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2130.朝食を行う準備の一幕の中で

 ソフィの屋敷で迎える二日目の朝、最初くらいは皆で一緒に朝食を摂りたいと考えたリーネは、朝早く一人で起きて、全員分の朝食を用意しようと気合を入れてリビングに降りていく。


 欠伸をしながら部屋に入ったリーネは、明かりをつけようとしてそこで気配を感じて慌てて振り返る。


「ひっ!?」


 何と誰も居ないと思っていたリビングに、明かりもつけずに床に正座している者の影が目に入り、リーネは心底驚いた様子で声を上げるのだった。


「おはようございます、リーネ様!」


「お、おはよっ……、じゃないよっ! こんなに朝早くに明かりもつけずにどうしたの、六阿狐(むあこ)ちゃん!?」


 後ろ手に照明を付けながらリーネは、自分に向けて深々と頭を下げながら挨拶をしてきた六阿狐に、一体何があったのだと問いかけるのだった。 


「もうすぐリーネ様がお目覚めになられて、こちらに降りてこられるのではないかと思い、こうしてこちらでお待ちしておりました。勝手に部屋に入って良いのかは悩みましたが、居候の身で家主様が起きてこられる時にご挨拶が出来ない方が失礼ではないかと考えて、失礼を承知で台所で待たせて頂いておりました」


 六阿狐の言葉を聞いたリーネは、唖然としながらその場で固まるのだった。


「も、もしかして、明かりもつけずにずっとそうやって床で正座していたの!? い、一体いつから!?」


「正確な時間までは覚えておりませんが、そこまで長く居たわけではございませんので、ご心配なさらないで下さい」


 そう告げる六阿狐だが、普段リーネがいつ起きているかが分からなかった為、実は数時間前からここで正座して待っていたのだった。


 もちろん正直にそれを口に出せば、リーネの精神に更に負担を掛けさせてしまうと考えて、あえて覚えていないと口にしたのである。


「あ、あのね、六阿狐ちゃん……。ソフィは貴方に何て言っていたのかは分からないけど、居候だから家主より早く起きないといけない何て言う決まりはうちにはないの。もちろんちょっとくらいは家事を手伝ってもらったり、ブラストさんみたいに買い物を頼んだりすることはあるかもしれないけど、基本的には好きにしてもらっていていいからね……? ご飯が出来たら部屋まで呼びに行くから、明日からはこんな……、こんな真似はしないで?」


 最初は単に驚いていただけのリーネだったが、六阿狐が居候の身であるから家主より早く起きて待っていたのだと分かり、そんな事は気にしなくていいから自分の好きなように生活をしてくれと告げるのだった。


「いえ、そんな失礼な事は出来ません。ここに置いて頂いている以上、家事に掃除に雑用をするのは当たり前の事です。リーネ様、なんなりとお申しつけ下さい。最初はご期待に添えない働きしか出来ないかもしれませんが、必ずお役に立てるように努力を致しますので、どうかよろしくお願いします」


 ぽかんと口を開けながら呆然としているリーネの前で、再び床に手を付きながら頭を下げてそう告げる六阿狐であった。


 やがてリーネはずっと頭を下げ続けている六阿狐を見て、自分が何かを言わなければずっとこのまんまにさせてしまうのだと思い至り、慌てて口を開くのだった。


「わ、分かったから、頭を上げて頂戴! そ、それなら、今から皆の朝食を作るから、む、六阿狐ちゃんにも手伝ってもらってもいい……?」


 リーネが恐る恐るそう口にすると、六阿狐は顔を上げながら明るい表情で頷くのだった。


 …………


 これまでのソフィの屋敷での一日の始まりは、今日のようにまずリーネがリビングに降りてきて朝食の準備を始め、二番目に起きてくるユファが、リーネの手伝いを行っていた。


 そしてそうしている内にキーリやブラストも降りてきて、最後に朝食の支度を終えたリーネが、部屋に戻ってソフィを起こしに行くというのが朝のルーティンであった。


 もちろん常にユファやキーリがこの屋敷に居るわけでもない為、あくまで全員が揃っていた時の話ではあるが、それでも今回のように、リーネよりも早く誰かがリビングで待っているという事はこれまでなかった為、リーネは六阿狐が起きて待っている事に心底驚いたのであった。


 現在二人は仲良く会話をしながら全員分の食事の支度をしていた。


 当初はリーネも自分が中心に料理を行い、六阿狐には軽い雑用をこなしてもらおうと思っていたのだが、準備を始めて直ぐに六阿狐が、自分にも手伝わせて欲しいと口にした為、どれくらいの腕前なのかを見てみようと包丁を持たせてみると、驚く程の器用さで包丁を捌いて見せて、何でも一通りの料理を任せられるのだと理解したリーネは、背が低い六阿狐の為に椅子の土台を用意した後に並んで料理をするのだった。


 最初は六阿狐も畏まった言葉で会話を行っていたのだが、徐々にリーネと会話をしていく内に、少しずつ彼女もリーネに心を許し始めていき、料理がもうすぐ出来上がるといった時には、もう二人は遠慮なく笑い合えるようになっていた。


 しかしリーネに慣れた様子であった六阿狐だが、唐突に料理の手を止めて真剣な表情を浮かべ始める。


「ん……? 六阿狐ちゃん、どうかした?」


「いえ……」


 これまで楽しそうにしていた六阿狐が急に黙り込んだために、不審に思ったリーネが声を掛けてみると、彼女は固い表情を浮かべたまま、何もないと首を横に振って見せるのだった。


 しかし明らかに何かある様子であった為、リーネも手を止めて六阿狐の方に体ごと向け始める。


「何か、私に言いたい事があるのね? その様子を見るにとても大事な話みたいだけど……、今は私以外に誰も居ないんだし、遠慮せずに言って頂戴?」


 リーネは優しくそう告げて、にこりと微笑んで見せるのだった。


 その柔らかな表情を目の当たりにした六阿狐は、非常に居心地の良さを覚えながらも、こんなに素晴らしい女性を悲しませるのは嫌だと改めて考えて、ヒノエの事を話すかどうかで悩み始めるのだった。


「間違ってたらごめんなさい。もしかして()()()()()()()かしら?」


「!?」


 何とか誤魔化せないかと考えていた六阿狐に、リーネの方からヒノエの話題を出されて驚いた目を向けてしまう六阿狐であった。


 ……

 ……

 ……

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