2132.朝の食事と六阿狐の紹介
台所での朝の騒ぎもようやく落ち着き、リビングではリーネと六阿狐が作った朝食が、ブラストの手によってテーブルの上に次々と用意されていくのだった。
普段であればまだソフィは部屋で寝ている時間ではあるのだが、先程の騒ぎの一件でソフィも目を覚ましたようで、現在はこの屋敷に居る者達全員がこのリビングに集まっていた。
六阿狐が『料理は自分で運びますよ』と口にしたのだが、ブラストは自分の勘違いで朝から騒ぎ立ててしまったことを反省し、彼女達の作った朝食を率先して運び始めたのだった。
そして全員分の朝食の準備が整い、運び終えたブラストにリーネと六阿狐が労いの言葉を投げかけると、そこでようやくブラストもほっとした様子を見せて首を縦に振るのだった。
ブラストが席に着いた後、ソフィが食事の挨拶を行うと、皆が朝食を取り始めるのだった。
「ところで気になっていたんだけど、ソフィ殿の屋敷には給仕を行う人物ってのは雇ったりはしていないのかい? 昨日もリーネ殿が私との話し合いの後に料理し始めていたようだけど……」
確かにこの広い屋敷でソフィとリーネを除けば、ブラストやユファにキーリといった居候達以外の姿はなく、昨晩も今朝もリーネが台所に立って料理を行っていた為、ヒノエは美味しそうに料理を口に運びながら、疑問に思った事を口にし始めるのだった。
「最初はレルバノンさんが気を利かせてくれて、自分のお城のメイドさん達を派遣してくれていたんだけど、食事だけはどうしても私が作りたいって無理を言って連れて帰ってもらったの。もちろん掃除に関しては私一人じゃ無理だから、今も週に何度か来てもらったりしているんだけどね」
ヒノエはリーネが自分で料理を作りたいと言った時の視線が、ソフィの口元に向いているのを見て、成程と心の中で呟くのだった。
「そういう事でしたか……。じゃ、ソフィ殿は毎日リーネ殿の美味しい手料理を食べられているってわけか」
ヒノエがそう言うとリーネは顔を赤くして俯き、ソフィは食べていた手を止めて代わりに口を開き始める。
「クックック、そういう事だ。それも我の好物をよく理解してくれていてな、我が食べたいと思った物を出してくれるから毎回驚かされておる」
「ふふ、そんな事言っているけど、ソフィにデザート代わりにレグランの実を出すと、手料理より嬉しそうな表情をするんだけどね」
「むっ、まぁそれはだな……、レグランの実だけは市場に流通しておらぬからだ。たまにレルバノン経由で手にしてもらう時以外に食べられぬのだから仕方あるまい……?」
「別に文句を言っているわけじゃないわよ? 貴方がレグランの実を死ぬ程愛している事なんて、グランの町に居た時から分かっていたしね」
その後も楽しそうに言い合っているソフィとリーネ達を見て、質問を行ったヒノエは食事を運ぶ手を止めて、何処か遠い目をし始めるのだった。
そしてそんな様子のヒノエを六阿狐が真剣に見つめていた。
(今更そんな顔をせずとも、貴方も分かっていた事でしょうに。この後にリーネ様が貴方にどういった結論の言葉を仰られるのかは分からないけど……、頼むから察しの良いリーネ様に心配かけるような態度だけは取らないでよね……)
六阿狐は昨日言い争いを行った相手であるヒノエに胸中でそう呟いたが、直後に何故だか今だけはヒノエに同情したくなる気持ちを自分が持っている事を自覚し、彼女は何とも言えない表情を浮かべるのであった。
(こういう時に限ってユファの奴は居やがらねぇし、少しばかり今は居心地悪く感じちまうな。どうやらこのヒノエって人間はソフィ様に大きな好意を抱いている様子だが、ソフィ様もリーネ様もどうお考えのつもりなんだろうか……)
そうしてブラストもまた、この場に居る全員の様子を見ながら片目を閉じて静かに溜息を吐くのだった。
…………
朝の食事を終えた後、ブラストは朝の瞑想を行うと言い残して自室へと戻って行った。
そしてリーネはそろそろ頃合いかといったような表情でソフィの方に視線を送る。ソフィもリーネがヒノエに結論の言葉を告げるという事を事前に伝えられていた為、こくりと頷いて見せるのだった。
「六阿狐よ、この後に時間はあるだろうか? お主に我の配下の『魔物』達を改めて紹介したいのだが」
「えっ!? は、はい!」
六阿狐も昨晩ヒノエからリーネの言葉があるという事を知らされていた為、このままリビングに残っていてはいけないだろうと考えていたのだが、まだソフィの屋敷に来て二日目で勝手気ままに行動するわけにもいかず、どうしようかと悩んでいたところにソフィに声を掛けられて渡りに船とばかりに頷くのだった。
そしてこの場にリーネとヒノエの両者だけが残されるのであった。
……
……
……
六阿狐を連れて外へと出てきたソフィは、ベア達を紹介しようと庭の方へと足を運び始めるのだった。
もちろんベアやロード達も彼らが出て来るのを察知していたようだが、ハウンドやベイルが我先にとばかりに駆け寄ってくるのがソフィ達にも見えた。
ハウンドたちがソフィの前に到着すると、飛び掛かるような真似はせずにじっとお座りの姿勢を取ったまま、ソフィに撫でられるのを今か今かと大人しく待つのだった。
どうやら嬉しいからといって、そのまま飛び掛かるのは止めろとでもベアに告げられたのだろう。ハウンド達はソフィの『名付け』が行われた魔物達のボスであるベアにも相当の信頼と忠誠心を持っているようである。
「クックック、昨日はあまりお主達に構っている時間はなかったからな。今日はここに居る新たにこの屋敷で暮らす六阿狐の紹介を含めてお主らと遊ぶ時間を取る事にしよう」
ソフィがそう告げるとハウンドたちだけではなく、庭に居た大勢の魔物達が一斉にソフィの周りに集まってくるのだった。
「と、とんでもない数ですね……! み、皆ソフィ様の配下の『魔物』達なのでしょうか!?」
「うむ、その通りだ。ここに居る者達はベイルを除き、元々は昨日行った町の近くの森の中に居た者達でな? そこに居るベア……、大きな熊のような姿をした魔物がその森のボスで一番最初に我が配下にした魔物だ」
「改めてよろしくお願いします……六阿狐殿」
「よ、妖狐の六阿狐です。よろしくお願いします」
昨日も一通り自己紹介を終えたベアと六阿狐達だったが、改めてこの場で自己紹介を行うのだった。
……
……
……
『ブックマークの登録』や『いいね』また、ページの一番下から『評価点』を付けていただけると作者のモチベーションが上がります。宜しければお願いします!