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2127.愛しているからこそ

「だからね、ヒノエさんの想いを受け入れてあげられないかしら?」


 普通であれば正妻の立場に居るリーネが、こんな風に別の世界から連れて帰ってきた女性を許すどころか、受け入れろとは言わないだろう。


 ソフィもそう思っていたからこそ、ノックスの世界でヒノエから告白を受けた時も深く考えずに断ったのである。


 確かにリーネに言われて改めてヒノエとの思い出を振り返った時、リーネという正妻が居なければ受け入れたかもしれないと考えられる程には、ソフィもヒノエの事を気に入り始めている。


 しかしだからといって、リーネの本当の気持ちが分からない現状では、直ぐに結論を出すわけにもいかないと考えたソフィであった。


「……我はリーネが寿命を全うするまで、共に在り続けようと考えている。そんな気持ちを抱いてるからこそ、今一度お主の本音を聞いておきたい。何故、そこまでしてヒノエ殿を我の相手と認めて迎え入れようとしておるのだ?」


 ソフィの問いかけに直ぐにリーネは微笑み始める。


「ソフィ、私はね? ずっと貴方が居ない時も貴方の事を一番に考えて生きているの」


 先程の問いかけの答えとしては、あまりにもかけ離れたその言葉に、ソフィはこの後に話す前置きなのだと直ぐに気づいて静かにリーネのその続きの言葉を待つ。


「本当は家でずっと待っているだけじゃなくて、貴方が貴方の大事な仲間達を探しに行く時もついて行きたいって思ってる。もちろん夕飯の時に教えてくれたように、ノックスの世界でも色々と大きな危険があったみたいだし、私なんかが付いて行ったら貴方の助けになるどころか、単なる足手まといにしかならいのは分かっているんだ。貴方に迷惑を掛けるためについて行くぐらいなら、寂しくても家で待っている方が良いのも分かってる。だからこれまでは、ずっと口に出す事はせずに黙っていたけれど、本当は貴方が心配で仕方がないの。いくら貴方が強くて大丈夫なんだって分かっていても、今回の世界で聞いた話や、貴方がこの世界に来る事になった要因って言っていた『煌聖の教団(こうせいきょうだん)』の総帥って人が使った手法で、貴方が私の元に戻ってこれなくなったらどうしようって不安が、私に常に付き纏っている……」


 リーネは本心からそう思っているのだろう。先程までとは違う険しい表情を浮かべたまま、ソフィの目を見ながらそう告げるのだった。


「そんな事をこれまでずっと考えていたんだけど、今回貴方がヒノエさんを連れて戻ってきた時、直ぐに私はヒノエさんが私と同じくらいに貴方の事が好きなんだろうなって気づいた。目がね、ずっと貴方を追っているのが分かったから。それでソフィ達が出ていった後、直接ヒノエさんと貴方の事について話し合ったの。やっぱり私が思っていた通り……、いやそれ以上に貴方の事を愛していたみたい。でも最初は私を慮ってか、私に遠慮するように身を引こうとしたから、つい私もかっとなって逃げるなっていう気持ちを込めて色々言っちゃった」


 昼間の事を思い出したのか、ソフィに言って聞かせながらリーネは、顔を赤くし始めるのだった。


「ふむ……。お主も見た目からは分かり難いが、非常に気が強いところがあるからな」


 クックックといつもの聞き慣れた笑い声を耳にしながらリーネは、小さく溜息を吐きながらも最後には笑う。


「でもお互いに本気でぶつかり合う事が出来たから、ヒノエさんが本気でソフィの事を愛しているんだっていう事を理解できたの。だからこそどういう気持ちで身を引こうとしていたのかも……ね。ヒノエさんはきっと今回駄目だって判断したら、もう二度と貴方に想いを告げる事はしない筈よ。そして自己紹介をしてくれた時に話に出てきた『妖魔退魔師(ようまたいまし)』っていう剣士……? としての立場で、貴方の魔王軍で死ぬまで尽くすつもりでしょうね」


 その事はソフィもすでにノックスの世界で本人から聞かされていたが、どうやらリーネにもヒノエは同じ事を話していたらしかった。


 そしてソフィはリーネの結論を急かすような真似をせず、そのままじっと話に耳を傾け続けるのだった。


「彼女は私と同じくらい貴方の事を愛している。そして魔王軍に身を置こうとするくらいだから、きっとヒノエさんは相当に強いのだと思う。私と同じくらい貴方の事を想っていて、そして私と違って足手まといにならずに貴方の傍であなたを守れるであろうヒノエさんを私は認めたの。家で無事を願う事だけしか出来ない私じゃなく、ヒノエさんなら何かあった時に、私の代わりに貴方を守ってくれるんじゃないかって……」


 本当なら直ぐに結論を話す事も出来ただろうに、リーネはソフィに自分の気持ちの本質を伝える為に、順序立てながら説明をしていく。


 やがてリーネは自分がその立場になった時、ヒノエのように守れない足手まといなのだという事を自分の口に出した事で改めて自覚したようで、悔しそうに涙を浮かべ始めながら続ける。


「わ、私が、貴方の傍に居られなくても、私と同じくらい貴方の事を愛してくれるヒノエさんが、貴方を守ってくれたら、きっと私も気持ちが救われる……かなって……、ぐすっ、あ……あれ……?」


 本当であれば自分がソフィの隣に並び立ち、彼を守れるくらい強く在りたいと願っていたリーネだったが、自分がどうにか出来る話ではない事を理解し、同じぐらい強い気持ちを抱き、自分とは違って強さを持ち合わせているであろうヒノエに、自分の気持ちごと連れて行ってもらおうと考えてこの話をソフィに持ち掛けたようである。


 しっかりとリーネの言いたかった事を理解したソフィだが、十代半ば頃である彼女が出す結論にしては、あまりにも考え方が達観しすぎている。


 だからこそ、リーネ自身が自分でもよく分からずに涙を流している本質にソフィは気づき、彼女の優しさと自分に対する想いの強さに胸が締め付けられるような感覚を覚えると同時、リーネに対しての愛おしさがこみ上げて再び彼女を胸に抱き入れるソフィであった。


 自分が泣いている事に気づいて動揺していたリーネだったが、唐突にソフィに抱き寄せられて更に驚きに包まれる事となるのであった。


 ……

 ……

 ……

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