2128.仲睦まじい夫婦の会話と、険悪なヒノエと六阿狐の会話
「お主が言いたかった事は充分に理解が出来た。お主は自分と同じくらいに我の事を想ってくれておるヒノエ殿に、自分の気持ちを託す事で我と共に在ろうと考えたという事だろう?」
上手く言語化が出来なかったリーネだが、今の言葉を受けて正しくソフィに伝わっていた事を知り、脱力するように全身の力が抜けていき、そのままソフィに身を預けたまま笑みを浮かべるのだった。
「ふふっ、流石はソフィね。こんな感情に任せてでしか伝えられる事が出来ない私の少しの言葉から、ちゃんと読み取ってくれて感謝するわ。でも本当にヒノエさんはそれくらい貴方の事を想っているって話していて分かったの。だから私は、この人なら貴方を任せられるって思ったんだよ。だから、どうかな……?」
ソフィの腕に包まれながら、そっと上目遣いでリーネはソフィに尋ねるのだった。
「うむ……。我もヒノエ殿を気に入っている事は間違いない。お主の気持ちを知った今は、これまで以上にヒノエ殿とそういうつもりで接してみようと思う」
「ええ、もちろん最初から貴方にその気がなければ、最後まで話すつもりはなかった。でも貴方がノックスの世界で過ごしてきたヒノエさんの事を話している内に、段々と最後まで話してみようって思ったの。聞いてて少し妬けちゃったけどね」
「クックック……。強引に話をさせておいて、言うではないか」
「当然でしょ? 私は貴方の妻なんだから」
皆が寝静まった深夜での二人の時間は、この後もベッドの中で続いて行くのであった。
……
……
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話は少しだけ遡り、屋敷でソフィ達の夕食が済んで少し経った頃、宛がわれた部屋のベッドの上でヒノエは一人、昼間にリーネに言われた事を思い出していた。
「結論をまだ出さず、今夜だけ待ってくれ……か。本当にリーネ殿は懐が深い人だな。ほんと……、そういうところまで副総長にそっくりだ。案外リーネ殿が副総長と同じぐれぇの年齢になった時、色々と堅物にならないか心配になるな」
ヒノエは成長したリーネが、あの妖魔退魔師副総長のミスズと同じような性格になり、似たような眼鏡を掛けながら、何度もズレ落ちるのを直している様子を想像して、夜に一人腹を抱えて笑い始めるのだった。
そしてそんなヒノエの部屋をコンコンと、小さくノックする音が聞こえてくる。
「……はい?」
ノックが聞こえる少し前から気配は感じ取っていたヒノエは、すでにベッドのシーツに忍ばせている刀を引き寄せながら、声に態度を出さぬように慎重にノックに対する返事をするのだった。
「六阿狐です。まだ起きておられたご様子ですが、少しだけ私に付き合ってもらえませんか?」
ヒノエは身体を起こしながら、まだ返事をせず、どういうつもりで六阿狐が来たのかを頭で考え始めるのだった。
(六阿狐殿がこの世界に来る前から、私の事を好ましく思っていないのは存じていた。ソフィ殿にはリーネ殿という奥方が居るのに、この世界に押しかけてまで我を通そうとしている私の事が気に食わねぇんだろうが、その事を話しに来たのだろうか? ここはソフィ殿たちの家だから、実力行使をするような馬鹿な真似は流石にしねぇと思いたいところだが、念には念を入れておくか……)
そう考えたヒノエは枕元に愛刀を置いたまま、腰に脇差を差して万が一に備え始める。
「ああ、入ってくれて構わねぇが、生憎と枕は一つだ。寂しくて私と一緒に寝たいと思ってきたんなら、自分の枕を持ってきてからにしなよ?」
「……話が終われば直ぐに戻りますので、その必要はありません」
言葉遣いは丁寧な六阿狐だったが、扉を開けて中に入ってきた彼女の表情は非常に不機嫌……というよりも不愉快と表した方が近い顔をしていた。
「そうかい? まぁ折角ソフィ殿達が、こんなにも上等な部屋を一人一人用意してくれてるんだしな。そりゃ使わねぇと失礼だよな?」
ここまでずっと冗談を交えながら笑顔を作っているヒノエだが、その右手はいつでも愛刀に手を伸ばせる場所に置いてあり、唐突に高ランクの『妖狐』として彼女が襲ってきたとしても、直ぐに対応が出来る準備は継続中であった。
「何をそんなに怯えているのでしょうか? 少し私が話をしようと部屋を訪ねただけで、そのようにご自慢の愛刀を手繰り寄せようとするなんて、案外貴方は臆病者なんですね? 妖魔退魔師組織の一つの組を束ねておられる組長とはとても思えません」
「ああ、悪いな? 今はもう私は組長どころか、妖魔退魔師ですらないものでね。それで? そんな臆病者の部屋に現れて、一体アンタはどういう話をするつもりだったんだ? やっぱり大事な大事な妖狐の主様である『王琳』殿や、アンタと同じ妖狐の『五立楡』殿と離れ離れになって、夜に一人になって寂しくて話し相手を探しにきたのかよ?」
「チッ……!」
どうやらヒノエの軽口は存外にも六阿狐には覿面だったようで、彼女はこれみよがしに舌打ちをして聞かせるのだった。
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