹を立てていたのだろう。苛立ちながら、レオルに手痛い一撃を食らわせろと言い放つのだった。
「え、エレナ! 何を馬鹿な事を言っているんだ!? 君達も今すぐに止めるんだ! 僕達はグラン所属の『紅蓮の魔導』なんだぞ!? こ、こんなところで喧嘩をして、相手に大怪我でもさせてしまったら、僕達も徒では済まないんだぞ……!?」
後ろで茫然と眺めていた小柄な男は、何とか仲間達を止めさせようと自分達のパーティ名を使って叫んだが、仲間達は一向に止めようとはせず、それどころか『レオル』と呼ばれていた筋肉隆々の男に、どんどんやれとばかりに逆に応援の声を上げ始めるのだった。
どうやらニーア以外にこの喧嘩を止めようとする者は、この冒険者パーティ『紅蓮の魔導』の中には居ないようであった。
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